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第一話 女神、フラれる

 57614人。

 これがディーゴージさんの暴走したコードで死んだ人の数。


 57615人。

 これがディーゴージさんの住む隣町の総人口。


 簡単に言えば、ディーゴージさんの町はディーゴージさん以外全員死んだ。

 男も女も、老人も赤ん坊も、みんなみんな死んだ。

 あの時は緊急事態宣言な上に記者やギャラリーも禁止してたから、みんな自宅に待機してた。


 だから良くも悪くも被害者数は非常に計測しやすかったらしい。


 これがあった次の日、ディーゴージさんのコードは発現しなくなっていた。

 まるで暴走の代償とでも言うかのように、チーターとしての力を失っていた。


 コードを失いなんの価値もなくなったディーゴージさんは(少なくともあの人は自分をそう評価した)、罪の意識や大切な人を失った悲しみもあって、当たり前だけど死ぬことを選んだ。


 みんなに与えた苦しみを味わうためなのか、死に方は首つりだった。

 最期まであの人らしいとオレは思った。

 これにより死体はピッタリ57615体となった。


 5万人分以上の首絞め死体が転がっている町の処理は国の軍がやってくれるらしい。


 よかった。

 隣町のよしみだとか言ってオレの町の人が処理に駆り出されてたら気がくるっていたと思う。

 きっと火を使った雑な処理になるかもしれないけど、それでもやってくれるだけありがたい。


 一方、オレはというと……。


「…………」


 部屋で何もする気が起きず、ベッドに腰掛けたまま1日が過ぎようとしていた。

 でもそれ、前と何も変わってないじゃん……とツッコまれたら困る。


 だって心の沈み方は全然違うんだから。

 そうか、普段活動してないと、落ち込んだ時に理解されにくいんだな。


「……わかったでしょ。これがコードなの。チーターなの。

 何が起こるかなんてわからない、とんでもない力なの……」


 それでも理解してくれるのがマッキーで、今日はずっとオレの部屋にいる。

 なんの断りもなく入ってきたけど、オレもなんにもツッコまない。

 そんな気力もないし、むしろ今はありがたい。

 オレ、なんか……ありがたいばっかり言ってる。

 よくないよなぁ。

 こんな時に世界のありがたさを感じるの。


「こんにちはーー! リングさん!

今日もお元気そうで何よりですっ!」


 こいつは人間の心がないのだろうか。

 女神に人間の心を期待するのが間違ってる?


「何しに来たのよ!」


「それはもちろん、女神としての役目をまっとうしに来ただけですよっ!」


 女神としての役目……。


「さあ、リングさん! 理想のチーター像は決まりましたか?

 もっとも、レベル999のリングさんなら、ふわふわとした理想でも全然かまいません!

 どんな程度の低い理想でも誰よりも強くなれますよ!

 なので心配ご無用!

 それよりも、心配なのはこの町の平和!

 非常に残念なことですがディーゴージさんは暴走で使えなくなってしまいましたからね!

 チーターとしての力を失うだけでなく、命まで失われてしまって……。

 うう、悲しいです……。

 でも悲しんではいられませんよね。

 この辺一帯にチーターさんが不在という状況です。

 しかし支配種はそんなこちらの事情なんてお構いなしに現れます。

 いつ現れるか、それは誰にもわかりません。本当にわかりません。

 でも誰かが戦わなければならないのです。

 つまり新しいチーターさんが必要なんです!」


 女神はいっぱいしゃべってたたみかけた。

 そして息を吸って、最後にこう言った。


「さあ、リングさん!

 私の洗礼を受けて、チーターとなりましょう!」


「アンタ何言ってんのよっ!!」


 オレの代わりにマッキーが怒る。


「あんなの見せられて、洗礼なんてするわけないでしょっ!!」


「…………。

 え……?

 洗礼、なんて……するわけない……?

 そ、そうなんですか? リングさん……?」


「……そりゃ……、まあ……」


 この状況で勧誘した女神の無神経さにイライラするし、意外とセンチメンタルな自分にビックリもした。

 女神は女神でオレに断られたのが予想外だったのだろうか、何やら驚きの言葉を漏らしている。


「え。

 え、え、え、ええええぇぇ~~~~……。

 ウ、ウソでしょ~~……。

 え、本当に洗礼、したくないんですか?

 うわ、マジですかぁ……。

 うう……、そういうもんなんでしょうか……人間の方って……」


 女神はオレたちに距離を感じたようだ。

 オレも同様に女神と距離を感じた。

 やっぱり、ちょっと感覚が違うのかな……。


「でも、おかしいですよそんなの……。

 だって話が違うじゃないですか~~……。

 さすがにこの状況は、困ってしまいますぅ~~……」


 声色は明るいが本当に困っているようだ。

 でもそんなことで一肌脱ぐ気にはならない。

 ならないけど、マッキーは危機感を覚えたのか、オレの腕をつかむ。


「とっとと消えろ女神!

 消えないってならアタシたちの方が出てくだけ!

 ほら! 行くよ、リング!

 アンタはチーターになんかならなくていいのっ!」


「う、うん……」


 でもオレの部屋に女神だけ置いてくのもなんかイヤだな……。


「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ~……。

 考え、変わりませんか?」


「出てくのやめた。

 これ以上しつこいならぶっ飛ばす」


 と言ってオレの部屋の壁を殴りけん制。

 穴が開いた。オレの部屋。


「ひっ……。

 ……ああ、もう、わかりましたよ。大丈夫大丈夫です。

 お気になさらずに、私が出ていきますので。

 う~ん……、でもこれはさすがに予想外ですよ……。

 ひとまず別の地方から、暇そうなチーターさん探すしかないですよね……」


 とかなんとかブツブツ言いながら出て行った。


「ふぅ、ようやく邪魔者も消えたね。

 これで心置きなく落ち込めるよ。

 今日はたくさん落ち込んでいいんだからね」


 落ち込むってそんな自発的にできることじゃないよなぁと思いつつも、昨日の光景を思い浮かべるだけで気分は沈んだ。


 昨日のことを思い浮かべたせいで、気になってたことを思い出す。

 女神の言ってた『ふっふむ』。

 これは『せっかく』だとして……。

 次の『ふっむふふむむふむ』。

 これもかなり引っかかったんだ。大事なことを言ってる気がして。

 なんだろ。

 …………『そっちがその気なら』……?


 …………。


 そして今さっき言ってた『話が違う』……?

 何と『話が違う』?

 そりゃ当然、ディーゴージさんが死んだらオレが洗礼するって話のこと……なのか……?


 だとしたら……、昨日のあの暴走は……。

 ……まさかね。

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