(18)
ある日、食堂でいつもの女子4人でお昼を食べていた時、マリアンヌが突然言い出した。
「ねえ。今度、お休みの日に皆で街に出かけましょう!」
「そんなことできるの?長期のお休み以外は、学園から出ることはできない決まりでしょ?」
私は不思議に思って、マリアンヌに尋ねた。
「あら、キラ、知らないの?」
ミアが代わりに説明する。
「勉強や研究の一環の外出であれば、申請をすれば認められるのよ。だからね、研究のために街中の史跡を巡って調査するってことで申請をすれば大丈夫よ。皆、そうやって時々外出を楽しんでいるの!」
「そ、、そうなんだ。知らなかった...。」
「ねえねえ。人気のタルトのお店があるのよ。私、そこに行ってみた~い!」
サーヤの提案にマリアンヌが、
「そうね!ついで、に、行ってみましょう!」
と応じる。
「ついでよねぇ~。」
とミアも楽しそうに賛同した。
「でも....私は...やっぱり止めておくわ。皆で楽しんで来て!」
私の思いを察したのか、マリアンヌが言う。
「大丈夫よ。キラ、外見のことを気にしているのでしょう?ちゃんと考えているから!キラは、目立たないように少し変装してもらうわ。」
そう言ってマリアンヌは、小さな箱を鞄から取り出した。箱の中には、小さくて薄い丸いガラスのような物が入っていた。
「これはね、カラーアイレンズっていうの。外国の貴族の間で今すごく人気のファッションアイテムなの。お父様の商店で最近、輸入し始めたものをひとつ譲ってもらったのよ。これを付ければ、誰でも瞳の色を変えられるってわけ。高貴な貴族達がお忍びで出かける時なんかにもってこいってことで、大人気なのよ。まだこの国では、ほとんど流通していないけどね。」
「へ〜っ。すごい!」
皆でマリアンヌの持っていた箱を覗き込んで、感心する。
「ねえ!キラ、付けてみてよ!」
「こ、、、これ、どうやって付けるの?」
「説明書のとおりに瞳に直接載せるのよ。初めはコツがいるかもしれないけど、大丈夫よ。私もやってみたわ。」
「こ、怖い..」
皆にわいわいと取り囲まれながら、私はなんとかカラーアイレンズを装着する。
「本当だ!瞳の色が紫になった~」
「青いレンズにしたからね。キラ、目は大丈夫そう?痛くない?」
「ん~~。ちょっとゴロゴロして気持ち悪いけど...」
「すぐに慣れるわよ。」
「全然、赤い瞳って分からないわよ。これで大丈夫ね。気兼ねなく皆で楽しみましょう!」
私は鏡に映る自分の瞳をまじまじと見つめる。
「すごい!本当にすごい!マリアンヌ、ありがとう~。私、これでどこでも行けそうよ!こんな素敵な物があるなんて!」
私は興奮して、思わずマリアンヌに抱きついてしまった。
「キラ、大袈裟よ。でも、喜んでもらえて良かったわ。」
—-これって、色んな所で使えるんじゃない?こんなの作った人天才よ!ワクワクしてきたわ。
次の週末、私達は学園の許可を取って街に外出した。
辻馬車を呼んで出発したのだけれど...。
「キラ!なんでジンを連れて来てるの?」
「あの、、ごめん!どうしても離れてくれなくて...。朝から、置いて行こうとしても駄目だったの..。この子、賢いからちゃんと建物の外で待てるから..。」
「ふふふっ。キラのナイトのつもりかしら。きっと心配なのよ。」
ミアが可笑しそうに笑う。
「別にいいけど。ちゃんとおとなしくさせておくのよ!」
「分かった..。」
私達は、ワイワイと賑やかに馬車に揺られながら街に向かった。
もちろん、私の瞳は紫!辻馬車の御者も全く無反応で、人目を気にせずいられるのがこんなに気楽だなんて..。
初めての女子旅にワクワクせずにいられない。
私達は、マリアンヌの推しの英雄が住んでいたという古城を訪れた。200年ほど前に実在した英雄エドワードの古城だ。当時、隣国との大きな戦いで、敵に攻め込まれ街を包囲され、誰もが敗北を覚悟した状況下の中で、彼の大胆な戦略により王都の民を救ったと言われている。
英雄エドワードの古城は、石造りの簡素な造りで、外敵からの侵入を防ぐ仕掛けがたくさんあった。城内の装飾もシンプルで機能的。贅沢な見た目よりも利便性を重視していたことがうかがえた。
王都の街にこんな古城が残ってるなんて知らなかったわ。実物を見ると、こんな歴史があったんだよねって、色んな想像が膨らんでくる。
古城に併設された博物館には、英雄エドワードの使っていた剣や魔道具も展示してあった。今はもう、魔法は消えてただの骨董だけど、見ているだけで楽しい。
