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「テッドも受験だから一緒に勉強させようとしたんだが、レベルが違い過ぎてね。タツキに対して癇癪を起してしまったんだよ。美山高校の進学クラスはそんなに偏差値が高いのかい?」
ジョンさんの疑問を受けてようやく澄彦さんは自分の思い違いに気付き、私とは違う意味で苦笑いを浮かべた。
「いや、横浜の進学校に進もうとしていたなら問題はないはずだよ」
「なら一安心だ」
笑い合った二人の間に私は口を滑り込ませた。
「竜輝くんに対して癇癪って」
「テッドが勉強の邪魔をしようとしてしまってね。足を引っ張ろうとして情けない息子だ。でもタツキに簡単にあしらわれて木に吊るされてたよ。HAHAHAHAHA」
「あはは……」
あの竜輝くんがそんなことをするだなんて。
二月の真冬、しかも雪ん子が降らせた雪が降り積もる外の木である。
これはかなりストレスを溜め込んでいるぞ、と私と須藤くんは目配せをした。
一週間後。
ついに豹馬くんと亜由美ちゃんの結婚式の日がやって来た。
あれからエドワードは不気味なほど大人しく、お屋敷で過ごしていた私には彼の不穏な動向は耳に入っては来ていない。
竜輝くんの陣中見舞いに御門森のお屋敷へ行こうとも思ったけれど、今はラストスパートであろうという玉彦の心遣いがあり、行かずじまいだった。
叔父の結婚式には出席するだろうから、その時にでも激励をしようと思う。
受験が終われば須藤くんが竜輝くんのストレス解消のために色々と計画をしてくれているようなので、お任せしようと思う。
そんな結婚式当日の朝餉の席。
澄彦さんにエドワードが某映画の真似をして亜由美ちゃんを連れ去ろうとしていた、と話をすればお腹を抱えて笑った。
「面白いじゃないか。どうして反対しちゃったの、比和子ちゃん」
「だって亜由美ちゃんにとってずっと夢だったウェディングドレスの結婚式ですよ? ぶち壊されて堪るかって感じですよ」
それに私のせいで延期が繰り返されてしまっていた結婚式である。
何としても成功させなくてはならない。
「神父さんが名乗り出よ、って言ってもその資格がないことを教えておきましたから大丈夫だとは思いますけど!」
面白がる澄彦さんに若干プンスカして答えると、ん? と眉を上げてきょとんとする。
「何かおかしいこと言いました? 私」
「映画を模倣しようとしたならそこで名乗り出はしないだろう?」
「玉彦の話だと宣誓が終わった後に元カレが飛び込んできてって話でしたけど。私もそう記憶しています」
「宣誓後に連れ去るのは卑怯だと俺は言った」
「ケツが青いなぁ、二人とも。あの映画のクライマックスはそこじゃないんだよ。恋人が飛び込んでくるとこは重要じゃないんだよ」
「えっ?」
「なんだと?」
したり顔でニヤリと笑う澄彦さんは驚く私たちを見渡す。
「パロディとかでそこばかり注目されてるけれど、そこじゃないんだよ、見どころは。神に誓ったにもかかわらず、それに背いて貫く愛ってやつが重要なわけ。だからヒロインが母親に誓いが終わってるからもう遅いって言われて、自分には遅くないって返すところがクライマックス。向こうでは宗教観が根付いているからこそ伝わる二人の愛なんだよ」
ケツが青いと言われた玉彦は眉を顰め、私は目が点になった。
もしエドワードがその事を知ってしまったら、どうするだろうと考えずにはいられなかった。
誓いが終わってからが本番。
でも惚れ薬は失敗していたし、亜由美ちゃんが彼に応えることは万が一にもない。
しかし……。
絶対に何かを企んでいると踏んだ私は朝餉の後に須藤くんと多門を個人的に招集したのだった。




