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新学期が始まり、私は、研究科棟の教室にいた。毎日、こうやって授業が終われば、アレンの迎えをここで待って、アレンと一緒にアレンの部屋に帰っている。

魔法の結界をはられた教室から、決して一人で出ないよう言われている。


私は、新学期が始まっても授業に出席せず、部屋に籠っていたいと訴えたが、アレンとクラーク殿下から普通どおり授業に出席するよう説得された。二人に必ず私を守ると言われると、受け入れざるを得なかった。


あれから、腕の痣は薄くなったけど、消えることはなかったし、自分の中にまだ魔物がいるような気がしていた。

だから、誰も巻き込みたくないと思って、どこかに閉じ籠っていたかったのだけど...。


マリアンヌ達は簡単な事情を知らされていて、皆、私のことを気遣い協力してくれた。昼休みには昼食を教室まで持ってきてくれて一緒に食べたり、放課後はアレンが迎えに来るまで、私と一緒に教室に居てくれたり。

教室を出られないこと以外は、皆、普通に接してくれたので、私も嫌なことを忘れて、皆とのおしゃべりに花を咲かせたりと楽しく過ごすことができていた。そんな当たり前の時間が本当にありがたいと思った。


アレンが毎日、教室に迎えにくるから、他の学生達の注目の的だし、私が寮に帰らず何処かへ連れて行かれているから、学生達が色々噂をしていて、すごく気まずいし、嫌だったけど、そんな不満を言ってる場合ではないことも分かっている。

ただ、私が原因で他の人を傷つけることがないことを祈るばかりだ。


そうやって、1週間ほど何事もなく過ぎていった。


その日の放課後は、珍しく一人でアレンの迎えを待っていた。

マリアンヌとミアとサーヤは、それぞれ用事があって、先に帰らなければならなかったのだ。マリアンヌは最後まで気にしていたけど、私は、教室で待っているから大丈夫と言って、マリアンヌに先に帰ってもらった。


アレンも今日は、少し迎えが遅れているようだ。それでなくても忙しいんだから、仕方がない。

そう思いながら私は、誰もいない教室の椅子に座って待ち続けた。


どれくらい経っただろうか。さすがにアレンに何かあったのかも...と考え始めた時、ガラッと教室の扉が開いた。


「キラさん!大変よ!アレスフォード様が..」


イレーネ様だった。

何があったのか、紫の瞳を潤ませながら切羽詰まった表情で叫んだ。


「早く一緒に来て!」


イレーネ様のただ事ではない様子に何か良くないことが起きたに違いないと思い、私は、ガタンッと大きな音を立てて、椅子から立ち上がった。そして、イレーネ様の後を追って教室を飛び出した。



教室の扉を一歩出た所で、突然、金縛りのように体が固まった。

私の中の黒い塊がユラリと大きく震え、じわじわと広がるのを感じた。


「!!!」


自分の体を思うように動かすことができず、声を出すこともできない。


恐る恐るイレーネ様に目を向けると、イレーネ様は天使のような微笑みを浮かべていた。


「ふふふっ。一緒に来てくれるわね。」


イレーネ様は小さな小鳥のような愛らしい仕草で首をかしげた。


「....」


「そうそう。これは、ここに置いていくのよ。」


そう言って、イレーネ様は私の首に手を伸ばし、アレンのネックレスを引きちぎると、教室の中に投げ入れた。


----どうして...?


「じゃあ、行きましょうか。キラさん。」


イレーネ様が楽しそうにニッコリと微笑み、歩き始めると、私の体もイレーネ様の後を付いて歩き始めた。逆らおうと足掻いてみるが、体は操られるまま私の意思と関係なく歩き続ける。



人目の付かない場所まで来たところで、イレーネ様は立ち止まり、私の方に向き直った。


「キラさん、私に聞きたいことがありそうね。いいわ。特別に教えてあげる。あなたは私の大切な駒なんですもの。」


ふっと喉元が楽になり、少しだけ声が出せるようになった。体は動かないままなので、すごく話しにくい。


「どう..して?...何をする..つもり..?」


イレーネ様は子どものように無邪気に笑う。


「うふふっ。キラさん、あなたが悪いのよ。あなたが私の邪魔をするから!分かってるでしょう?」


私は子どものような笑顔で話すイレーネ様を見て、背筋が冷たくなった。


----どうしてイレーネ様は、こんなに無垢な顔をしているの?


