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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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5


「騎将戦に参戦した年代ってどこの軍に居たのか聞かれることが多いんよ。でもって敗軍に居ると、コイツは先が読めない、人を見る目が無い奴なんだなぁって思われるん」


「それだけ!?」


 と、高田くんは呆れて聞き返したけれど、私には何となくわかる。


 田舎を、というか五村を舐めちゃいけない。

 まだまだ婿取りを考える必要のない希来里ちゃんと自分の息子を仲良くさせようとするママ友が多いことを夏子さんは以前愚痴っていた。

 希来里ちゃんは私の従姉妹で、血は繋がらないけれど玉彦と親戚関係にある。

 彼女と結婚したからと言って正武家の何かに関われるわけではないけれど、正武家様と親戚関係というステイタスは絶大な恩恵があるらしい。

 村民はそういうものが大好きで、誰々よりもうちの方が上、という謎のマウンティングをしたがる。

 暇なんだなぁ、と私は常々思う。


「最悪なのが敗軍で、しかも勢力分布が少なかった村の奴だね。大穴狙ったばくち打ちだって、娘を嫁にやりたくない親が多い」


「あぁ、だから恋愛関係で問題がある訳ね。でもたかが騎将戦で」


「たかが騎将戦、されど騎将戦ってやつよ。ちなみに前回の騎将戦は見事東軍の勝利。玉様のお陰で」


「へっ?」


 思いがけないところで玉彦の名前が出て来て、私は間抜けな声を上げた。

 だって玉彦の年齢だとギリギリ騎将戦には関わっていないはずなのだ。


「騎将戦の総力戦はうちらが一年の時の学校祭だったわけ」


「あっ。ちょっと質問。大将って誰がするの?」


「始まりの年の一年生から選ばれる。だからうちらが一年の時の三年生の中に大将がいたのよ。西軍大将は藍染の大沢先輩。四天王が西軍に集まってた。だから凄い軍が偏ってててね、でも人数は均等にしなきゃいけなかったからトレード押し切られた気弱な人たちと鈴白出身の生徒が東軍に偏ってた」


「だから四天王って呼ばれてたんだ……」


 忘れもしない、高三の夏休み。

 私は既に卒業していた四天王と海の家のバイトで鉢合わせをしてしまい、どえらい目に遭っていた。

 四天王とは藍染、鳴黒、緑林、赤石の神社の跡取り息子たちである。

 ちなみに澄彦さんは藍染神社の愛子ちゃん、つまり大沢先輩の母親に告白をしてフラれた過去がある。


「じゃあ東軍の大将って?」


「鈴白神社の一人娘の弥代やしろさん。最初緑林の工藤先輩は東軍だったのに仲間が三人揃っていた西軍に寝返ったんだよね。あのヘタレ」


 那奈は忌々し気に鼻の上に皺を作った。


「それで玉彦のせいっていうのは……」


 まさか一年生だった玉彦が弥代さんに代わって自分が大将になると言い出したわけではないだろう。

 玉彦は出しゃばりじゃないし、出来るだけ平穏に普通に学校生活を送りたいと考えていたはずである。


「玉様は番号的に西軍だったんだけど、東軍の渡辺に代わってくれってお願いされて東軍に入ったんだよね。で、御門森と須藤は最初から東軍。そうなるとさ、二、三年生は知らないけど、一年の間じゃ東軍が大人気になっちゃって。

五村合戦の流鏑馬と弓道は須藤が勝ち星上げまくって、剣道は御門森が優勝しちゃうし、御膳料理は三年連続弥代さん。

一年目はまだ工藤先輩が寝返っていなかったから二勝三敗の東軍は、二年目一勝四敗の惨敗。三年目の集大成も一勝四敗で、通算四勝十一敗で東軍が敗けると思っていたけど、四勝して五分五分になって騎将戦で決着。

騎将戦で副将の甲冑姿の玉様が黒い馬に乗って登場した時は、見物客から凄い歓声が上がってさ。ばっさばっさと四天王を倒して、大将の弥代さんに近寄らせもしなかったんだ」


「そんとき、鈴白の生徒たちはみんな東軍だったから、今はぶっちぎりで鈴白村が上なんよね」


 凄かったよねー、と那奈と亜由美ちゃんは笑い合っているけれど、私は思う。


 稀人として宗祐さんや九条さんに鍛えられていた豹馬くんや須藤くんは、きっと死にもの狂いだったはずだ。

 だって稀人なのに一般生徒に劣るとはけしからん! とか九条さんが言いそうだもん。

 それに玉彦だってかなりの負けず嫌いだから、絶対に引っくり返してやると表情に出さなくても燃えていたに違いない。

 何よりも玉彦が属した東軍が敗けると、ものすごくややこしいことになる。


 ステイタスが大事な五村民。

 この年の五村合戦で西軍が勝てば、東軍にいた正武家の次代様に勝ったということになる。

 畏れ多いと思うのか、大金星と喜ぶのか。

 とりあえずは東軍が勝ったから良いものの。


 と、ここまで考えて、私が二年生になって美山高校に編入した時に鈴白ファンクラブがあったことにも頷けた。

 話を聞いていた高田くんがすっかり感心して、見たかったなぁとぼやくと亜由美ちゃんが本当に残念気に眉をハの字にした。


「ビデオ撮影もしてたはずなんけども、なんでか全部映像が乱れてしまってるんよね。写真なら残ってるから、今度持って来てあげるね」


「そっかー。今度見せてね」


 高田くんと亜由美ちゃんがそんな会話を交わしていると、那奈が私を見て溜息を吐いた。

 那奈は知っている。原因が玉彦の揺らぎだったせいだと。

 お屋敷に勤め出して那奈は何度も玉彦の揺らぎの被害に遭っていた。

 ある時はドライヤー、ある時はスマホ。そしてテレビなどなど、その度に正武家から最新式の物が支給されていた。

 高田くんは玉彦がお屋敷に落ち着いた頃から就職したので被害には遭っていないが、事務所ではパソコンは厳禁で手書き書類ばかりなので、迷惑を被っていないこともない。




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