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その翌年の春、アレンは王立アカデミーに入学した。


王立アカデミーは、王国で一番優秀な学生が集まる学園。

全寮制の学園で、魔力を持つ学生が所属する魔法科と魔力のない学生が通う研究科から成る。

もちろん、貴族であろうが平民であろうが、実力があれば平等に入学し、学ぶことができる。学園内では、学生達も表向きは身分に関係なく過ごすこととなっている。


また、全寮制のため高位の貴族だろうと平民であろうと学園内の寮で生活し、基本的には学期の節目ごとの長期の休み以外は、自宅に帰ることは認められない。


一番の王太子側近候補のアレンは、当然、クラーク殿下と一緒に、この学園に通うことになった。

つまり、その間、私がアレンと会うこともできなくなるということ。


入学前、アレンは私がひとりで寂しくないようにと、子猫をプレゼントしてくれた。

銀色の短い毛並みにブルーの瞳の子猫。フワフワの小さな体で跳ねるように歩き、大きな瞳で警戒ぎみにこっちを見る様子がすごく愛らしい。


「かっ...可愛い~。」

思わず顔がにやけてしまう..。

「こっちにおいでっ」

て手を差し出すと、ジッと私の方を見て固まってしまって。怖いのかな?って手を引っ込めると、おもむろに近づいてきて、私の足にすり寄ってくる。


少し警戒心が強くて澄ました感じだけど、慣れてくるとすっごく甘えてきて、ツンデレなところがめちゃくちゃ可愛い。

私はジンと名付けた。

子猫とじゃれあいながらデレデレしている私を見て、アレンは嬉しそうに笑って、


「長期の休みになったら会いに来るから。」


と約束してくれた。



でも...

私は、決めていた。

もう、彼とは距離取ろうと。


その頃、ダグラス侯爵家から、そろそろアレンと私の正式な婚約式を執り行わないかと打診があっていた。

でも私は、急ぐ必要はないから、もう少しお互い自分の将来を見据えてからにしましょうと、やんわりと先延ばしにしていた。


だって、もうすぐ私は何か事件を犯して、アレンに殺されるのに...。

私は彼の婚約者であってはいけない。ただの知人。幼馴染み。それだけ。

彼に自分の婚約者を殺すなどという酷いことをさせる訳にはいかないのだ。


アレンだって、きっとアカデミーで学友たちと楽しい学園生活を送っているだろう。

もう素敵な女性と出会い、恋に落ちているかもしれない。あの夢に出てくる美しい女性と...。

そう思うと胸が苦しくなるが、彼には絶対に幸せになってほしい。

親の決めた約束に囚われずに、自分で自分の運命の人を選んで、素敵な人生を歩んで欲しい。


もう私は、アレンから自立して、ひとりで私の運命と向き合わなければ...。



アレンは、時々私に手紙を送ってくれた。学園で充実した日々を送っているようすが綴られていた。

でも私は、少しずつ返事を書くのを減らしていき、最後は返事を書かなくなった。

やがて、彼からの手紙も途絶えた...。

そう、、これでいい..。



アレンがアカデミーに入った後、私は勉強や剣術に明け暮れる毎日だった。


最近は、古い魔道具について調べている。魔道具は、私のような魔力のない人でも魔法の力を享受できる便利グッズ。

昔は強力な効力を持つ魔道具も存在したようだが、今はそのような魔道具はなくなってしまった。アレンがくれたネックレスのように魔除けやお守り程度の物が主流。

私はこのような古い魔道具のことをもっと知りたいと思っていた。


もうひとつ文献や歴史書の中で探していたのは、予知夢や魔女に関するもの。過去に私と同じような人がいなかったのか知りたいと思っていた。

しかし、こちらの方は全く、、それらしい記述を見つけることはできていない。



そして、変わらず予知夢も見ていたし、時々ひとりで屋敷を抜け出しては、夢で見た悪い出来事を回避するため、奔走していた。


そうそう、最近になって、あの夜会であったホフマン伯爵の所の侍女、ホフマン伯爵から酷い虐待を受けていたあの侍女は、私付きの侍女としてサザーランド家で働き始めた。


私がこっそり屋敷を抜け出し、町に出ていた時に、偶然彼女と出くわしたのだ。

彼女はニーナといった。華奢な体つきのため年齢より幼く見えるけれども、知的な表情と意思の強そうな眼差しが印象的な子だった。

ニーナは、その時も酷い暴力を受けていて、顔に大きな痣を作っていた。


彼女は孤児院の出身。幼い頃、父親も母親も事故で亡くして、他に身寄りもなく孤児院で育てられたのだそう。孤児院を出た後、ホフマン伯爵家で働き始めたのであるが、ことあるごとにホフマン伯爵から理不尽な怒りをぶつけられていた。ニーナに身寄りがなく、他に行くあてがないことをいいことに、殊更酷い扱いをうけていた。