「子どもの頃からの私の夢はね、聖女様のようになって王子様と結婚することよ。皆に慕われながら、王子様のような素敵な男性と恋をして、幸せな結婚をすることなの。

でもね、私のお父様は、昔気質の人だから恋愛結婚なんて認めてくれないわ。身分や家柄や地位のある男性でなければ、私の結婚相手にふさわしくないと思ってるの。お父様の利益にならない相手なんて絶対に納得してくれないわ。


お父様は、私がアカデミーを卒業したら、20歳も年上の政界の権力者である公爵に嫁がせるつもりなのよ。女好きで有名な醜い公爵に!....酷いでしょ?


でも、私はアカデミーに入学してアレスフォード様に出会ったの。運命だと思わない?

アレスフォード様だったら、家柄も地位も将来性も約束されているのだから、お父様も納得するわ。

なんと言っても、アレスフォード様は私の理想の王子様そのもの!


私、すごく頑張ったのよ。皆に慕われる聖女のようになろうと。落ち込んでいる人を励ましたり、悲しんでいる人を慰めたり...皆から慕われるように、すごく努力したのよ?

やがて学生たちは皆、私のことを聖女様と敬い、憧れるようになった。

でも...アレスフォード様は....いつもあなたのことばかり!


あなたのことが憎かったわ...。私は、清らかな聖女でいたいのに...。あなたは私の心も汚してしまったのよ。」


「...だからって..どうして..?」


「ある人が私を救ってくれたの。その人に協力すれば、私を聖女にしてくれる。アレスフォード様の心も私のものになるのよ!素敵でしょ!


私の汚れた心は全部森に捨てたの。今の私にあるのは、天使のように無垢な心だけ。誰もが憧れる聖女様そのもの。あなたのことも、もう憎んでないわ。ただ、哀れに思うだけ。だって、あなたはもうすぐ...。ふふふっ。」


—-森!森にあった黒いあれは、捨てられたイレーネ様の憎しみや苦しみの残骸なの?!

イレーネ様... おかしくなっているわ...闇魔法の使い手は、やがて心を乗っ取られる..きっともう、闇魔法に心が侵されているんだ....。


「...イレーネ様は....クラーク殿下を殺す...おつもりですか...?」


「ふふっ。殿下を殺すのは、私じゃないわ。あなたよ。」


イレーネ様は、小さな子どもが楽しいいたずらを思いついたかのように無邪気に笑う。

憎しみや苦しみの感情を放棄した代償は、他人を思う心をも捨てることになるのだろうか...。


「...クラーク殿下が殺されたら、アレンだって、今のままでは..いられない..。それに...きっと責任を感じて苦しむわ..。アレンが傷つくことになるのよ..。」


「心配いらないわ。アレスフォード様に責任は及ばない。そういう約束になっているの。それに傷ついたアレスフォード様を、聖女である私がお救いするの。私が傷を癒してさしあげるわ。ふふふふっ。素敵でしょ?!」


私はイレーネ様を精一杯睨みつけた。けれど、体はピクリとも動かない。声も再び出せなくなっていた。


「さあ、おしゃべりはここまでにしましょう!あなたは今からクラーク殿下のところに行って、魔物を召喚するの。そして、クラーク殿下を殺すのよ。

念のため、失敗した時のために、これも渡しておくわ。猛毒だから、一滴でもクラーク殿下が口に含んだら、殿下は助からないでしょう。

クラーク殿下は、あなたをすぐには殺さないでしょうから、隙をついて口に流し込めばいい。」


そう言って、私の右手に小さな小瓶を握らせた。


「じゃあ、行きましょうか。殿下はカフェテリアよ。学年イベントのお茶会に参加しているわ。」


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