俺の幼馴染が他の男子と付き合ったら、幼馴染の友達が俺のことを励ましてくれた話
俺の幼馴染が誰よりも可愛いと気づいたのは小学生の時だった。名前を山川風香といい、誰にでも好かれるような優しい性格をしている。その上見た目も歳をとるごとに良くなっていった。
今俺たちは同じ高校に通っている。まだ入学してニヶ月だと言うのに先輩からも同学年の人からもたくさん告白されている。だが、優しい性格から考えられないほど振り方は適当で相手のことを見ようともしないらしい。ついでに告白してきた人とはそれ以降話そうともしない。
「かーくん、今日も校舎裏行ってくるから少しだけ待っててね」
「また告白?大変だね」
「えへへ、そんなに私って好かれるのかな」
子供の頃からふーちゃんと呼んでいるから、高校生になった今でもそう呼んでいる。それとかーくんというのは俺、島田和樹のあだ名だ。ま、ふーちゃんもかーくんも俺らの間でしか使ってないんだけどな。
「島田くん、今日も風香のこと待ってるの?」
「あー、そうだな。いっつも告白されてて大変そうだよな」
「ははは、告白待たされてる島田くんも島田くんだよね」
話しかけてきたのはふーちゃんの友達、桜田咲さんだ。ふーちゃんは黒髪ロングで胸は小さく身長が高いのだが、桜田さんはその真逆で金髪ポニーで大きな胸を持っているのに身長は低めなのだ。桜田さんもふーちゃんに負けず劣らず綺麗なのだが、中学時代からヤンチャしていると噂されているせいで告白どころか友達すらいないらしい。
「ま、モてる幼馴染持った人の宿命だよね」
「ふぅん…風香が告白受けたときのことは考えないわけ?」
「考えるさ。いつかは好きな男子ができて、その人と付き合うんだろーなぁぐらいは…まぁそれまでは幼馴染である俺が風香に一番近い男子として君臨しているわけだけどね!」
というのは建前…。風香に自分以外の彼氏ができてしまったら自分の存在意義がなくなってしまう…と思うぐらいにはショックを受けるだろう。じゃあ、その前に告白しろよという話だが…。まぁ俺は何とも平々凡々な一般人をやっているせいで風香の隣にずっと立っていられるほど立派な男ではないのだ。
「はぁ、風香だって人間なんだから心変わりする瞬間もあるんだよ?今はあんたでも、明日にはほかの男の隣に立ってるかもよ。ま、ずっとこんな調子でやってきてたんだったら大丈夫そうではあるけど…」
「俺よりいい男とくっついたらいいけどね」
「そんな調子じゃすぐ取られるぞお?」
今までもこんな感じだったし大丈夫だろう、まだ俺が告白するべき場面ではない。
次の日の放課後もまたふーちゃんの告白を待っていた。また今日も桜田さんが金髪ポニーを揺らしながら俺の隣に座ってきた。
「今日の告白さ、もしかしたら風香受けるかもよ?」
「受けるんだったら俺を待たせやしないでしょ」
「あんたを待たせなかったら告白を受けるってみんなに言ってるようなもんじゃん。案外あんたが風香を待ってるのかどうかって学校内でも監視されるぐらいには気にされてるんだからね」
「まじかよ」
「そりゃ、あんたが待てなかったらあの告白クラッシャーである風香が誰かの告白を受けるってこととほぼイコールなんだから誰だって気になるわよ」
「そんなもんかね」
さすが高校生は恋バナというものに敏感だな。俺に予定があって先に帰ってた場合はどうなるんだろうと思ってしまうが、今日の今日まで先に帰ったことはないから桜田さんが言ったとおりに思われていても仕方はないか。
