第十一話 プロローグ。
「後悔してませんか?」
横の女神が言った。
オレは弱り切った支配種を殴り殺しながら聞いた。
「なんだ急に」
「いやね、今日でちょうどあれから1年経ったんですよ。
そろそろリングさんの中にも色んな感情の整理がついたかと思いまして」
「そういえばそうだったか。
1年……。
経ったところで……うん、後悔はないよ」
「さいですか」
「そっちこそ、オレを生かしたままで後悔ないの?
そもそも洗礼したこと後悔してたりして」
「うーん、なんとも思わないですねー。
神様もサポートしてやれって言ってますから続けるだけです。
私は役割を果たすのが役目なので」
「さいですか」
「あっ! リングさん!
支配種退治を成し遂げた直後にすみません、次の支配種が現れました」
「場所は?」
「地図で言うと……ここです。
ちょうど今いるこの国から、この星の裏側に位置する国ですね。
どうします?
遠いですけど行きます?
それとも現地のチーターに……」
「行く」
「そうですね、リングさんなら隣町へ行くのも世界を半周するのも労力は同じ。
ひとっ飛びですからね」
「うん、じゃあ捕まって」
女神を背中に乗せ、ぴょんとジャンプしてオレは飛び立つ。
この星の裏側まで。
「わー! すごい!
さすがレベル999です!」
とはいえ到達まではそれなりに時間がかかる。
10分くらいかな。
なのでその間に1年前の、あの洗礼をした後のことを振り返る。
オレは「世界中から嫌われるようなチーター」を理想として洗礼を受けた。
そんな理想の通り、オレは世界中から煙たがられる迷惑なチーターとなった。
コード能力は『エネルギードレイン』。
正式な名前は忘れた。
相手のエネルギーを奪う、そういう力だ。
洗礼した直後、さっそくオレは一つ目の奇跡を起こした。
アルシーヴちゃんを元に戻したのだ。
黒い丸。「●」の姿で小さな異世界と化していたアルシーヴちゃん。
世の中には熱エネルギーや位置エネルギーやら色んな種類のエネルギーがあるが、あのアルシーヴちゃんは称賛エネルギーの塊だった。
超高密度の称賛エネルギーが異世界を作り出していた。
そしてオレのエネルギードレインの対象はあらゆるエネルギーがストライクゾーンらしく、この称賛エネルギーをもりもり頂いた。
というわけでアルシーヴちゃんは異世界から普通のチーターに戻った。
「ひええええ!!
せっかくのクリア者が!!
せっかくの支配種の生産器が!!」
と女神が発狂していたのを覚えている。
多分さすがの女神もこの時は、オレに洗礼したことを後悔していたんだと思う。
しかしこうしてアルシーヴちゃんが戻れたのは偶然でもあった。
アルシーヴちゃんが戻れた理由は「まだ一度も支配種を産んでなかったから」と判明した。
つまり今までポンポン支配種を産んでる前のクリア者の方はもう人間に戻せないらしい。
つまり、そっちの異世界が尽きるまでは支配種は産まれ続ける。
誰かが倒すしかない。
でもそれは誰からも称賛されないチーターが相応しい。
さて、ではどうしてエネルギードレインをするオレが世界中から嫌われたか。
それはこの効果範囲の大きさだ。
後でわかったことだが、オレのエネルギードレインの効果範囲はこの地球丸ごとだった。
さらに言えばオレのコードは常時発動型のいわゆるパッシブスキルで、呼吸をするように世界中からエネルギーを奪っている。
人間や動物、あるいは機械。
この世のありとあらゆる全てに宿るエネルギーを常に奪っている。
24時間、世界はオレにエネルギーを奪われ続けている。
しかし異世界と化したアルシーヴちゃんを人間に戻すほどの驚異的な吸収力だ。
オレのエネルギードレインのせいで世界中の人は死んでしまうのではないかと思った。
が、それは大丈夫だった。
対象が近ければ近いほど吸収する力が大きくなるだけなようで、アルシーヴちゃんが人間が戻った理由はオレの目の前にいたかというだけ。
効果範囲は世界中でも、効果の大きさはやはり近い方が強い。
逆に言えば遠いほど大して吸収されないのだ。
100キロほども離れれば、早歩きしたくらいの疲労感を感じるだけらしい。
さらに残りの体力が1/10程度になると吸収しなくなることもわかった。
これは支配種をエネルギードレインだけで倒せるか試した時の検証結果だ。
エネルギードレインだけでは相手を倒せない。
虫すら殺せない。
つまり世界はオレのせいで「なんとなく疲れた」感じになったのだ。
肥満が減ったらしい。
あと元気がなくなって承認欲求を振りかざす人も減った。
だから少しだけ平和になった。
これだけならオレは世界から褒め称えられるのも有りそうだが、大多数の人は支配種やチーターの仕組みを知らない。
そこに突然現れたこの迷惑なチーター。
称賛なんて一つも送らないのだ。
それでいい。
さらに言えば嫌われている。
オレから遠く離れれば疲労度は少ないと言ったが、つまりそれはオレに近くへ来られるとエネルギーが大きく取られてしまうということ。
オレは世界中の人が思う「自分の町に来てほしくない男No.1」なのだ。
そんなオレは、どこかの土地に支配種が現れたら、その土地へはすぐさま飛んでいく。
(レベル999な上にエネルギーが有り余ってるからどこへでもひとっ飛びだ)
するとその周辺地域はオレのエネルギードレインの影響をかなり受ける。
町に住む人は気絶し、町を灯す明かりは全て消える。
その町に住むチーターすら、支配種を相手にする前に倒れる。
とんだ大災害だ。
今人々は支配種が現れる=オレがやってくる、という二重の恐怖に震えている。
オレは行く先々で嫌われている。
元々嫌われていて、改めて嫌われる。
ということでこの1年間、オレは一度も称賛を受けたことがない。
「ところで女神、なんでお前は平気なんだ?」
「んー、なんででしょうね」
コードが効かない体質だとか言われるかと思ったがそうでもない?
