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信教の自由とは国際的にも日本的にも規定されていて、ぶっちゃけ庭に転がっている石が神様だと信じて信仰しても良い。
五村には神社やお寺があり、そこに教会が増える。それだけのことだと玉彦は言う。
「澄彦さんはどこまで知ってて動いていたの?」
「……スミス神父が教会から離れた時からだそうだ。行く当てがないのなら五村へ来いと言っていたそうだが、教会がスミスを陰ながら利用していたこともあり、難儀していたようだ。それにここで外国人を受け入れるには様々な問題があった」
「ただでさえ排他的なのに外国の人って言うとねぇ……」
中学一年生の私は夏休みだけということで鈴白村にやって来たので、あまり感じることは無かった。
すぐに友達になってくれた亜由美ちゃんのお陰でもあるし、何よりも玉彦が執着していたので村民は大っぴらに何かを言って来る事はなかった。
しかも惚稀人になってしまったものだから、それだけで周囲の目は温かかった。
けれど村外から嫁いできた光次朗叔父さんの奥さんの夏子さんは当初かなり馴染めず苦労したそうだ。
何をしても村の人じゃないから、と言われ続けて数年でようやく馴染み、希来里ちゃんが産まれてようやく認められたらしい。
稀人の南天さんの奥さんである紗恵さんも村外から嫁いできた人だけれど、彼女の場合はちょっと待遇が違っていた。
御門森の跡取りの南天さんのお嫁さん、ということでまず一目置かれ、村の集まりに参加する九条さんに毎回連れられていたものだから、村民は素直に受け入れざるを得なかった。
たぶん一つ陰口を言えば、九条さんから千を返されることを恐れての事だろうと思う。
彼女たち、外から来た人間にとって最初の味方は夫とその家族である。
私のお祖母ちゃんは夏子さんの事を大層気に入っていて、村にはいつか馴染めるから、と励ましてくれたそうだ。
しかし同じ外から来る人間とはいえ、スミス一家に最初の味方はいない。
正武家の知り合いで引っ越してきた、と言えば話は早いが、結局はそういうお仕事の人間であると警戒されて、表だった村八分にはならないものの馴染めずに終わると思う。
けれど、である。
次代の稀人の豹馬くんの為、そして当主が言い出した実に迷惑な思付きで建てられた教会の為に横浜という都会を捨てて、家族で鈴白村に引越しを余儀なくされた巻き込まれ神父一家、と言えばどうだろうか。
それはそれは同情を集めることだろう。私だって稀人たちだって、玉彦だって彼らが到着する前に同情をした。
裏を返せば離れたはずの教会に神父と名乗らせても貰えないのにエクソシストとして利用され、命の危険だってあるのに充分な報酬はもらえず。
自由になったはずなのに横浜に留まり続けることになってしまっていたスミス神父は、自身の日本の田舎に住むという夢の為、そしてエクソシストの才能に目覚めてしまうかもしれない息子たちに教会が手を伸ばす前に二度目の大決断をしたのだった。
「だから渡りに船だったのね……。でも澄彦さんってばどうして五村に来いって言っていたんだろう」
「面白いから、であろうな。父上の考えは理解できぬ。……しかし結ばれた女性と離別することを選択しなかったスミスに思うところもあったのだろう」
「そうだねぇ……」
二人でしんみりと玉彦の勉強机にある写真を見上げる。
中学一年生の玉彦と私が石段の前で並んでいた。
私たちは離れずにずっと一緒に居ることが出来るけれど、澄彦さんはそうじゃない。
どんなに愛していても正武家屋敷で月子さんと過ごすことは出来ないし、自分が外に出て暮らすことも出来ないのだ。
歴代の当主の妻は自分の村へと戻って余生を過ごしていたけれど、月子さんはどういう考えなのか村外に出てしまっている。
せめてもう少し月子さんが近くに住んでいてくれると澄彦さんも嬉しいんだろうけれど、何か理由があるのかもしれなかった。