「かーくん」
「お、やっと来たか。じゃ、帰るか」
「かーくん…あのね、私付き合うことにしたの」
「は…?」
「委員会で一緒になった人でさ…ほっとけないっていうのかな?気になってる人だったの…」
そういうふーちゃんの隣には俺のように冴えない男子が立っていた。サッカー部のエースや、学校でも評判なイケメンではない…身長も高くなく顔も別に特筆するべきところのない平凡な男子高校生がそこにいた。
「そうか、風香がそういうなら今日から一緒に帰ってくれ。じゃ、俺が後から帰るから気にせず先に帰っててくれ…」
「うん、ありがと」
俺はそのまま桜田さんのいる席の近くにまた戻った。
「何が風香だよ…かっこわる…」
「あーぁ、だから私昨日のうちに言ったのに、自分の気持ちに嘘はつけないもんだね」
「少し感傷に浸りたい気分なんだ、静かにしててくれないか」
「はぁ?あんたなんもしてないくせによく感傷に浸れるね。感傷に浸っていいのは自分で告白して振られた時だけだよ、何あたかも自分が被害者かのような雰囲気醸し出してるの」
「うるさいな!十年以上一緒にいたんだ…それに終わりを告げたんだよ。それもイケメンとか、特別な存在じゃなくて平凡な男子の手でだ…。こんなの悔やみきれるかよ」
「あんたがあの男子を平凡って言える資格ないよ。あの子はちゃんと告白したんだ、断られるかもしれないっていう恐怖に打ち勝って告白をしたんだよ。幼馴染っていう安定した立ち位置にずっといたあんたみたいな臆病者とはわけが違う」
「幼馴染だからだよ、だから…俺は告白ができなかったんだ…。あいつがいるのが当たり前で、いなくなるなんて思わないし思いたくもなかった…。だから変に自分で告白して振られるよりましだったんだよ…」
「はぁ、まぁあんたの言い分もわかるけどさぁ。恋ってそんなにいいものかね?私人のこと好きになったことないからわかんないのよね」
何が俺の言い分はわかるだよ。失恋した人に恋っていいものなのって質問できる桜田さんの方がこえぇよ。
「いいものかって聞かれても失恋した手前いいものって言えないけどさ…恋はしちゃうものなんだよ。はぁ、たった今失恋した俺にこんなこと言わせるとか鬼畜かよ」
「ふーん、じゃ新しい恋探せばいいじゃん」
「簡単に言うな」
「そりゃ簡単なことじゃないだろうけどさ、今自分で言ってたじゃん。恋はしちゃうものなんでしょ、じゃ新しい恋だっていつの間にかしちゃうんじゃない?」
「桜田さんの言ってることは明らかに正しい、正しいがあくまで理想の話にすぎないだろ。人っていうのは言った通りに動くものでもないし、何より感情が邪魔をする場合だってある」
「はぁ、うるさいなぁ。じゃあ自分変えてみようって思えないわけ?ってことで今週末の土曜、一緒に出掛けるわよ」
「傷心中の俺に付け込んでお金でもむしり取るつもりか?残念なことに俺そんなに金持ってないからな」
「別にたかりやしないわよ、私バイトしてるし」
「初耳だよ」
「言ってないんだから当たり前田のクラッカーよ」
そんなこんなで俺は失恋という傷がトラウマという名前に変わる前に、桜田さんに強引に出かける予定を組み立てられてしまった。なんというか、俺も風香がいないと友達いないから一緒にいてくれるだけでも助かる。助かるには助かるのだが、ことあるごとに正論という名の攻撃を俺にしてくるのだけはやめてくれないのだろうか?
