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翌朝。
朝餉の席も一緒だったスミス一家は午前中に御門森の宗祐さんが迎えに来てくれるまで離れで寛いでいた。
兄弟は二人で探検に繰り出し、事務所で顔を合わせた松梅コンビに悲鳴を上げて、外では竹婆と鉢合わせをして青褪めて戻ってきて、再び探検へと飛び出していく。
私は兄弟がいない間、ジョンさんとジュリアさんとお話をしていた。
これからジョンさんは教会で働き、ジュリアさんは四月を待って美山高校で英語の先生をするのだそうだ。
美山高校では今年度で定年を迎える先生が五人もおり、人員不足になる、ということは耳にしていた。
鈴白村に住むのだから鈴白の小中学校で勤める案もあったが、それだと鈴白の子どもたちだけが恩恵に与ることになるので、澄彦さんは高校で、と決めたらしい。
ジュリアさんはどちらでも良かったとは言うけれど、本当は長男のエドワードが入学する美山高校で何かやらかすんじゃないかと心配していたこともあり、澄彦さんの采配は間違っていないようである。
ジュリアさんと私が会話をしているのをニコニコ笑顔でのみ参加していたジョンさんは、こうしてみると本当に普通の人だった。
エクソシストとして活躍していると聞いていたので、もっと目つきが鋭いとか普通の人とは違うものがあると思っていた私は肩透かしを食らった感じだ。
でもこれが当たり前なのかもしれない。
澄彦さんも玉彦もお役目のオンオフがはっきりしているし、稀人たちだって終始気を張り詰めている訳じゃない。
いつか彼がエクソシストとしてお仕事をする場面を見学出来れば良いな、と思うけれど玉彦は大反対しそうではある。
それにしても、と私は思う。
夫がそういうお仕事をしていることについてジュリアさんはどう思っているのだろう。
込み入った事情で引越しをして来たので知らないはずはないだろう。
子どもたちはどうなのか。
数々の疑問はあるけれどまだプライベートに踏み込めるほど仲良くはなっていないので、私はいつか聞いてみようとそっと心に仕舞った。
スミス一家はまずはこれから生活の為に奔走することになり、本格的に動き出すにはまだ時間が必要だろう。
その時に聞いても遅くはない。
それまでは私は知らないフリをして子どもたちが何か私に探りを入れて来ても知らないと答えるに尽きる。
エクソシストの才能に目覚めるかもしれない子どもたちを教会から離したことを考えれば、そう言ったことを両親は子どもたちの耳に入れたくはないのだろうと思ったからだ。
澄彦さんと玉彦、そして稀人たちはそれぞれの間でお役目があり出払っていて、一家をお屋敷から送り出す役割は私に任されていた。
お迎えに上がる宗祐さんは予定通りの十時に裏門へ到着し、紗恵さんと亜由美ちゃんも一緒だった。
亜由美ちゃんは自分たちの為にわざわざ引っ越しまでしてくれた一家に挨拶をせねば、と村役場をお休みしてきたそうだ。
宗祐さんは以前のお役目にてジョンさんと面識があったので、ジュリアさんを交えて裏門前で三人で立ち話をしている。
十時には探検を切り上げて裏門へと来るようにと言われていた兄弟はまだ姿を見せず、私は亜由美ちゃんと話ながらチラチラと離れの方へ何度も目をやっていた。
「どうしたん?」
「いやー、探検ごっこに出た息子二人が来ないと移動できないんだけど、来る気配がないんだよねぇ」
「迷子になってるんじゃないん?」
「玄関に靴が無いから外に出てるんだろうけど。塀伝いに歩けば戻って来られると……あっ。来た来た」
噂をすれば影、という言葉そのままに兄弟が本殿の方向から姿を現し、こちらに大人たちが集まっていることに気が付いたリチャードくんは母親に駆け寄って抱き付き、そしてエドワードは滑り込むように亜由美ちゃんの前に片膝を付いて見上げた。
「エドワード・スミスです。貴女のお名前は?」
キラッキラッとした金髪美少年は昨夜私に見せた俺様な態度は微塵も見せず、白い頬を若干赤く染めてしどろもどろの亜由美ちゃんに片手を差し出した。
え、何だか嫌な予感がするんですけど。
亜由美ちゃんはどうして良いのか解らない様子で差し出されていた手に右手を乗せた。
「御門森亜由美です?」
「アユミ。結婚を前提にお付き合いをしてください!」
「おいっ!」
私は突っ込みと同時に思わず振り上げた拳骨をエドワードの頭に落とした。
しかしエドワードは私に目もくれずに真っ直ぐ真剣に亜由美ちゃんを見つめ、そして亜由美ちゃんは固まっていた。
「亜由美ちゃん、亜由美ちゃん!」
「へっ!? あっ、ああぁ」
私の呼びかけに時を戻した亜由美ちゃんはサッと右手を引いて胸の前で握り締めた。
「うち、もう結婚しとるんよ。だからお付き合いは出来ません。ごめんね」
亜由美ちゃんの返事に目を見開いたエドワードはどういうことだと言う風に私を見る。
どういうことも何もあんたのお父さんは豹馬くんと亜由美ちゃんの結婚式の為に呼ばれたのよ、と私が説明をすれば、エドワードがそうだったのかと肩を落とした。
けれど彼はめげずに立ち上がり、亜由美ちゃんの両肩を掴んだ。
「まだ神の御前で誓いを立てていないのなら、結婚は成立してないから大丈夫!」
「何が大丈夫なのよっ。このおバカッ!」
着物の裾を肌蹴させエドワードに蹴りを入れた私を、少し離れた場所にいた宗祐さんが慌てて止めに入った。
これはエマージェンシーだわよ、豹馬くん。




