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両手に美少年を抱えて背中を擦っていると、一向に戻って来ない私を心配した玉彦と須藤くんが部屋を訪れ、兄弟を私から引き剥がした。主に玉彦が。
「比和子を襲うとはけしからん!」
「違うから」
なんだって子どもに私が襲われなきゃならないのよ。
こう見えても神守なんだから、危ないって解ったら眼で止めちゃうわよ。
そろそろ場をお開きにして休むそうで、須藤くんは兄弟を隣の母屋へと連れて行く。
残された玉彦と私は移動せずにそのまま留まり、腰を下ろした玉彦に兄弟とのお話を聞かせた。
すると玉彦はバレンタインデーは重要なこともある、と意外なことを口にして私を驚かせた。
「玉彦もやっぱりチョコレートが欲しかったの?」
「量があれば良いというものではない」
「ふーん」
「重要なのは誰から貰うのか、ということである。あの兄弟もいつか理解するであろう」
「ふーん」
「……比和子さん。今年もよろしくお願いします」
ぺこりと玉彦が頭を下げたので、私もお辞儀をした。
今年は沢山作ることになりそうだ。
「それはそうとさっきエドワードから聞いたんだけどさ。ジョンさん一人で必要な時だけ鈴白に来るとかっていう風には出来なかったのかな。遠いけど、そっちの方が無駄に周囲を巻き込まなかったわよね?」
「大人の事情で渡りに船だったようだ」
「大人の事情?」
子どもたちが私と座敷から消えたあと、玉彦は今回の本当の絡繰りを澄彦さんとジョンさんから聞かされた。
それはジョンさんが神父であるがゆえの問題だった。
無知な私に多門が台所であの時教えてくれたこと。
それは神父と牧師は同じキリスト教であってもカトリックかプロテスタントかで違いがあるということだった。
ジョンさんは母国の神学校を卒業して神父となり、そしてエクソシストの才能を見出されて働いていた。
その時に澄彦さんと出会ってしまい、こんな事になっている。
それから数年後、彼はジュリアさんと出会って恋に落ちたけれど、結婚も出来ず、子どもを授かることも出来なかった。
なぜなら神父だから。
神父は司祭になる以前だったら結婚なども出来るけれど、それ以降は生涯独身でいなくてはならないという厳しい戒律がある。
エクソシストとして活躍していたジョンさんだったけれど、彼は教会を離れてジュリアさんと共に生きる道を選んだ。
エクソシストを、神父の職を辞す大決断である。
「え、でもジョンさんって今も神父さんなんでしょ?」
「うむ」
「どういうこと?」
「対外的に日本語教室の教師をしていたが、裏ではエクソシストとして動いていた」
「でもさ。神父さんを辞めたら、なんていうの? 神様のご加護が無いから悪魔祓いは出来ないんじゃないの?」
腕組みをした玉彦は私に説明をする為に数秒黙り込んだ。
「エクソシストとはバチカンに認められた機関である」
「うん」
「しかし牧師が出来ないというわけでもない。ただエクソシストと呼称されぬだけである」
「うん?」
「悪魔祓いとは誰が行っても良い。結婚していようが関係はないのだ。如いていうならば駄菓子屋の主人がしても良い」
「はぁ?」
「父上は便宜上神父と呼んではいるが、教会からは離れており正式には神父ではない。かと言って牧師でもない」
「わけわかんないんだけど」
「しかし悪魔祓いを行うという行為からスミスは『神父』と呼ばれている。教会を持たぬ野良神父といったところだ」
「……じゃあジョンさんは教会の後ろ盾がないエクソシストってことね?」
「そうだ。しかしこれからは後ろ盾の心配はない」
「え、もしかして……」
「鈴白に建てられた教会はスミスが新しく開く新興宗教の本拠地となる。何をどの様に信仰するかは自由だ。もしどこかの宗教から何か問題を提起されてもここは五村である。他所からの介入は許されぬ」




