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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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3


「それに今、竜輝反抗期って言うし。誰が話しても納得なんかしねぇよ。自分で結論出すしかねぇって」


 多門に視線を投げかけられた南天さんがほとほと参ったというように手で顔を覆った。

 反抗期ってそんなに酷いものなのだろうか。

 私の反抗期は中学生くらいだったけど、親からすれば手を焼いていたのだろうか。


「竜輝くん、そんなに酷いんですか? 私たちには普通に感じるんですけど」


「外では良い顔をしてるんですよ。先生にも。私たちがそこに居なければ」


「家庭内暴力とかですか?」


「そんなものはありませんよ。あっても押さえつけます」


 まぁ、そうだろう。

 同年代の友達よりも断然腕が立つ竜輝くんでも、百戦錬磨の宗祐さんと南天さんが居る家ではまだまだひよっこなのである。


「じゃあ反抗期って一体……?」


「紗恵とは全く話しませんね。祖父祖母には敬意を払って挨拶程度は必ずしますが。私とは連絡事項くらいでしょうか……。あとは炊事洗濯全般の自分のことは自分でやって他の家族には触れさせません」


「それってただ自立して、親離れをしたっていうことなのでは……」


 男ばかりの惣領の間で私がそう言うと、各所から溜息が聞こえた。

 どうやら私が考えていた反抗期と彼ら男性陣が知る反抗期には違いがある様だ。


 何となく私が知っている玉彦の反抗期を思い出せば、それは中学一年生頃で本人もそう言っていた。

  あまり今とは変わらないけれど、澄彦さんに対して結構暴言を吐いていた気がする。

 それに成敗という不穏な言葉を契機によく格闘をしていた。

 高校生になればもう反抗期は終わったと本人は言っていたけれど、全然真っ最中だったと思う。

 惣領の間で一応一番父親歴が長い澄彦さんは黙って私たちの会話を聞いていたが、ふっと笑みを浮かべた。


「細かいことを上げれば色々とまだあるのだろう。これは家庭の問題だし、比和子ちゃんは放っておくのが得策だよ。竜輝だって知られたくないだろうからね。知らないふりをするのも必要なことだよ。ともかく竜輝の進学については保留としようじゃないか。次代もそれでいいだろう?」


 澄彦さんが話を纏めて、玉彦が頷き、惣領の間は解散となった。

 後から台所でみんなの反抗期についてインタビューをしてわかったことは、竜輝くんの行動はまだまだ序の口でこれからもっと面倒臭くなる恐れもあるようだ。

 私がそう思ったのは彼の叔父の豹馬くんの反抗期が凄まじかったことである。

 引き気味の私の前で反抗期を終えた彼らは笑い話にしていたけれど、私はこれから生まれる子どもたちの反抗期を考え青褪めた。

 だって絶対、五村へと帰ってきた子どもは反抗期真っ只中なはずで、離れてしまっていた期間を埋めるために積極的にコミュニケーションを図ろうとしても拒否される可能性が高すぎる。

 産む前から難題にぶち当たってしまった。



 翌日。


 朝餉を済ませて稀人たちがお屋敷の雑事に従事している間、亜由美ちゃんが事務所を訪れて私と那奈で歓談をしていた。

 亜由美ちゃんはこれから一緒に学校祭へ繰り出すが、那奈は事務所でお仕事がある。

 正武家は本日休日だけれど、事務所は動いていた。

 けれど来客が無いぶんいつもよりは緩い雰囲気で、私たちが話に花を咲かせていても松梅コンビから叱責は飛ばない。

 那奈に言わせれば私と豹馬くんの奥さんになった亜由美ちゃんが居るので松梅コンビは大人しくしているだけだと半目になっていた。


「学校祭かー。懐かしいー」


「那奈は卒業してから行った?」


「卒業してすぐは一回だけ行ったよ。でもぶっちゃけ楽しくなかった」


「そういうもんよねー」


 やっぱり準備から一緒に頑張った仲間がいなければ楽しくないものらしい。

 私たちの学校祭の時の話で盛り上がっていると、那奈がそう言えば、と目を輝かせた。


「今年から三年間、あれじゃない? 騎将戦きしょうせんあるんじゃない?」


「あぁ~そうね~。もうそんな年数なんかー」


 亜由美ちゃんと那奈はちょっとだけワクワクし始めたけれど、話に乗れない私は首を傾げる。


「騎将戦ってなによ」


「あっ。そっか。比和子は知らないのか。美山の学校祭で十五年おきくらいに三年間騎将戦っていうのをやるんだよ。生徒全員が東西に分かれて合戦するの」


「か、合戦!?」


 この時、私の脳内ではワーワーと小さな鎧武者たちが刀を振り回して戦った。

 かぶりを振って意識を戻した私を笑う亜由美ちゃんは、殺し合いじゃないんよ、と教えてくれる。

 解ってる、流石に解ってる。いくら五村でも合戦で殺し合いをする学校祭を開催すれば警察が来る。



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