ふーちゃんと呼ばなくなってから数日、やっと週末になったー!と喜べたのはほんの一瞬で桜田さんと出かけなければいけないという憂鬱が俺を襲ってきた。そもそも女の子と出かける時ってどういう服装を着ていけばいいのだろうか…。やばい、相談できる相手は俺の持っている携帯に内蔵されているAIしかいない。こうなったら無難な服装でいくしかないな。
待ち合わせは午前十時、早めに行って十五分前ぐらいだろうか…と早めに家を出たはずなのにすでにそこには桜田さんがいた。
「無難な服装ね。ま、いいんじゃない?悪くはないから及第点を上げるわ」
「アリガトウゴザイマス」
「なんで片言になってんのよ。それで女の子の服装に何か感想はないわけ?」
俺の服装を褒めも貶しもしなかった桜田さんの服装は白い肩だしのトップスにデニム調のロングスカートだった。髪型もいつものポニーではなく内側にくるっと巻かれているふわっとしたもので夏にはぴったりのものだった。なんというか学校では男勝りなイメージだったがこう見ると女の子なんだなって思える。
「学校とイメージが違いすぎて脳が処理しきれていないが、とりあえずとても似合ってるよ」
「ほめ方もなってないわねぇ、もっとわかりやすく言いなさい」
「わかりやすく…」
「髪型一つで雰囲気変わるんだね、そっちのほうが可愛くてすきだな。ぐらい言いなさい、これぐらい褒められなきゃ女の子はときめかないわよ」
いやいや、そんなきざなセリフ言えるわけがないだろ。そもそも俺は今傷心中だって言ってるだろ。というか、もしかしてこれって…。
「これって俺へのデート指導…?」
「それもあるわ、あくまでそれはついでだけどね」
「じゃ、じゃあ今日の本題は何なの」
「当たり前ながらあなたのその冴えない服装をパッとしたものにするのよ」
「だからお金多めにもってこいって言ってたんだ、俺のお小遣い少ないのに…」
「はぁ、あんたさおしゃれしたら世界変わるわよ?実際私がそうだったようにさ」
「なんだ?桜田さんはおしゃれに目覚めたおかげで何か変わったのか?」
「もちろん変わったわよ。それも話したいけどとりあえず私のこと桜田さんって呼ぶのやめて、咲でいいわよ」
「え…それはいきなりすぎないか」
「私がそう呼べって言ってるんだからいきなりも何もないでしょ?私も和樹って呼ばせてもらうから」
「うぅー、わかったよ。咲って呼べばいいんでしょ」
「よろしい、じゃまずは服屋さん行くわよ」
俺たちは今、広めのショッピングモールにいる。買いたいものがあれば基本ここにあり、その上近場にあるから俺たち学生はかなり重宝している場所だ。
「はいこれとこれ着て」
「わかった」
服屋に入った途端に白いティシャツと半袖の黒色のシャツ、焦げ茶色のジーンズを渡されそのまま試着室に連れてかれた。展開が早すぎてうまく呑み込めないがとりあえずティシャツを着て、その上にシャツを羽織ってジーンズを履いた。
「ふむ…まぁまぁね。それ買いなさい」
「え…」
「つべこべ言わずに買いなさい、さっきの服装よりかはましだから。それと、このネックレスも付けてね」
渡してきたのは小さな十字架のついたネックレスだった。ここまでされたら彼女に従うほかあるまい。
俺は自腹で服を買い、そのお店の袋の中に先ほどまで来ていた服を入れた。咲曰く、時間的にそろそろ飲食店が混みそうだからと早めに俺たちはご飯を食べることにした。咲はどうやら蕎麦が好きらしく、蕎麦屋さんに入ることとなった。
「この蕎麦屋さんおいしいのよ」
「何回か来たことあるんだ」
「毎回よ、一回食べたら忘れられない味とはここの蕎麦屋のことを言うのよ」
今日一番興奮して蕎麦のことを語ってくれているが、悲しいことに俺は蕎麦がそこまで好きではない。子供のころにカモ蕎麦を食べ、それがあまりにもまずくトラウマになっているからだ。それを先に伝えると…。
「あなたは人生での楽しみを減らしているわ、もったいない…私のそば一口だけでも食べてみて」
