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私は14歳になり、社交界デビューの年を迎えた。
相変わらず学校には通っていなかった。
王国の内政が不安定で、お父様が私の身の安全を心配していたからだ。
現国王は、身分の格差を減らし開かれた王国を目指す政策を推進していた。
そのため、これに不満を持つ高位貴族達が不穏な動きをしていたのだ。
特に国王の祖父の兄弟筋にあたるエルダー公爵は、国王の一人息子、クラーク殿下の王位継承権を奪おうと狙っていると噂されていて、どうやら不満分子の貴族達を陰で動かしているようだと言われていた。
一方で、既に他国の姫とご婚約を交わされているクラーク殿下に、自分のまだ5才にしかならない娘を妻にあてがおうとする動きもあって...。
もう、なりふり構わない傍若無人ぶり。
そんな中、王国で絶対の知名度があり、王の助言役である魔導師サザーランド伯爵家の娘である私に接触したがる者も多く、利用しようと企んでいるのだと思われた。
だから、私は表向きには、深窓の令嬢を装って、学校にも通わず過ごしていた。
そんな中、私のデビュー問題が遂に迫って来たというわけ。
この王国ではデビューの年には、王室の主催するいずれかの夜会に出席し、国王陛下と妃殿下に挨拶をするしきたりがある。
その際には、一曲ダンスも踊らなくちゃいけない。
私は全く夜会など興味はなかったんだけど、こればっかりは避けて通ることができず...。由緒正しいサザーランド家の一員として、国のしきたりを無視することはできない訳で...。
さしあたって、問題は二つ。
ひとつは、下心を持って私に取り入り利用しようと近づいてくる輩をどうかわすかということ。私が下手なことをしたら、瞬く間に醜聞が広まることは間違いない。
こちらの問題は、アレンが私のエスコートを務め、お兄様と二人でがっちり守りを固めてくれることになっている。
二つ目は、ダンス...。
私がダンスを踊れないこと。
私、全くダンスなどとは無縁の生活だったから、全然練習なんてしてなかったんだよね。
そのうち、必要になったら練習すればいっか~って思って。
でも、いざ練習を始めてみると、なんか私、才能がないみたいで...。
アレンがずっと練習に付き合ってくれてたんだけど、もう目も当てられない状態で..。
「キラ!どうして?君、運動神経はいいんだから、これぐらいのステップ踏めるだろう?」
「...いや..運動神経とリズム感は違うのよ!」
「痛てっ..」
「ごめん!また踏んじゃった?」
「....」
てな感じで....全然上達しない。
アレンは、ダンスもすごく上手で一生懸命リードしてくれてるんだけど。
仕舞いにアレンは、痺れを切らしたように
「もう、仕方がないな。こうするか!」
と言い、私の腰をぐいっと引き寄せ、半分抱き抱えるようにして踊り始めた。
「どうせドレスで足は隠れるんだから、頑張って僕の動きに着いて来るだけでいいよ。」
「やだっ!こんなにくっついてたら恥ずかしい!」
「そんなこと言ったって、仕方がないだろう?!」
そんなことを言い合いながらも練習を重ね、なんとなく形になるくらいまでにはなったと思う。たぶん...。
大いに不安は残るけど、後はアレンがなんとか誤魔化してくれるということで、お父様もお母様も一応はほっと胸を撫で下ろしたのだけど。
後は、私が粗相をしないように、練習どおりご令嬢らしく舞えるかだけ。
アレンは、私にデビュタントの白いドレスをプレゼントしてくれた。
クリーム色のアンティークなシルエットで胸元とスカートのインナーに使用されたチュールに少しだけ濃いブルーが使われている。素朴なマーブルの花を思わせるドレス。
私の黒い髪と赤い瞳には、白や淡い色は全く似合わない。本当は、魔女らしく黒とかグレーがお似合いなんだけど。
アレンの選んでくれたドレスは、そんな私でもしっくりとくるドレスだった。
本当にどこまでもアレンにはお世話になりっぱなし...。
もう、頭が上がらない。
だいたい、たった一回夜会に参加するために、家族総出で、アレンまで巻き込んで、まるで戦にでも行くような大騒ぎ。
自分でもちょっと情けない。




