(9)
アレンと出会って1年くらいたった時、彼の猫のクローディアが姿を消した。
私はクローディアが自分の死期を悟り、静かなマーブルの森の奥でひっそりと息を引き取ったことを知っていた。
事前に夢で、そうなることを知っていた。
不幸な予知夢を見るたびに、私はその出来事で傷つく人がなくなるよう対策を考え行動するようになっていたけど、救うことができたのは、ほんの一握りだけ。
ましてや、寿命や病気など自然の摂理によるものは、どうすることもできない。
もうすぐ失われる命を、私は黙って見送ることしかできない。
アレンはすっかり気落ちしてしまい、食事もほとんど食べなくなり、クローディアがいなくなったことを受け入れられずにいた。
生まれた時から彼女はアレンの側にいて、王族に支える者として、厳しい戒律と訓練を強いられてきた彼の心の支えとなる存在だったのだから仕方がない。
私は、アレンに本当のことを伝えられず..。
「そのうちひょっこり帰ってくるかもしれないわ。彼女のお気に入りのマーブルの森の日だまりの場所で、一緒に帰って来るのを待っていましょう。」
と彼を誘った。
それから私達は、毎日アレンが学校から帰った後、一緒にマーブルの森に行き、クローディアのお気に入りの場所に座って、鳥の囀りや木々のざわめきを聞きながら、彼女の帰りを待ち続けた。
---その間、私達はたくさん話をした。
アレンはクローディアとのたくさんの思い出をポツリポツリと長い時間、話してくれた。
そうやって一週間くらいした頃、ふたりでいつもの場所に座っていた時、アレンは静かに私に言った。
「クローディアは、もう死んでしまったんだと思う...。お婆ちゃんだったしね..。」
私は黙って彼の瞳を見つめた。
いつもの力強いアレンの瞳。
「猫は自分の死を家族に見せないように、死期をさとると家族の前からいなくなるそうなんだ。きっとクローディアもどこかで死んでしまったんだと思う...。」
「...クローディアは、アレンに元気な姿だけを覚えていて欲しかったね...。」
アレンは泣いているのかと思った。
でも、彼は柔らかい笑顔で私の方を向いて、
「そろそろ、帰ろう。ありがとう。」
と言った。
いつもと同じ、深く青い瞳で。




