(36)
その日も、アレンは私を魔法で包み込み、魔手の魔法を使った。私はベッドに横になり、目をつぶってアレンの魔法を受け入れる。
私は、最初の時は気持ち悪かった魔手を、だんだん気持ちいいと感じるようになっていた。アレンの匂いがする温かい空気に包まれながら、魔手が優しく撫でるように私の体に入ってくる感覚に、体がビリビリして変な気分になってくる。
アレンが必死で魔物を引っ張り出そうと奮闘してくれているのに...恥ずかしさと情けなさでいたたまれなくなる...。
不意に私の体を包み込むアレンの魔法からそっと肌を撫でられたような感覚がして、ギュッと体に力が入る。
「はぅっ..」
魔物が体の中を動き回る不快さと魔手の快感が入り交じり、思わず体をよじって変な呻き声を出してしまった。
ふっと魔手が消えたのを感じて、目を開けた。隣に座るアレンを見ると、アレンは苦しそうに息を荒げ、ベッドの端に顔を埋めていた。汗をにじませ、すごく辛そうだ。
「アレン...大丈夫?」
「...ああ..すまない...」
しばらくの間、二人とも黙り込み沈黙が続いた。
「キラ..」
アレンは顔をベッドに伏せたまま、弱々しい声で言う。
「僕は...キラを守りたい..でもいつか..君を傷つけてしまいそうだ...。」
私は、アレンの頭にそっと手を伸ばし、柔らかな焦茶色の髪を撫でた。
「アレン...。アレンが私のことを大切に思ってくれていること、分かってるわ..。だから....気に病まないで..アレンのこと..私は全部受け入れる..。たとえ、どんなことであっても。だから、大丈夫よ。」
アレンは、驚いたように顔をあげ、私を見た。深い青の瞳が、少し熱を帯び潤んでいるように見える。
「...キラ..僕のこと...許してくれる?」
「うん。アレンなら..大丈夫だよ。」
しばらくの間、アレンは熱の籠った瞳で私の目をじっと覗きこんでいたが、意を決したように言った。
「キラ、もう一度試していい?今度は、もっと深く入ってみる。少し苦しいかもしれない..。」
私は、アレンの瞳を見つめたまま黙って頷いた。
アレンは再び私を魔法で包むと、躊躇なく魔手を伸ばしてきた。魔手は体の奥へ奥へと進んでいく。
潜んでいた黒い塊が驚いたように再びゴゾゴゾと動き始める。魔手はどんどん黒い塊を目掛けて伸びていく。苦しい。体の中が熱くなる。
『クルナ!』
黒い塊が怒りを露にして暴れだした。
内蔵が掻き回され、ドロドロと溶けていくような気持ち悪さを感じる。
不意に魔手が狙い済ましたように黒い塊に襲いかかった。魔手が黒い塊に触れた瞬間、バッチンと電気のような衝撃が走った。
「あぁぁっ!」
私は、体を大きく反らせ、叫び声をあげた。
胃を締め付けられるような不快感の中で、うっすらと目を開きアレンを見ると、アレンの右手から真っ赤な血が滴り落ちていた。
「アレン!」
「大丈夫だ。かすり傷だよ。」
そう言ってアレンは、側にあったタオルを手に取り、自分の右手に巻き付けた。
「..あれは..?」
私が尋ねると、アレンは軽く頭を横に振った。
「駄目だ。でも、ダメージを与えることは出来たと思う。これで、消えてくれたらいいけど..」
そう言いながら、私の左肩を確認した。
痣は少し色が薄くなっていた。
私は突如、せりあがる吐き気を覚え、顔をしかめて体を丸めた。すぐにアレンが洗面桶を用意してくれ、私は、我慢できなくなって嘔吐した。胃の中の物を全部吐き出し、もう吐き出す物がなくなっても吐き気は収まらず、苦しくて涙がボロボロこぼれ落ちた。
アレンはずっと背中を擦ってくれていた。
ようやく落ち着くと、アレンは濡れたタオルで私の顔を拭い、ベッドに横になる私にブランケットを掛けてくれた。
「ごめん、しんどかったね。今日はもう、お休み....。」
そして、いつもと同じように私の額を指でトンッと突いた。
眠りに落ちていくまどろみの中で、アレンの顔が近づいてきて、額に柔らかな感触を感じた。




