(24)
もう日が傾き始め、薄暗くなりかけていた。
「ジン、早く帰ろう!」
そうジンに声を掛けて、歩き始めた時だった。
「へぇ、あんた王立アカデミーの学生かい?」
「制服でこんなところをうろついて、素行の悪いお嬢さんだな。俺たちと遊んでいくかい?」
まだ早い時間だというのに、酔っ払った二人組の男が声をかけてきた。
私は無視して通り過ぎようとした。
男の一人が私の前に回り込み、顔を覗き込む。
「おい、あんた...その目!ヒースリィの赤魔女か!」
「本当だ。真っ赤な目!こんな目、初めて見るぞ。」
私は顔を背け、駆けだそうとしたが、男に左腕をがっちりと掴まれてしまった。ジンが男たちに向かってシャーと威嚇する。
「へぇ、悪名高い魔女だが、結構可愛い顔してるじゃないか。俺たちが可愛がってやるよ。」
「やめてください!」
私は手を振り払おうとしたが、振りほどくことができず、そのまま細い路地に引っ張り込まれてしまった。
----しまった!どうしよう...
突然、ジンが私の腕を掴んでいる男の顔を目がけて飛び掛かった。
「うわっ!」
男が怯んで手を離す。
その隙に私はスカートに隠し持った剣を抜き、すばやく男の脇に回り込んで、剣の柄を思いっきり、男のみぞおちに叩き込んだ。
男はうめき声をあげて、その場に座り込む。思った以上に力が入り、効いているようだ。
----これが、お兄様の魔法で強化された剣の力?すごいかも。
「こいつ!舐めやがって!」
もう一人の男が飛びかかろうとする前に、私はヒュッと剣を振り、男の喉元に剣の切っ先を突き付けた。男は壁際に後ずさりし、ガタガタと震えている。
私は、恐怖で心臓がバクバクして足も震えていたが、できるだけ平静を装い、慣れたように振る舞った。
「あなたたち、私が赤魔女と知っていて、こんな狼藉を働くなんて大した度胸ね。なぜ私が魔女と恐れられているのか、理由を知らないのね。私が、あなたたちを消すことなんて簡単なのよ。......命が惜しかったら、これ以上私にかかわらないことね!」
精一杯、威厳を示して男たちを脅した後、私はゆっくりと剣を下す。男たちが動けないことを確認すると、彼らに背を向けてゆっくりと歩き始めた。私が怯えていることを悟られないように、堂々とした態度で。
男たちに私の姿が見えないところまで行くと、私は一気に走り出した。ジンが後をついて来る。
そして、もう大丈夫という所まで来たところで、足を止めた。
一気に恐怖が蘇ってきて、体が震えだす。
----良かった。うまく逃げられた。彼らが魔法を使える人でなくてよかった...魔法が使える人だったら、私の剣で太刀打ちできたか分からないわ。
ジンがなだめるように私の足元にじゃれついてくる。
「ありがとう、ジン。やっぱりあなたは、私のナイトね。....早く帰らないと、すっかり暗くなってしまったわ。」
ここにきて、再び無断外出してきたことを思い出す。
どうしよう。もうバレてるよね...。学園には結界があるから、誰が出ていったのかとか、すぐ分かるのかな?
どうやって戻ろうか....。できたら、こっそり戻りたいけど..。
そうだ、今日のところは西門からこっそり戻っておこうかな...。西門はちょっと遠くなるけど森の近くにあって、人が通ることがほとんどないし...。正門から堂々と戻る勇気はないな...。うまくいけば、今日のところはバレずに戻れるかもしれないし...。
気温も下がってきたみたい。散々走って汗びっしょりだから体が冷えてきた。早く戻らないと...。
そんなことを考えながら、西門を目指してトボトボと歩き始めた時、突然、暗がりから人影が飛び出してきた。
私は心臓が飛び出るくらいびっくりして、悲鳴を上げて縮こまってしまった。
「キラ!」
顔を上げるとアレンが仁王立ちで立っていた。
----もうバレてる!!...しかも、めっちゃ怒ってる...
アレンに無言で睨みつけられ、体が固まってしまう。
長い長い沈黙...。アレンは私が何か言うのを待っているようだが、私は何も言うことができない。何を話せばいいのか分からない。
無言の圧力に泣きそうな気分になってきた時、アレンがようやく口を開いた。
「キラ、帰るよ。」
「...はい...あの...ごめんなさい...」
アレンは黙って自分の上着を脱いで、私に差し出す。
「いや..。私、汗かいてて..汚しちゃうから...」
すると、アレンは強引に私の肩に上着をかけてきた。
「寒いんだろう?震えてる。風邪をひくから。」
「....ありがとう。」
俯く私の手を取り、アレンは歩き始めた。
道中、私達は一言も話さなかった。アレンはずっと無表情で、何を思っているのか全然分かんなかったけど、繋がれた手は暖かかった。子どもの頃とは違う大きくてゴツゴツした手が、私の手をすっぽりと包みこんでいて、それだけで気持ちが落ち着く気がした。
アレンは女子寮まで私を送り届けてくれた。もう、とっくに門限の時間は過ぎていたけど、アレンは寮の管理人さんに、
「生徒会の仕事を手伝って貰ってて、遅くなってしまいました。すみませんでした。」
と伝えた。おかげで私は何も問い詰められることもなかった。
「じゃあね。」
結局、アレンは私に何も問いただすことはなかった。ただ深く青い瞳でもの言いたげに見つめるだけ。
「ありがとう...」
アレンは、黙って頷いて帰って行った。