と、俺の前に蕎麦を一口前に持ってきた。咲が食べていたのはざる蕎麦で受け皿に分けれないものだったから、咲が使っているお箸で蕎麦を掴んでいた。ここで間接キスのことを指摘したら気にしすぎと言われるのだろう。咲の顔色が全く変わっていないのが何よりの証拠だ。仕方なく俺はそのまま蕎麦を食べることにした。
「ふむ…蕎麦そのものは美味しいな」
「でしょ?今更知るなんて可哀想超えてカワウソよ」
「ざるうどんじゃなくて蕎麦頼めばよかったな」
「またくればいいじゃん、私蕎麦なら一ヶ月連続でも食べれると思うから」
「そんな連続してきたら俺のお小遣いがマイナス超えてマイコプラズマになるよ」
「私のなんたら超えて構文パクったな、それも何気にうまいし!はぁ、ご飯食べたら私の買い物に付き合ってもらうから」
「わっかりました」
今まで咲と話す時は基本風香が間にいたから気づかなかったが、咲はかなり可愛らしい性格をしているようだ。会話も口調が強めだったり、毒を吐いたりはするが基本俺のことを思っているのはわかるし何より楽しそうに話してくれる。
「ねー、これどっちの方が可愛いと思う?」
「難しい質問だな」
「そこは適当にこっちの方が似合いそうだねーって言えば女の子は嬉しいの、正解なんてないんだから…わかった?」
「理解しましたー」
今は咲がミサンガを選んでいる。紫色と赤色で迷っているようだが、俺的には紫色の方が似合ってそうに思う。ほら、毒って紫色だし。
「じゃあ、紫色の方がいいんじゃないか」
「ほんと?私もそう思ったのよねぇ〜。うん、紫色にしよ」
咲は紫色のミサンガを買い満足そうな顔をしている。近くの休憩席でミサンガをつけ、写真を撮っていた。
「なんで写真撮ってるんだ」
「え?日記の代わりよ、最近の携帯って写真撮った日も勝手に記録されるじゃない。この日にこんなの買ったとか、こういうことしたなとか思い出すの好きなの」
「ふーん、いい趣味だな。俺も今度から写真撮ってみようかな」
「お、いいね。さりげなく女の子の趣味を褒めながら自分もやってみたいっていう共感を示してる。今日一番キュンときたわ」
「そりゃよかったよ…」
なにが今日一番キュンときただ。結局今日の本題とやらの服装替えは一瞬で終わったし、真の目的がなんなのかわからないままだと言うのに…。
「ね、ペットショップ寄っていい?」
「いいぞ、動物好きなのか?」
「ちっこくて可愛いのが好き」
そう言いながらケースに入った仔猫がゴロンゴロンしてる姿に萌えて悶えてる咲の姿も可愛らしかった。
「ねね、この猫可愛くない?足短いぃ〜」
「マンチカンだな」
「耳もちっこくて可愛いぃよこの子…だめ、可愛さで浄化されそう」
「はは、うちに猫いるが見にくるか?」
「え”、猫飼ってるの?」
「しろぶちの猫飼ってるぞ」
「まじ?行く、超行く」
すごい食いつきようだ。蕎麦のことといい、咲は自分の好きなものには目がないのかもな。
「いつくる?」
「今何時だっけ…まだ14時か、今行けない?」
「いいけど、今日両親いないけど大丈夫…?」
「なんで?そっちの方が遠慮しなくていいから気が楽でいいわ」
「そ、そうか」
ふむ…。咲は自分が可愛いということをもっと認識した方がいいと思う。俺みたいなヘタレで意気地なしな人間の家だからいいものの、俺以外だったら襲われてしまいそうだ。
「ここからどれぐらいで和樹の家は着くの?」
「それは…」
「あっれ〜、そのおしゃれしてるねぇちゃぁん…もしかしてぇ、もしかしてぇ〜金色の悪魔って呼ばれてた桜田咲さんじゃないですか〜なに?こんなひょろっちょい男子と仲良くしてるの〜?昔はやんちゃしてたやつも落ちるとこまで落ちたなぁ?」
「金色の悪魔もこの程度だってことかぁ?」
俺らがペットショップを後にし少し経った時、後ろの方からいかにも自分はヤンキーですと言わんばかりのファッションをした男二人組が話しかけてきた。
「俺らはよぉ〜ちょいっと昔お前に痛めつけられたんだよなぁ…いまだに忘れてねぇからな?おい、面かせや?今のお前なら俺の彼女になるだけで許してやってもいいぞ?」
