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僕は自室でこれまでのキラの行動や、今回のことについて考えていた。
キラはマリアンヌ嬢を追いかけて学園を飛び出し、同じ日にセーヌ橋の崩落事故が起きた。関係ないとは思えない。
昔も同じようなことがあった。キラが突然いなくなり、崖の崩落現場で見つかった。後日、同じ場所で大きな崖崩れが起きた...。
キラは事故が起きるのを知っていたのか?...馬鹿な..そんなことどうやって?
とにかく、マリアンヌ嬢に一度話を聞いてみよう。彼女を追いかけて行ったキラが何をしに行ったのか..。
そういえば、キラの家で働いている侍女もキラに頼まれて色々動いているらしい。彼女はキラが、どこかからスカウトしてきた侍女らしい。何か知っているかもしれない。彼女にも、一度会っておきたいな...。
ひとつはっきりしているのは、キラが僕を避けようとしていること。彼女は僕のことを怖れている。
出会った時からそうだった。小さい時はキラの信頼を勝ち取って、克服できたと思っていた。でも違った。彼女は、そうしようと決めていたんだと思う。大人になったら僕とは距離を置こうと。
僕はキラに嫌われている訳ではないと思う。多分...。
「アレン、ちょっといいか?」
ドアをノックする音がして、クラークが入ってくる。
「頼まれていた物、持ってきたぞ。」
クラークは古い分厚い書籍を数冊持ってきてくれた。王宮図書館所蔵の書籍だ。通常、王族以外、読むことはできないが、僕はクラークに頼んで持ち出して貰っていた。
「ああ、すまない。ありがとう。本当に感謝している。」
「それで、キラ嬢、どうだったんだ?」
「何も..彼女は何も言わないさ。」
「お前も随分避けられてるしな。」
クラークは金色の瞳を細めて、楽しそうにニヤニヤ笑う。本当に、王太子じゃなかったら叩きのめすところだ..。
「何となく分かってきた気がするが、確信が持てない....。彼女が何か秘密を抱えているのは間違いないんだけど..。」
クラークは、少し考え僕の反応を探るようにいう。
「アレン、あまり言いたくはないが、キラ嬢、早く何とかした方がいいんじゃないかな?」
「何とかって?」
「......。好意からでも悪意からでも、彼女をものにしたいと思う男は大勢いるということさ。学園に入学して、彼女が公の場に出てきたことで、一層注目されるようになっている。キラ嬢は知名度抜群のうえ、うまくとり入れば、サザーランド家を味方に付けられるしね。利用できると考える貴族は多いだろう。.....お前、早く彼女と正式に婚約したらどうだ?」
クラークの奴、痛いところを突いてくる。
「......。サザーランド家には何度も正式な婚約を申し込んでいるさ。でも、サザーランドの一家はキラが承知しないと、絶対に認めるつもりはない。娘が欲しいなら、自分で落としてみろってさ!僕が彼女に婚約を申し込んでいることさえ、キラに伝えてないんだから...。まったく...さんざん僕のことを、利用するくせに。あいつら、僕のことをキラの護衛くらいにしか思ってないし!あの父親もロイドもキラを溺愛しすぎだって!....まあ、実際にキラを守っているのはあの家族の力がほとんどで、僕の力なんてまだまだ及ばないんだけどね...」
「...そうか...最強の一族相手だと大変だな...。それでお前、彼女に聖獣を付けて、監視してるのか?それに、彼女が付けてるあのネックレスも....お前、あれに追跡魔法かけてるだろ?...ちょっとやり過ぎじゃないか...」
「...ずっと監視している訳じゃない。この間みたいなことがあった時にすぐに場所を把握できるようにしているだけさ。僕はキラの従順な護衛だからね!」
「従順ねぇ...キラ嬢もお前みたいな厄介な許嫁がいて、気の毒だな...。
アレン、事情は分かるが、今、反国王派の勢力が怪しい動きをしていて、今、政治は不安定な情勢だ。国王派の中にも彼女の存在を危惧する声がある。いっそのこと彼女を監視下に置くために、僕の側室にしてしまえなんて乱暴なことを言う奴らも出てきているし..。」
「.......」
「おい、睨むなよ...僕は、お前もサザーランド伯爵家も敵に回す気はないから...」




