第八話 マッキー&ディーゴージVS1000体の支配種
今回はディーゴージさんの住む隣町の方角からやってくるらしい。
そんなわけで、奴らを迎え撃つために町の先にある大平原までやってきた。
「ん、あれ……」
視線の遥か先、山の向こうに鳥の大群のようなものが見えた。
でもすぐにそれが鳥の大きさでないことがわかる。
遠近感が狂うけど、鳥が山の向こうにいてあんな大きく見えるわけない。
要するにあれは全部……。
「ああ、すべて支配種だ。
支配種としてはかなり小型だが……数があまりにも多い」
「姿が全部同じですね。
同じ種類なんでしょうか……」
「…………。
記者やギャラリーの立ち入りを禁止して正解だった。
彼らを守りながら戦う余裕はなさそうだ……」
そもそも、勝てるかどうかの確証も……。
「リング!」
マッキーが現れた。
「え……」
そしてすぐに山の向こうにいる群れを確認し、表情が曇った。
「あれ全部……支配種ってこと……?」
「はいっ☆ その通り!。
この草原までは、あと5分ほどで到達するかと思います!」
女神もやってきた。
「ちなみに、あれは群体で一つの個体という感じですね。
だからチームワークも素晴らしいですよ。
全部脳波でつながってます。
全部自分なんですから。
ちなみにちなみに、単体でもそれなりに強くて、一体だけでも基地の軍隊と相打ちできるくらいです」
そんなのが1000体以上も……。
「やばいですね! 大ピンチですね!
これはもう、リングさん、洗礼するっきゃないですね!」
「っ……!」
マッキーが歯を食いしばる。
オレは……。
「ほれほれ、どうしますか?
やるならいつでも準備いいですよ~……むぐっ!?」
「「!?」」
女神の生意気な口は突然ふさがれた。
オレもマッキーも驚く。
女神の口をふさいだのは、ディーゴージさんの光の輪だったからだ。
「ふむーーーっ!! ふむーーーっ!!」
めちゃくちゃ暴れる女神。
手首足首も光の輪で縛られる。
「すまない女神。少し黙っていてほしい。
僕はやっぱり、ピンチにかこつけて決断を迫るようなのマネは感心できないんだ。
できる限り、彼の意志を尊重してあげたい。
……少なくとも、僕の目の黒い内はね」
「ふむーーーっ!! ふむーーーっ!!」
「ディーゴージさん……」
ディーゴージさんはマッキーの前に立ち、頭を下げた。
「頼む、マッキーさん。
力を貸してほしい。
あの群体を僕一人で相手にするのは大変だが、君の協力があればなんとか町への被害も出さずに勝てる計算だ。
そうすればリング君も洗礼を受ける必要がない」
オレのために、頭を下げた。
「……あ、あったりまえですよ!
頼まれなくったって、アタシが勝手に倒しちゃうところです!」
「ありがとう」
こうしてマッキーとディーゴージさんの二人が力を合わせて戦うことになった。
オレが戦わなくてもいいように。
オレは守られてる。
「来た!」
草原の地平線の向こう、山の手前まであの小型の群体支配種たちが迫っていた。
「行くぞ!」
「はいっ!」
奴らを迎え撃つため、二人は草原をかける。
そして残されたのは、口をふさがれた女神と無能なオレ。
「ふっふむ!
ふんふむふん!
ふむふんふむふむーーーーっ!!」
女神、めちゃくちゃ怒ってる。
「……ふっふむ……、ふん、ふっむふふむむふむ……」
……。
なんだろう、今ポツリと言った言葉。
それがすごく引っかかった。
『ふっふむ』……。
……『せっかく』……?
何が、せっかく……?
その次の言葉の意味は……?
『ふっむふふむむふむ』……?
なんだろう、とんでもないことを言ってるような……。
「やぁ!!」
マッキーの掛け声が飛んできて、意識は支配種の方に向けられる。
飛び上がったマッキーは、小型の支配種につかみかかってはブン殴っていた。
これよりも大きい支配種を一撃で殺しただけある。
今の一発で一気に二体の支配種が死んだ。
「やあああ!!」
バン!
二体死んだ。
「やあああっ!!」
バン!
二体死んだ。
かなりのペースで支配種を殺している。
すごい、けど、やっぱり数が多い。多すぎる。
キリがない。
気合い入れたパンチで一度に倒せるのが二体。
1000体を超える支配種を倒すのは殴るだけじゃ時間がかかりすぎる。
どうすれば……。
やっぱりオレが……。
いや、その前にディーゴージさんは何をして……。
「かぁぁぁ~~」
という声の主はディーゴージさんだ。
群体へ突っ込んでいったマッキーとは対照的に、この場に留まっている。
もちろんサボっているわけではないんだろう。
両手を合わせて何やら力を溜めていた。
「がっ!!」
両手を伸ばし掲げる。
でっかい光の輪ができた。
この間のやつより5倍は大きい。
そして、その光の輪を……。
「てあっ!!」
投げた!
猛スピードで群れに突っ込んでく光の輪。
「ばっ!」
指を広げる。と同時に光の大輪は散らばり無数の光輪となる。
その一つ一つが支配種たちを捕らえ、ディーゴージさんが指をたたむと同時に握り潰される。
今のでざっと30体は消えた。
すげえ。
すげえけど、ディーゴージさんはその程度で攻撃の手を止めたりしない。
「かあああああ~~~……!