「おいおい、兄貴〜俺にも使わせてくれよぉ」
「当たり前だろ、俺たちゃ兄弟だぜぇ?」
「さすが兄貴っす」
「って事でついてこい」
そういうと、男の一人が咲に手を伸ばす。が、咲の腕は掴めずに宙を掴む。俺が間に入ったからだ。
「おい、誰か知らんが今の咲はやんちゃから足洗ってんだよ、見たらわかるだろ」
「おいおい、なんだ?女子の前だからって張り切るねぇ?」
「俺らに力で勝てると思ってるのか?」
「多分負ける。これは火を見るより明らかだが、咲もお前らを汚物を見るような目で見ているのも事実だ」
「その目のままむちゃくちゃにするのが一番気持ちぃんだろーが」
「兄貴、こいつわかってないっすからなに言っても無駄っすよ」
「け、そうっぽいな」
会話でまるこめたかったが、どうやら失敗したようで俺を殴ろうと腕を振りかぶってきた。俺は歯を食いしばり痛みに備えたがいくら待とうが俺に腕がぶつかることはなかった。今度は咲が俺たちの間に入り、男の腕を片手で止めてしまっていたからだ。
「おい、誰か知らんがこれ以上私の機嫌を損ねない方がいいぞ…なにを勘違いしたか知らんが、私は喧嘩をやめただけだ」
「なに強がってんだよ、たまたま俺のパンチ受け止めただけでイキんな」
「ははは、イキル。そうか、事実を言うことがイキっていることになるのか。はぁ…うざいな」
その瞬間咲は男の顔面目掛けてパンチを繰り出すが、それは難なく受け止められてしまう。が、パンチした後少し遅れて男の脛を狙って蹴りをしていたらしく男はその蹴りをまんまとくらいうずくまった。パンチで上に集中させて下の足を狙うとはなんとも喧嘩慣れした人が使いそうな手法だ。
「いってぇな!」
「兄貴になにするんだよ!このアマっ」
「君たちなにをやってるんだ!」
もう一人の男が咲に殴りかかった時、ショッピングモールの警備員さんが来てくれた。周りで見ていた人が連れてきてくれたみたいだ。
「く、逃げるぞ」
「わかったっす」
と、なんとも雑魚敵の吐きそうなセリフとともに警備員さんから走って逃げていった。
「大丈夫かい…?」
「大丈夫ですよ!ありがとうございます」
「俺も大丈夫っす」
「よかった、それじゃ買い物楽しんでね」
警備員に何か聞かれるわけでもなくそのまま解放され、当初の予定通り俺の家に向かうことになった。それにしても咲は本当にやんちゃしてたんだな、噂じゃなくて事実だったのか。
「さっきの和樹かっこよかったぞ。女の子を守るために前に出る…いいね!私じゃなければ満点の対応だったな。私だから何もしなくても何も起きなかったわけだけど、やっぱ人に守られるっていい気分になるね」
「それは良かった」
「とはいえ昔の私に因縁つけてくるやつがここにいたなんてね…」
「学校の噂通りやんちゃしてたんだな」
「ま、隠すことでもないから言うけど昔の私は喧嘩に明け暮れてたのよ。途中でおしゃれし始めて喧嘩やめたんだけどね」
「それまたなんで」
「だって、おしゃれすると服が邪魔で喧嘩できなくなるんだもん。喧嘩よりおしゃれの方が楽しかったし、喧嘩を辞めたって感じかな」
この言い方だと喧嘩も楽しくてやってたのか…?いや、深い追求はやめよう。少なくとも俺は咲に絶対勝てない事実だけは明確になったのだから。
「それよりも猫だよ…エサ、エサってあげていいの?」
「家にあるからお菓子渡すよ」
「やった!ありがとう、これで私の夢が叶うよ…ぐへへ」
女の子が出してはいけないような声を出しているのは無視して猫トークは続く。
俺の家は風香の家の隣にある。幼馴染である最大の理由は家が隣同士だからだ。とはいえ、ちょうど玄関先で会うことなんてそんなないから今回も気にしてなかったが…。運悪く風香に会ってしまった。それも俺と咲が一緒にいると言う状況でだ。
「…咲ちゃんは優しいからかーくんとはお似合いだと思うよ?応援するね」
「そうか、ありがとな」
「じゃ」
非常に短いやりとり。今までなら一回顔を合わせればいつまでも話していたのに今となっては一言二言話すだけで会話が終わってしまう。
