(31)
翌日、アレンが侍女のニーナを連れてきた。
「キラ、しばらくの間、ニーナが君のお世話をしてくれることになったから。」
「ニーナ!会えて嬉しい!ありがとう。わざわざ私のために来てくれたの?」
家に帰れなくなって気落ちしていたから、思いがけずニーナが来てくれたことで気分が上がる。
----きっとアレンが手配してくれたんだよね。アレン、忙しそうなのに、こんなことまで気を回してくれてたんだ...。
「キラお嬢様!なんて痛ましい...。サザーランド伯爵様もロイド様も大変心配されておいでです。」
ニーナは私に駆け寄り、そっと私の手を握る。逞しいニーナらしくなく、少し元気がないようで、すごく心配してくれていたんだろうなと思った。
「ニーナ、大丈夫よ。あなたが来てくれて心強いわ。アレン、ニーナを呼んでくれてありがとう。」
「どういたしまして。でもキラ、ニーナは学園の中でキラのお世話をするだけだよ。キラもニーナも外へ出る許可はできないからね。外にお使いに行かせることはできないよ。」
アレンは私に釘を刺す。
「どうして?なぜそんなに慎重なの?」
アレンとニーナは黙って顔を見合わせる。
「キラ、王都では最近、あちこちで魔物の出没騒動が起きているんだ。」
「魔物?!」
「ああ。反国王派閥の貴族が闇魔法を使って混乱を起こしていると考えている。狙いは王位継承権をエルダー公爵家に持っていくこと。国王の進める開かれた商売や教育の政策に反対して、貴族の特権を守りたいと思う者達がエルダーを支持しているという訳だ。おおよそ黒幕はエルダーだろうけど、そう簡単に尻尾は出さないだろう。」
「闇魔法...そんなことに..。」
「キラ、あのパーティーの日にキラが見たという黒い影も魔物だと考えている。」
「でも、学園には結界があるわ。」
「学園の中の誰か...おそらく学生の誰かが、闇魔法を使って学園の中に魔物を召喚した可能性が高い。キラ、君がクラークを助けたことで、キラが危険に晒されることだって考えられる。」
「でも、それだったら、学園の中でも外でも危険なのは一緒だわ。」
「長期休暇中は学園内に学生はほとんどいなくなるし、クラークも王宮に戻っている。だから、学園の方が安全だと思う。これは、クラークからの指示だよ。」
「.....分かったわ。アレンはどうするの?クラーク殿下と一緒に王宮に行かなくていいの?」
「僕はここに居るよ。毎日ずっとという訳にはいかないけど。王宮に行かなければいけない日もある。でも、出来るだけキラと一緒に学園にいる。」
「......。ごめんなさい。私のせいで無理させちゃってるのね...。」
アレンはにっこり笑う。
「無理なんてしてないよ。僕がそうしたいんだ。」
----また涼しい顔で平気でそんなことを言う。
本当にアレンって普段は無愛想なのに、人たらしだよね、誰にでもこんなこと言うのかなって思う。
「....ありがとう...。」
恥ずかしくなって、つい声が小さくなる。
アレンは、クスッと笑うと
「じゃあ、ニーナ、後は頼んだよ。」
と言って、部屋を出ていった。
アレンが出ていった後、ニーナは手際よく私の身の回りの世話を始めた。
「キラお嬢様。お体をお拭きしますね。」
「ありがとう。良かった。他の人にお願いしにくくて困ってたの。ニーナが来てくれて本当に助かるわ。」
「それにしても、お嬢様、アレスフォード様に愛されてますね!」
ニーナは、フフフッと楽しそうに笑う。
「なっ!...違うわよ!...からかわれてるのよ!アレンは昔から、そういう意地悪なところがあるの!」
全力で否定する私に、ニーナは呆れたような視線を向ける。
「まあ...お気の毒..」
ニーナが何か呟いたけど、よく聞こえなかった。
「それはそうと、ニーナ、学園にホフマン伯爵の息子のエリックが居るわ。出会わないように気をつけて!」
「ええ。アレスフォード様から伺っています。でも、もうエリック様は自宅に帰らせたから大丈夫とおっしゃってました。」
「アレンが?ニーナがホフマン家に居たこと知ってるの?」
「ええ....。ご存知のようでした....キラお嬢様がお話しされたのかと思ってました...。」
「!!」
----アレン、どこまで知ってるんだろう?私が一人で街に出てたことも全部バレてそうだわ..。




