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その日の放課後も私は剣術の鍛錬のためジンと一緒に森に行っていた。いつもの場所でひとり準備運動をしていると、広場から更に奥に続く道の方から、人が草木を踏みしめる足音が聞こえた。

ジンが警戒するように、ピンと耳と尻尾を立て、音のする方を見つめる。

私は急いで、ジンを抱いて茂みの防御陣の中に隠れた。


誰だろう?

ここから奥には行ったことないけど、何かあるのかしら?


私は、歩いて来る人を確認できないかと茂みの影から覗いてみたが、ちょうど木の影になっていてよく見えない。その人物が広場を通り過ぎる時に、ちらりと明るい金髪が見えたような気がした。

どうやら、歩いているのは一人だけのようだ。


少し気持ちが悪い気がして、私は足音が通り過ぎた後もしばらくの間、茂みの防御陣に隠れていた。


「キラ、いるのか?」


どれくらい経っただろうか。アレンが呼ぶ声がした。ミャオとジンが反応したことに安心し、私は防御陣から出た。


「キラ、どうした?何かあったのか?」

「アレン、ここに来る途中誰かに会わなかった?」

「いいや?誰か来たのか?」

「あっちの方から誰か歩いてきたのよ。通り過ぎただけだけど..。だいぶ時間が経ってるから、アレンとは、すれ違わなかったのね。」


アレンは難しい顔で何かを考え込んでいる。

----きっとまた何か心配してるんだわ。アレンって、お父様やお兄様より心配性よね。口うるさい保護者がもう一人いるみたい..。


「アレン大丈夫よ。たまには、ここに来る学生もいるでしょ。」

「でも...」

「何の為に剣術を習っていると思ってるの?それにここは、魔法の結界で守られた学園の敷地内よ。」


ふうっとアレンがため息をついて、諦めたように言う。

「だから、学園の中だからって油断するなって。だいたい、いつも剣を持ち歩いてる訳ではないんだし。」

「あら、持ってるわよ!」

「はっ?」


私は自慢気に、私のとっておきの剣を取り出しアレンに見せた。

少し細身の短剣。柄の部分に赤い石がはめ込まれ、可愛い装飾がある。私が使いやすいようにとお兄様が作ってくれた物だ。お兄様からいつも持ち歩くよう言われている。


「これをいつもスカートの中に隠しているの。全然わからないでしょ?」


アレンは短剣を手に取り、興味深げに入念にチェックしている。


「これは、...ロイドか?..すごいな。さすが、サザーランドの嫡男...。」


「あら?分かるの?そうよ。お兄様が作ってくれたの。」


「すごく複雑な魔法で強化されている..。剣自体も軽くて丈夫になってるし、キラの力でも、より大きなパワーが発揮できるようになってる。」

「そうなの?!」


「なんか...悔しい..敵わないな。」

アレンは、ボソリと呟く。


何が悔しいのかな?そもそも、魔法でお兄様に勝てないのは仕方がないと思うんだけど...。

本当にアレンって何を目指してるんだろう?



その日の鍛錬を終えた後、私はアレンにチョコレートの箱を手渡した。


「この間のお休みにマリアンヌ達と一緒に街に外出したの。美味しいタルトのお店に行ってね。これは、そこで買ってきたの。チョコレートならお土産にいいかなって思って。」


「僕に?」

アレンは少し驚いて、照れたようなはにかんだ笑顔を浮かべる。


ふふっ。こういう反応は小さい時と変わらない。感情を素直に出せずに、恥ずかしそうな顔をするの、可愛いよね。なんかくすぐったい気分になる。



「アレンには、いつもお世話になってるからね。」


「一緒に食べよう。」

そう言って、アレン小川の畔に座った。私もアレンの横に座って、並んで二人でチョコレートを食べながら話をした。


「ん!すごく旨い。」

アレンは、チョコレートを頬張り、幸せそうな顔をする。

「でも、お店で食べたタルトも美味しかったのよ。『エポック』っていうお店なんだけど、すごく人気なの。」

「外出、楽しんだみたいだね。いい友人ができたみたいだ。良かったね、キラ。」

アレンもなんだか嬉しそうだ。


「そうなの!マリアンヌが、瞳の色を変えられるカラーアイレンズをくれたのよ。本当に瞳の色が変わるの。あれがあれば、絶対に私ってバレないわ。すごいでしょ!」


「へぇ。面白いね。じゃあ、今度僕と一緒にその店に行こう。」


「へ?!」


「絶対にバレないんだろ?僕もタルト食べてみたい。」

「...でも、女の子ばっかだよ。お店に来てるの..。」

「キラが一緒だったら平気だろ?」

「でも..」


「僕も普通にキラと一緒に街を歩きたいな。」


アレンは、ニッコリ笑って私を見つめる。


----なにそれ..それってデートみたい...なんで涼しい顔でそんなこと言うの?!

私は恥ずかしくなって、顔が熱くなる。


「僕と一緒じゃ嫌?」

今度は上目遣いで甘えた顔を見せてくる。

「い、嫌じゃないけど..」


----なんか、アレンってこんな人だったっけ?


混乱する私を見て、アレンは、クスッと笑う。


----あれっ?もしかしてからかわれた?


「約束だよっ!..と言っても、すぐは無理なんだけどね。」


「?」


「キラ、しばらくクラークの用事で忙しくなりそうなんだ。来週はずっとクラークと一緒に王宮に行かなければならない。しばらく、ここにも今までみたいに頻繁には来れないかもしれない。ごめん。出来るだけ来るようにするから。」

アレンは、申し訳なさそうに私の顔を覗き込む。

「ううん、大丈夫よ。アレン、大変なのね。」

「クラークの周りがいろいろ騒がしくてね。クラークの護衛も強化されることになった。」


多分、エルダー公爵がらみで不穏な動きがあるのだろう。王国の古いしきたりを改革しようとしている国王に対し、反発する高位貴族達も勢力を強めているみたいだし。


「アレンも気を付けてね。」



「そう言えば..キラ、最近、魔法科の男子とも交流があるのか?」

「知っているの?」

「いや..この間、一緒に居るのをちょっと見かけたから..」

「彼はショーン。魔法科の1年生よ。ミアのお友達よ。私達の研究に協力してもらってるの。どうしても魔法を使える人が必要だから。」


「...ふーん...そんなことなら..僕だって..」

アレンは、何かブツブツ言っていた。

またアレンが変な心配をして、何か面倒なことを言い出すんじゃないかと、嫌な予感がして、私は聞こえないふりをした。


「心配いらないわ。彼、とってもいい人よ!」


「.....そう...」


何か言いたげで急に不機嫌になったアレンを、私は完全に無視したのだった。


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