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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 鈴白村の端に建てられた教会はいかにも教会といった外観で、中に足を踏み入れると天井は高く、ステンドグラスが光を集め輝き、どこから取り寄せたのか立派なパイプオルガンまであった。

 ちなみにこのステンドグラス、通常は半年ほど製作期間が必要なものだが、藍染村の職人さんたちが集結して僅か二か月で仕上げた血と汗の感動の代物である。

 正武家当主と次代から振られた無茶振りに五村の職人さんたちは総出で巻き込まれ、大雪の中馬車馬のように働かされた。

 日本家屋ならばお手の物だけれど、教会に一軒家、そしてホテルである。

 慣れない作業に四苦八苦しても期日までに仕上げてくれた職人さんたちは余程優秀な人たちの集まりなのだろう。


 そして巻き込まれたのは職人さんたちだけではない。

 鈴白村小中学校もである。

 少年少女たちは急遽聖歌隊に任命されて、合唱の練習を強制され、音楽の先生はパイプオルガンの扱いに悲鳴を上げて、本番では澄彦さんの友人のピアニストの方が来てくれることになっていた。

 今回の結婚式に出席するにあたり、正武家では新たに冠婚葬祭の着物を誂えたのだけれど、御用達の君島呉服店の店主と雑談をしていた澄彦さんが、そう言えばアイツ、パイプオルガン弾けるよな、と言い出して呼び出された格好だ。

 前日に鈴白村にやって来たけれど、正武家屋敷は気味が悪いとその方が言うので、ホテルの第一号のお客様となっている。

 澄彦さんが言うには全く普通の人間だけれど、芸術家という人種は直感が優れているのでそういうこともあるらしい。

 言われて見れば以前蘇芳さんのお寺に持ち込まれた掛け軸も、不穏な事を伝えずに古美術商に売り払おうとしたらその人の画家の奥さんが気持ち悪いといって門前払いをされたと言っていたっけ。


 せっかく教会での結婚式なのに私は用意された留袖を着付け、同じく紋付き袴の玉彦と多門が運転する車に乗り込んだ。

 澄彦さんは須藤くんともう先に教会入りしている。

 この日ばかりは正武家屋敷は全員留守となり、最後に出発する玉彦が裏門を閉めた。


 教会へ向かう道中、私はワクワクよりもソワソワしっぱなしでエドワードが何かをやらかすのではないかと気が気ではなかった。


 須藤くんと多門には不測の事態に備えてすぐに動けるようにと言っておいたのでなんとかなるだろうけれど、心配事は尽きない。

 最終手段でエドワードがおかしな動きをしたら眼で止めてしまおうと思う。


 教会に到着した私たちは新郎新婦の控室ではなく、ゲスト控室に通されてそこで一息。

 がやがやとする廊下に首を伸ばせば、そこには本日のリングガールを務める希来里ちゃんやフラワーガールに任命された亜由美ちゃんの子供の頃を彷彿とさせる雰囲気の芳乃ちゃんとふっくらがチャームポイントの莉愛ちゃんがいて、ベールボーイ役の美少年リチャードくんを囲み盛り上がっている。

 本当はもう少し幼い子供にお願いするのだけれど、亜由美ちゃんが知っている子に頼みたいと言ったので少女たちが選ばれていた。

 そこにエドワードの姿はなく、きょろきょろ探せばゲストの案内に奔走しているのが目に入った。

 これだけバタバタしていればエドワードも亜由美ちゃんにちょっかいを出すことは難しいだろう。

 しかし私は念には念を入れて、亜由美ちゃんの足元に黒駒を派遣している。

 おかしな匂いの飲み物を新婦が口にしないように阻止! と厳命をしておいたのだ。


「比和子。竜輝を見かけなんだか」


 廊下を窺う私の背後から玉彦がひょいと顔を出し、辺りを見渡しても竜輝くんの姿はない。


「新郎の控室にいるんじゃない? 行ってみる?」


「いや、式が終わった後でも構わぬ。明日は気張り過ぎずにと伝えるだけだ」


「明日受験って竜輝くんも大変よねぇ……」


 ほうっと溜息を吐いて私は玉彦を見上げた。


「竜輝のことだ。心配は何もあるまいて」


「そうだよね。竜輝くんだもんね」


 玉彦に信頼をされ、稀人としても期待されている竜輝くんはしかし、厳かに始まった式に姿を現すことは無かったのである。




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