表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/60

二 その時まで

 リュミネーヴァ、十四歳。


 これまで原作に関わりそうな特別な大事はなく、貴族の令嬢らしい日常を過ごした。

 まぁ普通の令嬢は魔物なんて退治しないだろうけど、あくまでこの世界基準で、だ。

  

 時を重ねるごとに、屋敷の者や家族の男性に対してはある程度耐えられるようになったが、外部の男性には相変わらず恐怖心がぬぐえなかった。


 十二歳で婚約してからというもの、第一王子であらせられるライエン・デュ・ロン・エレデア殿下は思っている以上にマメだ。


 直筆(だと信じたい)の手紙や花束も定期的にくるし、遠出は無理だが、王宮の庭園を散歩したり、お茶の時間を共に過ごすこともある。


 しかし。

 マメであるからこそ、同時に()()()は確実なものとなる。


「あの男……!」

「エルお兄様、お口が過ぎますわ」

「リュミというものがありながら……、信じられん!」


 二人で優雅にお茶をしながら座っていたが、婚約者の話になると妹ラブの兄は激高した。


 同僚の情報どおり、ライエン殿下は女好きであったからだ。

 今回は王宮の侍女との、……噂。

 そしてそれは、他ならない私のせいなのだろう。


「好きでもない女との将来が決まった身。お気持ちは少し、分かりますわ」

「だが……!」


 リュミネーヴァはとにかく完璧だった。

 見た目や貴族としての立ち居振る舞いだけでなく、十二歳以前。


 前世の記憶がよみがえる前から徳のある人物で、平民にも分け隔てなく接し、時には王国軍に付いて魔物の討伐をし、民に感謝される存在だった。


 つまり、悪役令嬢としてのリュミネーヴァが出来上がったのは、ヒロインという存在が大きな要因だろう。


 世界でただ一人の特別な存在。

 婚約者を奪う恐れがある、唯一の存在だったのだから。


 そしてヒロインとリュミネーヴァとの違い。


 それは、ライエン殿下のコンプレックスを刺激するかどうか、だ。

 もっというと、可愛げがあるか、だ。


 ヒロインはどこか守ってあげたくなるか弱い女性。そんな女性が果敢に立ち向かう姿と。

 片や、完全無欠な完璧令嬢がいとも容易く魔物を制する姿と。


 どちらを愛でたいかは、プライドの高いライエン()でなくても分かる。


 彼の『ふんっ、お高くとまったつもりか?』という言葉がその証拠だ。


 おまけに、前世のせいで必要最低限の会話や接触しかできない、今の私なら尚更のこと。


(ヒロインが好感度を上げるイベントとかする前に、出てきた時点で婚約破棄されるのでは?)


 それはいい。

 イエス、婚約破棄。


 勝手な予想だが、一応立ち絵の位置的に、メインヒーローはライエン……だと思う。

 よほどのことがない限り、ストーリーはライエンを中心として進んでいくだろう。


 なにせ、ヒロインにはこの世界がゲームであるという意思はないのだから。


 ()()()()()、私は在るがままを生きる。

 男性……特に攻略キャラとは接さないよう気を付けながら。


 それで、いいのだ。





 リュミネーヴァ、十五歳になる少し前。

 時期的には魔法学校入学の一年前。

 (こよみ)は日本と変わらない。さすがゲーム。


 穏便に婚約破棄されたいな、と呑気に来年を待つ私に、知らせが入った。


「屋敷がさわがしいわね……、フレア。何か聞いてる?」


 自室にて一応、王妃になる勉強を復習している最中、屋敷がざわつくのが分かった。

 専属の侍女である紅い髪が特徴のフレア。

 彼女にそれとなく聞いてみるが、わからない様子だ。


「いえ、なにも。……少々おまちください」

「頼んだわ」


 優秀な部下でもある彼女は、主の望みを先取りして情報収集に行った。


 勉強を休憩し、すこしわが身を振り返る。

 この三年、婚約者どのは相変わらず。

 男性の攻略キャラとは極まれに遭遇するが、接触は最小限に。


 そのおかげで、周りから見ればリュミネーヴァは第一王子をひたむきに愛する者だと評価を得た。


 まぁ、実際のところ二人の間に愛はないのだけれど。


 これで婚約者殿が勝手に婚約破棄してくれれば、こちらに非がないのは周囲にも伝わるだろうし、このままでいいでしょう。


 それより、問題は魔皇国だ。


 原作でリュミネーヴァがヒロインの仲間として行動はしていないのだろうが、少なくともこの国の筆頭貴族。

 魔のレ・ローゼンと言われる、どう考えても一大戦力の私が赴かないとは思えない。


「情報が少ないわね……」


 どのみち戦うことになるなら、今からでも準備をしなければならない。

 それがヒロイン達の手柄になれば、私が結婚しなくていい理由が増えるので、尚更よい。


 ただ、困ったことに今のところ魔皇国と不仲につながるような情報は、全くないのだ。


「魔族……」


 こちらで習ったところによると、魔物以外でこの世で唯一闇の魔法がつかえる種族。

 他人から魔力を吸い取ることができる、マジック・ドレイン(吸魔)が特徴で、吸魔族(きゅうまぞく)ともよばれる。


(そういえば、原作ではなぜ戦いが起きたのかしら?)


 今のところ情報がない、ということは。


 これから、入学後までの間で、なにか決定的なことが起こるのだろうか?


 だったらーー。


「争いそのものを、止められる……?」





==========

※屋敷がバタついている理由は本編終了後に番外編でお届けします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