表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/45

(27)

セーヌ橋の事故から1週間ほどして、マリアンヌは学園に戻ってきた。マリアンヌのお祖母様は、一時危ない状態だったけど、奇跡的に持ち直したらしい。私達の香炉の効果だったら嬉しいけど、そこは、まだまだ検証が必要かな。


いずれにしても、マリアンヌが元気に戻って来てくれたことで、サーヤもミアもショーンも、それだけで満足だった。

今後は、試作品の香炉を皆で順番に使ってみて、効果を試してみて、改良を重ねていこうと決めた。



学園では今、毎年、夏の学期末に開かれるダンス・パーティーの話題でもちきりだ。パーティーは、普段は王室関係者しか入れないロイヤル棟のホールが開放されて行われる。ロイヤル棟には、王太子が学園滞在中に生活している居室などがあるのだが、年1回、この日だけは学生達が王室から招待されるというわけだ。


ダンスには男女ペアでの参加が基本で、学生達はこの時期、パートナー探しに必死だ。この日ばかりは、華やかなドレスを身にまとい、ダンスに参加する学生が多い。ダンスを踊らない学生達は、自由にテラスのパーティースペースで食事やおしゃべりを楽しむことができる。


私はもちろん、制服で参加して食事を楽しむつもり。王室主催のパーティーの食事は特別に美味しいと評判なのだ。

当日は食事をしながら、マリアンヌ達と一緒に、夏の休暇中のバカンス兼研究調査の計画を立てる約束をしている。私は、友人達と一緒に過ごすパーティーは初めてだから、本当に楽しみ!


その日、私はトーマス先生に頼まれた資料を図書室で探して、先生の研究室に届けることになっていた。

以前、先生のお使いをしたことをきっかけに、時々トーマス先生のお手伝いをするようになっていた。トーマス先生は、古語が専門だが、古い伝承やおとぎ話などにも詳しく 、興味深い話をたくさん教えてくれる。そして、先生の話では、どこかの地方に魔女に関する古い言い伝えが残っていて、どこかにその資料があったはずだというのだ。だから、私も先生のお手伝いをしながら、その資料を探したりしていた。

なんせ先生の研究室は、色んな資料や本などが雑然と積み上げられているものだから、探し出すのも大変なのだ。


私は、先生に頼まれた本を何冊か見繕い、研究室に届けようと廊下を進んでいた。

歩き始めてすぐに、

---しまった..本の量が多すぎたな。あれもこれもと選び過ぎちゃった。もう少し減らせば良かった...

と後悔した。本を抱える両手が、重さでプルプルしてくる。

仕方がないので早足で廊下を進んでいると、後ろから不意に声をかけられた。


「手伝うよ。」

後ろを振り向くと同時に、持っていた本をヒョイと取り上げられた。

「アレン..」


----何で?何でアレンが研究科棟にいるんだろう...


「どこまで持って行くの?僕も研究科の先生の所にいく用事があるから、一緒に行くよ。」

「トーマス先生の研究室...あの..ありがとう。でも半分持つわ。」

「いいって。」

「ありがとう...あの、この間も..」

アレンは私を見てニッコリ笑う。

「もう風邪は治った?」

「うん。おかげで、ぐっすり眠れたから..。」

「良かった。」


穏やかなアレンの表情を見て、少し安心した。この間は、すごく怒っていたから..。

そう言えばいつもそうだな...私が何かやらかすと、アレンはすごく怒って助けてくれて...。最後は必ず何事もなかったように笑ってくれる。


「キラ、今度のダンスパーティどうするの?」

急に尋ねられて、一瞬何のことかと思ってしまった。

「えっ?」

「パートナーだよ。まだ決まってないなら..僕がパートナーになるよ。いや、決まっていても...かな..」


「アレン、忘れたの?私はダンス踊れないよ?」

あっけらかんと答えた私を、アレンは少し呆れた顔で見る。


「.......。そうだったな..。キラ、あれから全然上達してないの?」

「ええ。練習してないもの!」


「そんなに自信満々に言うことじゃ..。キラ、剣術よりダンスの方を練習しておいた方がいいんじゃないか?一応、伯爵令嬢だろう?」

「だって、踊れなくても困らないんだもの。必要ないってことよ。」

「いや..。これから何があるか分からないし..。」

「それはそうだけど...」


「じゃあ、キラはダンスには参加しないんだな。」

「ええ。テラスでマリアンヌ達と食事を楽しむつもりよ。」

アレンは、黙って微笑む。


----アレンは、私がまたひとりぼっちじゃないかって心配してくれたのね。


アレンの気持ちがすごく嬉しい。でも、アレンはアレンで私のことは気にせず、自由に楽しんでほしいと思う。

そう思って、思いきってアレンに言ってみる。


「アレン、私は踊れないから....イレーネ様を誘ったらどうかな?イレーネ様、きっと喜ぶと思うわ。」

アレンは、少しムッとしたように無言でチラリと私を見る。

また怒らせてしまったかもしれない...。

アレンは小さなため息を漏らす。


「いや。僕はダンスパーティの日は、クラーク殿下の護衛に徹するよ。本当のところ、クラークの周辺は不穏でね。学園の中でも何が起きるか分からない状況なんだ。キラが踊るならと思っていたけど、踊らないならクラークと一緒にいる。」

「学園の中でも?そんなに物騒なことになってるんだ...殿下も大変なのね。」

「そう。だからキラも十分気をつけて。」

「うん。」


「そうだな...。来年は一緒に踊ろう。先にパートナーに申し込んでおくよ。だからキラ、ダンスの練習しておいて。」

「来年...?」


来年アレンと一緒にダンスを踊るなんて未来が、私に来るんだろうか?と考えてしまって、ちょっと悲しくなってしまった...。

幸せな未来なんて、今の私には想像しちゃいけない気がする...。


黙り込む私を、アレンが心配そうに見ていることに気づいて、慌てて笑顔を作る。


「そうね。頑張って練習しておくわ。」

「......。」

アレンは信じられないという顔だ。

「何よ!」

「いや...。キラが僕の誘いを断らないなんて珍しいなと思って...。じゃあ、約束だよ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