(16)
僕は、2階の食堂の一室から、窓の外を眺めていた。クラーク殿下専用の食堂の小部屋の窓からは、研究科棟と食堂棟との間の中庭がよく見える。
キラが友人たちと4人で中庭のベンチに腰掛け、楽しそうにおしゃべりしている。ここのところ、ずっと彼女達と一緒に過ごしているようだ。
久しぶりに見るキラの弾けるような笑顔。
----良かった。友達ができたみたいだ。
そう思う一方、
----昔はキラのあの笑顔の隣にいたのは、僕だったのに..
ちょっと彼女達に嫉妬してしまう。
いや、正直かなり悔しい。
パーティーの日以降、僕は全然キラに直接会えないままだ。
彼女はどうやら、魔法科の学生がいる場所には近づかないようにしているようだ。
「キラ嬢、友達ができたみたいだな。」
クラークが、窓の外を見ながら声を掛けてきた。
「ああ...」
「なんだよ、機嫌が悪いな。」
「.....」
「お前、ずいぶんキラ嬢に避けられているみたいだものな。」
「.....」
「お前達が許嫁同士ってことも、彼女は黙ってて欲しいっていってるんだろう?..まあ、その方が賢いだろうな。ただでさえ彼女注目されているのに、お前が相手じゃあ、敵を増やす一方だ。」
「...分かってるよ...」
「まあ、何か誤解もあるみたいだけどな。」
僕はニヤニヤと笑っているクラークを睨み付ける。
そうなのだ。女子学生達が、なんとか言うロマンス小説になぞらえて、僕とイレーネ嬢の仲を噂していることは知っている。いちいち面倒くさいし、勝手にそう思わせておいた方が、すり寄ってくる女が少なくなるから、放置しておいた。
それが、早々にキラの耳に入るとは...想定外だったな。全く..。
イレーネ嬢は、控えめでよく働くし、媚を売ってくるような女性でもない。悪い子ではないとは思う。いつも好意的で、よい友人だとは思っている。だから、邪険に扱うこともできず...。
結局、噂がそのまま本当のことのように流されていて..。
イレーネ嬢は、学生達に聖女様とか呼ばれる人気者で、彼女のことを崇拝している学生も多い。そういう奴等が、キラを敵視する可能性も無視できないし。
キラの奴も何故かイレーネ嬢に気を使っていて...。
本当に腹が立つ!
「そういえば、キラ嬢、時々、剣術クラブを覗いているらしいぞ。誰か想う人が剣術クラブにいるんじゃないかって、男子達の間で噂になっているらしい。」
「はっ?!」
「実際、彼女、可愛いからな。好意からでも悪意からでも、彼女に近づきたい男は多いだろう。最近は随分クラスの中でも彼女、受け入れられてきてるみたいだし。」
----はあっ。そうか..、そうだよな。キラは敬遠されがちな存在ではあるけど、実際、かなり可愛い。キラの人柄を知れば 彼女に想いを寄せる男が近づいてくることは、十分にあり得る。うっかりしていた..。
これは近いうちにキラにまた会っておかないといけないな。
もっと、ちゃんと捕まえておかないと...。
全く、あいつ、どれだけ自分が注目されているのか、全く自覚してないよな..。
...そして、僕のことをまだ怖がっている。
学園でキラに再会した時の彼女の反応は、彼女に初めて会った時と同じだった。僕のことを恐れている。
僕の、何が、キラを恐れさせるのか?
キラに嫌われている訳ではないと思う。むしろ好意を持ってくれている。キラと一緒に過ごした5年間は、僕達二人にとって大切な時間であったことは、間違いないだろう。
では、何故?
彼女の不可解な行動の数々..。彼女の抱えている秘密...。
いつか僕に話してくれるのを待とうと思っていたけど...。それでは駄目だ。
もっと、彼女を追い詰め、暴いて、彼女の全部を僕の前に引っ張り出さなければ..。そうでないと、キラを捕まえておくことはできない。
「アレン、どうした? お前、急に..なんか、楽しそうだな?」
僕は、どうやら無意識に笑っていたらしい。
キラは、僕の臆病な黒ウサギは、本当に手強い。
どうやってキラを追い込んでいこうかって、考えたら楽しくなってきた。




