三 物語の舞台へ
屋敷を騒がす魔物の討伐依頼や、未来の王妃教育。
私はあいかわらず男性を避け、婚約者どのは遊び回る。
そして、兄エルドナーレから聞かされた『光の魔法』の持ち主が現れた件。
絶好のコンディション。
リュミネーヴァ、いよいよ魔法学校へ入学の日。
「お嬢様、お似合いです」
「あら、ありがとう」
火属性持ちの証である、紅い髪が特徴のフレア。
身の回りのお世話を専属でお願いしている侍女であるが、あいにく魔法学校は貴族も平民も関係ない開かれた教育機関。
侍女を連れての登校はできないのだった。
(うーーん、デザインはかわいらしいけれど、軍服に近いのかしら)
どこか動きやすさ重視なのは、気のせいではないのだろう。
まぁ、スカートだし構わない。
「さあて、いよいよね」
と言っても目標は、目立たない、騒がない。
男性、特に攻略キャラとは極力接触しない。
ヒロインが着実に攻略キャラの心を掴み、王道のルートである我が婚約者殿の寵愛を受ければ。
晴れて、自由の身が待っている。
少しはましになったとはいえ、今でも男性は苦手だ。
しかし、自由の身になるまでの我慢。
そう思えば、なんとかなる。
(だいたい、王妃が務まる器でもないし……)
レッツゴー婚約破棄。
レッツゴーヒロイン。
私の未来は、原作どおり貴女にかかっているのよ。
◇
大変不本意な、とでも言いそうなお顔をしてらっしゃる婚約者殿のエスコートで魔法学校に無事入学。
一応、登下校に馬車の使用はオーケーらしい。
狭い空間にて男性と二人、の図は本来アウトなのだが。
さすがに、家族以外の人生で一番共に過ごした男性なので、ギリセーフ。
震えはでない。
一応、ギリ。
入学時は一緒に登校するのがならわしなのか、我が家まで迎えに来てくれていた。
「相変わらず、仲睦まじいですね」
(げ)
ゲームの表紙にいた、攻略キャラの一人であるメーアス。
青い髪と眼鏡が特徴的で、一見穏やかではあるが。
三大公爵家のひとつ、智のナ・メルゼン一族の次期当主。
将来はエレデア王国軍における、諜報部のトップを司る人物。
同僚が言ってた「実は腹黒い」が忘れられない。
「……そう見えるなら重症だ」
「あ、はは」
おい。
同僚の推しよ、少しは立場というものを読んでくれ。
赤い髪を緩くひとつに束ねた婚約者殿は、顔立ちこそ整っているが性格的にはこの数年間、一度も好きになれたことがない。
原作では、こんな人物が真実の愛を見付けることで真っ当になる、いわゆる『ギャップ萌え』が支持されているのだろうが。
実際に同じ時を過ごしてみると、人間として普通に無理。
「まぁまぁ」
ここで話を広げてはならない。
攻略キャラには、早々に立ち去ってもらうに限る。
(げげ)
そう思うところに追い打ちをかけるように、また一人攻略キャラが現れた。
「お! みんな元気そうだな!」
いわゆるムードメーカー兼肉体派キャラ。
地属性を思わせる茶色の短髪が彼の明るさを引き立たせる。
剣の一族である、ウルム・シ・ラム・アイゼンだ。
今いるメンバーの中で、一番背が高く、同じ年ながらお兄さんのようだ。
(揃ってしまわれた)
一応パッケージだけで言えば、四キャラ。
第一王子である、ライエン。
未来の参謀長、メーアス。
次期騎士団長、ウルム。
現魔法師団長、我が兄エルドナーレ。
これが、一周目の攻略キャラだ。
ちなみに二週目には隠しキャラがいるらしいが、同僚も攻略途中だったため、分からない。
そして、エルドナーレのイベントは基本的に悪役令嬢が出てきた時の選択で派生するらしい。
つまり、攻略キャラやヒロインとの接触を避けたい私にとっては、兄がヒロインに惹かれることはあれど、好感度マックスになることは絶対にない。
もとより親友の三人が話している様子を見守る。
そして、ふと思った。
(どのルートでも悪役令嬢だから、婚約破棄は必須なんだろうけど。仮にライエン以外のルートになったら、どういう流れで破棄されるのかしら)
ライエンルートであれば、想像は容易い。
好きな人をとられたリュミネーヴァが、いじわるを仕掛ける。
恐らくそんなところだろう。
だが、他のルートになったとして。
王子もヒロインに夢中になって、婚約破棄になるのはまぁ、分かる。
でも、さすがに一国の王子が『親友の想い人を好きになったから』という理由で、婚約破棄するだろうか?
なんか、見落としてない……?
「リュミ」
「あ、はい」
「行くぞ」
「すぐ参ります」
仲良し会議は終わったらしい。
初めての授業は、恐らくクラスの自己紹介になるだろう。