だぁっ!!」
今度は大輪をさらに5つ作った。
それを一気に飛ばす。そして、
「ばっ!」
再び散らせ、一気に100体以上の支配種を殺した。
そうこうしてる間にも
「やぁっ! てやぁ!」
マッキーも頑張って支配種を殺し回っている。
すごい勢いで大群が減っていく。
……なんかこのまま普通に勝ちそうだ。
「…………」
あんなに暴れてた女神もすっかり落ち着いてる。
それはあの二人だけでなんとかなりそうで安心したからなのか。
それともこのピンチにかこつけて、オレに洗礼しようとしてたのを諦めたからなのか。
「あ~しんど~」
いつの間にかマッキーがオレの横にいて、もたれかかってくる。
「え、もう戦わないの?」
「ん。なんかディーゴージさん、もう自分だけで勝つ目途たったんだって。
だから下がってもいいよって」
「そっか。なんかコード一回発射するだけで100体くらい殺してたもんな」
「そういうこと。
やっぱ戦闘特化チーターには敵わんわ」
……結局、普通に勝っちゃったな。
こう、ちょっとだけ……、
ちょっとだけ、二人のピンチになって、
満を持して洗礼を受けたオレがさっそうと登場して、
無数の支配種相手に無双する……なんて展開、
期待してたんだけどな。
ちょっとだけだよ、ちょっとだけ。
とかいう不謹慎な妄想してる間にも支配種は残り15体ほど。
「かぁ~……ふん!」
ディーゴージさんの掛け声もあきらかに最初より手抜いてるし。
ブチブチブチ!
っと、これまでと同じように支配種は死んだ。
はい全滅。
なんのタニもヤマもなかったな。
現実の戦いなんてそんなもんか。
パシュン!
「ぷはっ!」
女神の口やら手足やらを縛ってた光の輪が消えた。
「やあ、おまたせ。片付いたよ」
「お疲れ様でーす。
早かったですねー」
「はは、君の活躍する機会は訪れないよ。残念ながら」
「アンタにはチートなんて必要ないの!」
「今日の戦い見てマジでそうだと思いました」
「ところで女神……」
「なんでしょ」
「コード、使い終わって解除したんだけどね……。
なんだかおかしいんだ。
力がずっと沸き続けてるというか」
「ああ、それ、暴走ですね」
……。ん?
「暴……走……?」
「はい。暴走です。
まあなんて言うか、酷使しすぎてまし……。
たとえこのタイミングでも、
決して不自然とは言い切れない……と思います」
なんだ? 何を言ってる?
「ああっ! そんなっ! そんなはずはっ!」
頭を抱えるマッキー。
何が起きてる……?
「うわあああああっ!! なんだこれはっ!!」
突然ディーゴージさんが叫びだす。
でもオレも叫んでる。
だってディーゴージさんの体が輝いてるから。
明らかに常軌を逸した、異常なエネルギーを体から発しているから。
「なんだ! なんなんだ! 何が起こるんだ!!」
ぼわっ!
っとおびただしい無数の光が、ディーゴージさんの体から飛び出す。
まるで蜂の大群だけど、その一つ一つがあのコードの光の輪。
その光の輪の大群が、どこかへ飛んでいく。
あれ?
その方向は……。
「あっちは! 僕の住む町だ!」
ヒーローであるディーゴージさんの住んでいる町。
オレたちにとっての隣町。
ディーゴージさんを尊敬するたくさんの人が住む町。
ディーゴージさんが愛するかけがえのない人の住む町。
「やめろ! そこには! 妻と子どもが!」
町は静寂。
だけど、一瞬で破られる。
突如現れた無数の光の輪によって。
「ん? なんだこれ」「あ! 見たことある!」「これディーゴージさんのだよね」「えっ!?」「うわ!」「首に!」「し、縛られた!」「何よこれ!」「マズイぞ!」「敵か!?」「逃げろ!」「ぐるしい!」「痛い!」「ぐぅ…!」「あぁっ!」「うわあっ!」「死んだ!」「死んだ!!」「死んだあああ!!」「なんだ!」「なんなんだ!」「光の輪!」「来る!」「まだいっぱい来る!」「これやばいぞ!」「ぎゃあああああ!」「うわーーー!」「ちくしょう! こんなところで!!」「やめてえええええええ!」「パパ――――! ママ――――!!」「離れろおおお!」「ぐえっ!」「やめてええ」「どけやゴミ共!」「死にたくない!」「ぎいいいい」「あっ……」「お許しを……」「ひぃいい~~」「やっと幸せになれたのに!!」「ぐえええ!」「っげえええ!!」「走れ! 走れ走れ!!」「せめて娘は!」「会いたかった!!」「隠れろ!!」「無理だ!」「ぐぎゃ!!」「苦しい! 苦しいよぉ!!」「息が!!」「さようなら」「にいいいい!」「捕まった!!」「クソっ!!」「クソクソクソッ!!」「なんでだよ! ディーゴージ!」「あああああああああああ」「ぐわあああああああああああああ」「ぎゃああああああああああああああああああああああ」「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
町の方から、そんな断末魔が聞こえた。
町そのものの断末魔だった。
「いや~、大変なことになっちゃいましたね」
女神はコツンと頭を叩いてそう言った。
第一章終わりです。
第二章へ続きます。
よろしくお願いします。