「『眠り姫と魔法のランプ』の童話は、英雄エドワードがモデルと言われているのよ。」
マリアンヌが、博物館の展示を見ながら解説する。
「えっ?眠り続けるお姫様を王子様が魔法のランプで目覚めさせる話よね?」
「どうして英雄エドワードなの?」
「エドワードは、学問や魔法にも秀でた人物だったのよ。彼の妻は病弱でね。ずっと寝たきりだったのだけど、彼が妻のために魔法の香炉を作って、その香を嗅ぐと妻は少しずつ元気になったという話があるのよ。」
「へ〜。英雄は愛妻家だったのね。」
「ねえ、魔法の香炉って、あそこにあるやつじゃない?そういう話を聞くと魔道具ってちょっとロマンを感じるわね。」
私達は、英雄エドワードの歴史に思いを馳せながら、古城を後にした。
その後、私達は、サーヤが行きたがっていた人気のタルトのお店を訪れた。山小屋風の可愛らしい建物で、人気なだけあって、入り口には長い行列ができていた。
さすがに女性客ばかりだ。高貴な貴族と思われるご令嬢達も多く並んでいた。
「わ〜っ!すごい人ね。」
「でも、せっかくだから並ぶしかない!」
私達は、おしゃべりしながら、小一時間ほど並んで、ようやくテーブルについた。
ショーケースには、色んな種類の可愛くデコレーションされたタルトが並んでいた。思わず目移りしてしまう。
さんざん悩んだ後、皆は思い思いに好きなタルトを注文した。私はもちろん、リンゴタルト。
そして、運ばれてきたタルトをさっそく食べてみて、ビックリした。
自宅でシェフのトムが焼いてくれていたリンゴタルトも絶品だけど、さすがに有名店の味は上品で繊細!
「美味し~~い」
「来て良かったよね~。」
「古城も楽しかったし。」
「そうそう、キラが好きな昔の魔道具も、素敵だったわ。私、興味が湧いちゃった。」
「そうでしょ。いつか自分でも作ってみたいんだけどな...」
私は、日頃から思っていたことを口にした。
「自分で作る?面白そうね。作れるの?」
「今どきの魔道具は、高度な魔法が扱える人でないと作れないわ。でも昔の物は、希少な植物とか鉱物とか、色んな物の持つ力が利用されているの。そういった物の組み合わせで、いろいろな効力を持つ魔道具が作られているの。今の魔道具には高度な技術を使った魔法が使われているけど、昔の物は割りと単純な魔法が使われているのよね。
最終的には、魔力を込める必要があるから、魔法を使える人の力は必要だけど..。魔法が単純な分、誰でも作れるし、時間が経って魔法が弱まっても、また魔力を込めて使い回すことがしやすいのよね。」
マリアンヌは興味深そうに私の話を聞き、言った。
「へぇ、面白いわね....。ねえ、皆で作ってみましょうよ。簡単な物とかなら出来そうじゃない?」
「面白そう!」
「でも私達、魔法が使えないから...。」
ミアが目を輝かせて言う。
「私、魔法科に協力を頼めそうな知り合いがいるわ。今度、話してみる!」
翌日のお昼休み、ミアが魔法科1年生の男子学生をいつもの食堂のテーブルに連れてきた。
「彼はショーン。私の中学部からのお友達よ。さっそく魔道具作りのことを相談したら、快く引き受けてくれたの。」
「初めまして。ミアから話を聞いて面白そうって思ったんだ。君たち研究科なのに魔道具作りを考えるなんてすごいよね。誘ってくれてありがとう。是非、僕も仲間にいれてよ。」
「嬉しいわ。よろしくね。」
私はショーンにお礼を言う。
「こちらこそ。一度君と話してみたいと思ってたんだ。なんて言ったって、王国の有名人だもんね!」
ショーンは、興味津々の瞳を私に向ける。
「ショーン、興味本位でキラに近づこうとしているのなら許さなくってよ。」
ミアが低い声で釘を指す。
「ご、ごめん!気を悪くした?そんなつもりじゃなくて...。学園で君を見かけた時の印象と色々聞いていた噂とで、全然違うなって思ってたから...。本当は、どんな子なんだろうって思ってたんだ。ミアが仲良くしてるって聞いて、ますます話してみたいと思ったんだよ。」
ショーンは気まずそうな顔だ。
ミアは少し怒ってたけど、ショーンの態度に全然嫌な感じはない。多分、思ったことが正直に言葉に出るタイプなんだろうな。なんだか憎めない感じで、仲良くなれそう。
「大丈夫よ、ショーン。私も仲良くしてもらえると嬉しいわ。」
私がそう言うと、ショーンはほっとした表情で満面の笑みを浮かべた。本当に素直で分かりやすくて、ちょっと笑ってしまった。