ニーナは、不幸な生い立ちではあったが、自分をしっかり持っていて、とても賢い子だった。

だから、ホフマン伯爵の無茶な要求や怒りに対して、他の使用人達のようにおべっかを使ったり、愛想笑いで対応することもなく、そういった彼女の態度から、ホフマン伯爵の更なる怒りを買っていたようだ。


また、ニーナは非常に警戒心が強かった。初めて出会った時から、私は彼女にホフマン伯爵の所を出て、サザーランド伯爵家で働くことを提案し、いまより厚待遇を約束するからとスカウトしてていたのだが、彼女はなかなか信用してくれなかった。

それもそうか。

赤魔女から突然そんなこと言われても、、、怖いよね。


なので、私はその日から何度もホフマン邸の近くで彼女を待ち伏せし、屋敷から出てきた彼女を捕まえては説得を繰り返した。

「あなたは、こんな扱いを受けてよい人間じゃないわ。こんな所で働く必要なんてないのよ。大丈夫、私に任せてくれれば、うまくいくから。あなたにも幸せに生きる権利があるのよ!」



何度目かに彼女を待ち伏せした時、彼女は呆れたように眉間にシワを寄せて私に言った。

「ヒースリィの赤魔女はストーカーなの?私のことなんか..いったい、どうしたいのですか?

...でも、どうやらホフマン伯爵よりずっと手強そうですね。決めました。あなたについていくことにします。」


その後、彼女は自らホフマン伯爵家に辞職を願い出て、サザーランド家にやって来た。


ニーナには、私が時々こっそり屋敷を抜け出していることを知られてたから、色々と協力をしてもらうようになった。

彼女は王都の地理をよく知っていたので、私が夢で見た場所の特徴を教えて、その場所を特定したり、外出する時に、家の者に知られないよう誤魔化す手伝いをしてもらったり。

ニーナには少し魔法を使えたので、必要な時は、一緒に外出したりもした。


ニーナにも私の予知夢については、何も話していなかった。だから、彼女にとっては不審に思うことばかりだと思う。でも、彼女は余計な詮索をすることなく、忠実に私の指示どおり動いてくれた。

実に有能な侍女である。



アカデミーが長期の休みになる時期になると、私は、あれこれと理由をつけて、ヒースリィの領地の屋敷に戻り、その時期を過ごすようにした。

アレンと会わないでいいように...。



そうやって2年間、何事もなく過ごしてきたが、私もいよいよアカデミーに入学する年になった。


王都に移ってからずっと、私は学校に通わず、家庭教師を付けてもらっていた。

でも、この王国では成人前の4年間は、必ずアカデミーで学ぶことになっている。

私も必ずどこかのアカデミーに行かなければならない。


私は、できればアレンの居る王立アカデミーではなく、自宅から通える別のアカデミーに行きたいと思っていた。


なぜなら、あの夢、何度も見るあの恐ろしい夢の場所が、どこかの学園だろうと推測していたから。

夢で見る人々は若い人たちで、制服のようなものを着ていたし、背景は歴史を感じさせる古い建物の中のようだった。

そうだとすると、アレンの居る王立アカデミーの可能性は高い。


私はお父様とお母様に何度も王立アカデミーではなく、他のアカデミーに行きたいと訴えていたが、二人とも認めてはくれなかった。


理由は、王立アカデミーが非常に安全な場所であるということ。


王国内の優秀な学生が集まる学園というだけあって、そのセキュリティ対策は万全なのだ。学園の敷地をぐるっと取り囲むように魔法による結界が張り巡らされていて、外部の人が、容易に侵入できないようになっている。

全寮制で、高位貴族であろうと皆、学園の敷地内で生活しなければならないのも、その対策の一つになっている。


また、アレンがいることも、お父様とお母様の安心材料の一つ。


私は、何度も何度も交渉を重ね、自宅から通える学園にしたいと訴え続けてみたものの、全然ダメで..。

…どうやら王室のご意向もあるらしいということも分かってきた。


なるほど。

何かと世間を騒がせる可能性がのある私を自由にしておくより、きちんと監視下に置いておきたいということか。


結局、王立アカデミーに行かざるを得ないと諦めるしかなかった。



王立アカデミーは、貴族であれば、侍女を伴うことも認められてる。

でも私は、一人で行くことにした。

ニーナを連れて行くことを考えなくもなかったが、彼女には学園の外にいてもらった方が、何かと便利だと思ったから。


その代わり、猫のジンを連れて行くことを特別に許可してもらった。

アレンが、私が一人で寂しくないようにと、学園長に話を通してくれたらしい。

正直、心細いところがあったので、とっても嬉しい。

...アレンが、まだ私のことを気にかけてくれていることも。


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