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「ヒースリィの赤魔女」
それが、ここアルメニア王国での私の呼び名。人々は未知なる者への恐れや好奇心を込めて私のことをそう呼んでいる。
この王国で私の存在を知らない者はいない。
私の父は王宮の宮廷魔導師の長を務めるキース・サザーランド伯爵。王国の東の端にある緑豊かな地、ヒースリィ州を治める領主である。
サザーランド家は、代々高い魔力を持つ一族で、王国の平穏と安定のため国王につかえてきた由緒ある家系。
この国の人々が持つ魔力の量は様々。大きな力を持つ人から全く持たない人まで。
大きな魔力を持つ人の多くは、貴族だ。平民にも魔力を持つ人はいるが、貴族に比べるとその魔力は小さく、魔力を持つ人の割合は少ない。
昔から、大きな魔力を持つ人が社会を支配してきた歴史があるからだ。
そんな中、サザーランドの一族は、王国が災害や諸外国との争いの危機に直面した時など有事の際には、必ず総力をあげて国の為に尽力してきた歴史がある。
一方で政治とは一定の距離を置き、膨大な一族の魔力が国の悪事に利用されることがないよう、中立的な助言者の立場で国を戒める役割を担っている。
一族は皆、明るいシルバーの髪と深い緑色の瞳を持つのが特徴で、魔力が高いほど緑の濃い瞳となると言われている。
私の父と4つ年上の兄ロイドも一族の特徴を引き継ぎ、輝くシルバーの髪と深い緑の瞳。兄も優れた魔法の使い手だ。
そして、母もまた優秀な魔導師。王立アカデミーの魔法科を首席で卒業し宮廷で働いていたところ、父と出逢い結ばれた。明るいブロンドの髪に金の瞳。エキゾチックな雰囲気をまとった美人で学生時代から学園のマドンナ的な存在だったらしい。
ただし本人は男まさりな性格で、学生時代は色恋沙汰には全く疎く、魔法の鍛練と勉学に励む毎日だったようだ。
私は、そんな魔法のエキスパートな両親から生まれた。
いわゆる魔法一族の血統を保証されたような存在なのだけど。
なぜか私は、黒い髪。
瞳の色は...赤。
血のような鮮やかな 赤。
この国には様々な色の髪と瞳の人々がいる。黒い髪は、そう珍しくない。
でも、赤い瞳を持つ者は、、いない。
赤みがかった紫や金の瞳の者はいるけど、、、私の瞳は、鮮やかな--赤。
こんな色の瞳を持つ者は、童話や伝説に出てくる魔王か魔女か...、闇に潜むと言われる魔物くらい。
前例のない突然変異。完全なる異端児。
だから、黒髪赤目の私が生まれた時は、「恐ろしい魔女が誕生した」
「呪われた子」
「不吉な未来の象徴だ」
と言われて、国中の人々に恐れられた。
「代々続く魔法一族に生まれた魔女は、恐ろしい闇の魔法の使い手に違いない」と...。
でも、そんな私には...魔力が...ない!
数百年続く魔法一族に生まれたにも関わらず、魔力のカケラも持ち合わせていなかった。