「…とりあえず俺の部屋行くか」
「家、隣同士だったんだね」
「そんな会うことないから気にしてなかったけど…今日は運が悪かったかなぁ」
俺の部屋に咲を案内してから飲み物と俺の飼っている猫を連れてきた。
「かわぃぃっ、お名前はなんて言うのぉ?」
「名前はだんごだ」
「だんごっていうにょ〜、かわいいねぇ〜」
会話の時よりも1オクターブ高くしてだんごと話している。だんごは基本人見知りをするが、咲にはしないようだ。いや、咲が強引に抱きついているから離れられないだけなのかもしれない。
「だんごが暴れないの珍しいよ」
「ほんと?嬉しい、だんごちゃん私嬉しぃよぉ」
咲がだんごをひとしきり堪能した後、とろけていた顔を急に引き締め真面目な顔になる。ギャップでこっちがニコニコしてしまう。
「それで、さっき風香と会ったけどどう思った?」
「どうって…」
「和樹の気持ち知ってるだろうに、私たちのことお似合いって言ったことよ」
「うーん、なんか別になんも思わなかったんだよね。多分失恋したその日だったらもっと傷ついてたと思うんだよね…」
ただ…。
「ただ、今日一日で気づいたんだ。俺が風香を好きだったのは幼馴染だったからなんだって」
「…違いがわからない。それって普通に好きってことじゃないの?」
「なんていえばいいんだろうか…。なんというか、幼馴染の女の子だからって理由で好きだったのかもしれないって…。俺自身が女の子って言う存在を今までよく見てこなかったんだなって、今日一日咲と一緒にいてそう思ったんだよね…」
「ふーん、つまり今はもう風香のことがそんなに好きではないってこと?」
「もちろん幼馴染としてはまだ好きだけど、女の子として好きかって聞かれた曖昧かもしれない…」
「ふふ、そうかそうか!それは良かった、いやぁ恋ってのはわからないからね、とりあえず失恋した傷は治ったわけか」
「あぁ」
「私もここまでした甲斐があるってものよ、うんうん。じゃあ、だんごとまた遊ばせてもらうね!だんごちゃーん」
「あ、待ってくれ」
「む、私がだんごばかりにかまうから嫉妬でもしたの?女の子は嫉妬されるの嬉しいだろうけどやっぱ私は猫の…」
「そうだ」
「方が…はぇ?…本当に嫉妬なの?」
「あぁ、今日一日咲と一緒に出掛けてみて分かった。俺は咲のような女の子がタイプらしい」
「た、タイプって…」
「たまに毒を吐くこともあるけど、根幹は優しさだというのもわかるし、何より可愛らしいその性格が好きだ」
「す、好きっ!?」
「あぁ、俺は咲のことが好きになってしまった。この責任は取ってくれないのか?」
「い、いや…。た、確かに私が無理くり誘ったのはあるけど…ま、まさか好きになられるとは思ってなかったから…はぅ」
りんごのように赤くなっている咲は自身の顔を手で仰いでいる。恥ずかしさで暑いのだろう。
「それで…返事は?」
「わ、私も…和樹のことは好きだけど…今はまだそんなんじゃないからお友達からじゃ…だめ…かな?」
上目遣いで俺に聞いてくる咲はとてつもなく可愛かった。これでだめだと言える人類は人類ではない。
「それでもいいからお願いする」
「う、うん…。お付き合い前提の友達…ってことでいいんだよね?」
「ぐっ」
お付き合い前提の友達…なんて甘美な響きだろうか。そうか…咲の言動、行動一つ一つが愛しく感じられるこれが恋というのか…。よかった、俺は本当に咲に恋をしている。
「あぁ、それで構わない。これからもよろしくな」
「ねね、ってことはいつでもここ来ていいの?」
「もちろんだ、いつ来てくれてもいいぞ」
「やった!だんごちゃーん、私毎日くるからねぇ〜!」
「って、だんごかよ!」
結局俺たちは付き合うことになるのだが、いつまでもだんごが彼女になった咲を奪うので嫉妬してしまう俺なのであった。
楽しかったよーって思っていただけたら幸いです。
咲ちゃん可愛いって思っていただけても幸いです。
では、ご縁があればまたどこかで〜