(29)
一番恐れていたことが起きてしまった。
ダンスパーティ中に起きた異変で学生達は、混乱していた。
クラークは学生達を落ち着かせ、安全な場所に誘導するため、騎士たちに状況の確認を指示していた。
僕はクラークの側に付いて、周囲を警戒していたが、突然、イレーネ嬢がすがり付いてきた。
「アレスフォード様!何が起こっているのでしょう...?私、怖いわ...」
彼女は少しパニックになっているようで、震える声で涙ぐむ。
僕はクラークの側から少し離れてしまったことを気にしながら、彼女をなだめた。
「イレーネ嬢、ここを離れた方がいい。ランディと一緒に早く行ってください。」
そして、すがり付くイレーネ嬢を引き離すと、彼女のパートナーを務めていたランディに引き渡し、ホールから連れ出すよう指示した。
その時だった。クラークをめがけて飛び込んで来るキラの姿が目に入った。
----キラ?どうしてここに?!
そして、同じくクラークに突進するキラに気づいた一人の騎士が、おもむろに剣を抜くのに気づいた。
「止めろ!!」
僕は剣を抜き、騎士の前に躍り出る。
キンッと剣がぶつかり合う音が響くのと同時に、背後でドーンというけたたましい音が響いた。
騎士の剣を受け止めたまま後ろを向くと、横たわるクラークと落下したシャンデリアの下敷きになったキラの姿があった。シャンデリアのガラスが辺りに飛び散り、キラの体の下に血だまりが広がっている。
ホールに学生の悲鳴が上がり、会場中が騒然となる。我先に逃げ出そうとする学生達。
「アレスフォード、貴様!!」
他の騎士達も、怒声をあげてキラをめがけて駆け寄ろうとしている。
----まずい!
そう思って、再び剣を構えた時、
「止めろ!!」
クラークの声が響いた。
「彼女は僕を助けてくれたんだ!」
クラークはゆっくり立ち上がる。
「クラーク..お前、大丈夫なのか?」
「ああ...。アレン、それより早く彼女を医務室へ!」
僕は頷くと、騎士達と共にキラをシャンデリアの下から救いだし、急いでキラを抱えて医務室へ走った。
キラは強く頭を打ったのか意識がなく、ぐったりとしたままで、制服のスカートは血で真っ赤に染まっていた。呼吸は確認できたので今のところ命に別状はなさそうだが、とにかく出血が酷い。急がないと危ない。
医務室に駆け込むとすぐに看護師が対応した。
「すぐにドクターを呼んで来ます!」
「いい!彼女は僕が治療する。」
僕はキラを診療台に寝かせ、すぐに治療に取りかかる。
医療系魔法は、僕が最も得意とするところで、この学園の中で僕より優れた医療系魔法の使い手はいない。
だから、看護師も黙って僕に従った。
キラの傷を確認するため、スカートをめくろうとして、ハッと気がついた。キラは、いつもスカートに剣を隠している。
----見られたら、余計な疑いを持たれるかもしれないな...。
僕は看護師に
「清潔なタオルとお湯、着替えを持ってきてくれ。」
と指示した。看護師はすぐに
「分かりました!」
と言って、急いで部屋を出ていった。
僕はすぐにキラのスカートの中を確認する。やっぱり剣を持っていた。
剣を取り外し、自分の上着の中に隠す。
むき出しになったキラの白い足は、血で真っ赤に染まり、左の太股に大きな傷があった。急いで魔法で止血を行い、傷の状態を確認する。幸い傷は深くなさそうだ。
続いて、キラの体を魔法で包み、体の状態を確認する。他に骨折や脳の異常などもなく、ひとまずはホッとした。
足の傷を縫合しようとして制服を背中までめくり上げ、思わず息を飲む。腰から背中にかけて酷い打撲傷と擦り傷で真っ赤に腫れあがっていた。酷い..この状態では、しばらくは、歩くのも辛いかもしれない。
キラの身体は、以前、森でチラッと見たことがあったが、よく鍛えられ引き締まっている。令嬢と思えないような、適度な筋肉で覆われたしなやかな足やお尻やくびれた腰は、思わず見とれてしまうほど美しい。柔らかそうな白くきめ細かい肌は、黒く艶やかな髪によく映え、触れてみたい衝動にかられる。
そんな綺麗な肢体が、今は無惨にも痛々しい姿で横たわっている。
でも、あれだけの事故でこれくらいの怪我で済んでいるのは、ロイドの剣にかけられた守護魔法によるものかもしれない..。いや、多分そうだろう。
僕は結局、またキラを守ることが出来なかった。側にいるのに、こんな怪我を負わせてしまうなんて..。悔しくて情けない..。
どうしてあの時、クラークの側を離れてしまったのか...。ずっとクラークの側にいれば、もっと早くキラに気づくことが出来たのに...。色んな思いが頭から離れない。
僕が足の傷の縫合を終え、打撲傷の消毒と湿布の貼付を終えた時、看護師が戻って来た。
看護師にキラの着替えと体の洗浄を頼み、それが終わったらキラを病室に寝かせ、誰も部屋に入れないよう指示し、僕はクラークの所に戻った。
キラに怪我を負わせた犯人を絶対に許さない!




