(34)
キラが眠りについた後、僕はクラークの執務室に戻った。クラークは、僕の連絡を受けて急いで学園に戻って来ていた。
「クラーク、戻ってたのか。すまない..。」
「キラ嬢は?」
「眠ったよ。やっぱりあれは...引っ張り出せなかった...。」
「魔手を使ったのか?」
「仕方ないだろう!このままじゃ..キラが..。」
「キラ嬢は....魔手を自分の体に受け入れるということが、どういうことか知らないんだろ?」
「ああ、....言える訳がないだろう!」
「まあ...知らなくても受け入れてはくれたということか...。キラ嬢に受け入れる気持ちがなければ、魔手をキラ嬢の体の中に入れることは不可能だからな。」
そう。あの魔法は、キラが僕を拒否したら、魔手をキラの体の中に入れることはできない。お互いの同意があって初めて成り立つ魔法だ。
そして、例え魔法の手であっても相手の体に入るということは、男女の交わりに等しい。実際に僕は、魔手を通じてキラの温もりや匂い、柔らかく滑らかな肌の感触まで、実際に触れているかのように感じていた。おそらくキラの方も同じだと思う。
あれを何とかしたいと必死だったけど、キラの甘い臭いと感触をもっと味わってみたい衝動を抑えるのも、結構辛くて..。
「キラには....気持ち悪いと言われたけどね...。」
僕はキラの反応を思い出しながら、複雑な思いで呟いた。
ふと隣を見ると、クラークが肩を震わせながら笑いを堪えている。
酷い奴だ。キラは何も知らないとはいえ、気持ち悪いとか言われて、僕はかなりのダメージを受けているのに..。
「おいっ!楽しんでるだろ!」
僕は殴ってやりたい衝動を抑え、クラークを睨み付けた。
「いや....悪い.....。さすがキラ嬢。お前のことを、これだけ振り回すことができる人間は、他にいないよな..。お前、くれぐれも彼女を襲わないようにしろよ。」
「努力するよ...。」
僕は深いため息をついた。
「それにしても、なぜキラは、あの場所に近づいたのか..。キラには魔力がないのに..。」
あの場所にあれがあることは、学園関係者も把握していた。
ああいった物は、本来、何の力もなく、誰かの魔力を餌にしなければ生きながらえることができない。自らの力で移動することもできない。
だから、魔力を持つ人間が近づきさえしなければ、何の問題もなかったはずだった。
魔力を持つ人間が近づけば、あれに引き寄せられてしまう可能性はあったから、魔力を持つ人間があそこに近づけないような結界が張られていたのだ。
魔力を持たない人間ならば、近づこうとも思わないはずだし、例え近くに迷い込んでも何も気づかずに通り過ぎるだけだ。
「よく分からないが、最初からキラ嬢が狙われていたんだろう。迂闊だった。彼女に魔力がないことで油断してしまっていたよ。すまない。僕の判断ミスだ。」
僕はクラークにずっと考えていた疑問をぶつけた。
「このまま、キラの中のあれの動きを抑え込めば、あれは...いずれ消えてなくなるだろうか?」
「分からない....。宿主に餌となる魔力がなければ、あれも長くは生きられないだろう。消えてしまう可能性はある。でも、今回あれは、魔力のないキラ嬢に取り憑いた。それがどういうことなのか....。」
「結局、このまま様子を見るしかないということか....。サザーランド伯爵とロイドには、もう知らせたのか?」
「ああ。ふたりは今、王都の東隣の街に出没した魔物の討伐にあたっていて、手が離せない。上級の魔物が出没したんだ。キラ嬢のことは、お前に託すそうだ。」




