三十三 不穏②
(だいたい、魔族の魔力を感じれるほど、あなたたち敏感じゃないでしょ!)
屋敷へと向かう足が、自然に地面を力強くふみつける。
さきほどの件を思い出すとまた腹が立ってきた。
元の世界。
魔力なんて持っていない自分では言葉に表せないような。
魔族を前にすると、特に魔力を多くもつ者にとっては恐怖、畏怖、悪寒。
そういった、魔力としての違和感を感じることがある。
それが唯一、魔族を見分ける指標。
見た目にはなにも違いはなく、元の世界でいうところの『人間』といわず『日本人』という感覚に近い。
生まれた国のちがい。
だが人というのは、恐れを抱くものに関して時に敏感だ。
(アイゼン公爵家は、外敵とみなしているのかしらね)
原作と違う、魔皇国との争いがないこの世界。
争いがあった世界線では、魔族へ憎悪をぶつける意味で、アイゼン公爵家はライエンに忠実だったのかもしれないが……。
(ここでも原作クラッシャーの影響、か)
確定ではないが。
その可能性を考慮して動いた方がいいだろう。
(そして……、二人。いや、三人。か)
魔力の流れ。
すぐれた魔法使いは、それを掴むのが上手い。
特に風の属性を操るものが得意だ。
屋敷へ向かう方へと流れるそれは、王国軍本部をでて数人分。
目的地が違うのであれば、この距離まで歩いても全員がおなじ方向を流れるのは不自然。
(はぁ)
メーアスが言っていたのは、このこと。
ライエンや魔族へと手を貸すというのは、第二王子派。
もしくはそれ以外の反ライエンの勢力に狙われるというもの。
……でも、彼らは王国軍本部からお出ましだ。
(第二王子派、ねぇ)
レイセル王子って、そんな好戦的なの?
四歳下なら、十二歳よね?
それか、王妃様の刺客か。
「めんどう……」
ここで手を出すのは得策ではない。
明確に、『あなたたちは敵です!』というには、証拠がない。
その辺で雇われた者ならまだしも、だれの差し金かなんて彼らは吐かないだろう。
撒くか。
顔は割れているのだし、屋敷への道筋もバレている。
まだ先回りされていない今しかない。
「せーーの」
自分の合図で駆け出し、ひとまず一瞬でも見失わせるための路地を探す。
ふつう、こんな綺麗なドレスを着たお嬢様が走ってたらビビる。
でも、少なくてもこの王都での私は、魔将ローゼン一族の者。
聞こえてくるのは「今日も頑張ってください」の声だ。
(! あそこにしよう)
左前方。家と家の間に、薄暗い路地があった。
さっと入れば、両隣の家はちょうど良く一階建て。
『風よ、この身をはこぶ羽となれ』
魔法とはイメージ。
戦いにおいては激しい、荒れ狂う風が望ましいだろうが。
今、この場において必要なのは、家の上まで自身を運んでもらうこと。
唱えると、上昇気流のように上へとのぼる、風の階段ができた。
(身体能力はそれほど高い訳じゃないから、助かるわぁ)
風が気を利かせて、一気に駆け昇るのではなくステップを一段一段用意してくれた。
イメージの力とは、まさに。
赤色の屋根の上にのぼり、風がやむ。
追跡者が慌てて駆けてくるのを尻目に、同じ要領で屋根伝いに屋敷へ向かった。
(ユールならまだしも……。なんで私なのかしら)