だとすればオレの理想した「世界中から嫌われるような~」の「世界」に女神が含まれてなかったのかもしれない。
だからこそこうして一緒にいる。
もっと孤独な生き方になると思ったがちょっと見当違いだ。
まあ、この女神もあくまえ神からの指令で監視のためにいるわけで、オレもそこまで心を許しちゃいない。
ただそれでも、話し相手がいるのはいいかもしれない。
時々価値観が違いすぎて会話にならないし、他の比較ができないから自分がおかしいのかと思ったりもするけど。
そんな感じが、今のオレの日常だ。
トン。着いた。
この星の裏側。惑星半周の旅は終わり。
一気に季節が変わって少し体がパニック。
目の前にいる支配種はオレにエネルギーを絶賛取られまくっている。
まだ戦ってないのにもう肩を大きく揺らしだした。
そして膝を付く。
ちなみにその横には気絶してる現地のチーターもいた。
そいつを跨いで、オレは支配種を殴る。
爆散。終わり。
ギャラリーはいない。
当然称賛はもらえない。
どころか、オレを差別する看板が立ってた。
前も来たことあったかな。
もう覚えてない。
まあいいや。
どれもこれもいつもの通り。
さて、帰ろう。
「じゃあ、私は帰ります。
今日はもう支配種も出ないので」
「ん、また」
女神は消える。
オレは再びジャンプ。
新しい家まで。
この家の場所を知ってるのも女神だけだ。
女神は神出鬼没にオレのところに現れて支配種が出現したことを知らせてくれる。
(たぶんアイツはチーターのいる場所に瞬間移動できるみたいな能力があるっぽい)
そんな感じで住み処もバレた。
バレたところでさして問題もないと思って住み処は変えてない。
世界中の支配種を相手にするオレの立場としては女神の存在はありがたいし。
到着。
氷の大陸に足をつける。
オレは今、南極に住んでいる。
「あった」
オレは氷の大地に作った大きな蓋を開ける。
そこから地中の奥深く、数十キロを歩いて潜る。
そこが今のオレの住み処だ。
ここなら平時はあまり世界の人に迷惑をかけなくて済む。
エネルギーは常に吸えるから何も食べなくていい。
もうオレはかつての様に卵焼きが作れないかも。
なんて考えながら、誰もいない部屋にたどり着く。
「遅い!」
……。
へ?
「どれだけ待たせるの!」
「ずっと会いたくて我慢して、やっとここ見つけたんだから、支配種なんて放っといて帰ってきなさいよっ!」
この声の主は……間違いない。
でも、どうして……?
なんて考えてる時間がもったいない。
オレは慌てて部屋の扉を開ける。
そこにいたのは、あの日以来、一度も会わなかった……。
「マッキー!?」
「えへへ、来ちゃった。
おかえり、リング」
「え、な、なんで……?」
「ふふん、パッシブ型のアンタは知らないでしょうけど、アクティブ型のチーターはね、今どこに自分のコード武器があるのかだいたいわかるの。
大まかな方角くらいならね。
それを元にずっと探してたわけ」
「あ、そうか。
あの時、銃を奪ってそのまま持ってきてたっけ。
で、この部屋に保管してあったな」
「そーいうこと!
というわけで、アタシもここに住むから」
「は!? 住む!?」
「何、イヤなの?
もしかしてあの女神とデキてるとか?」
「じゃ、じゃなくて危ないって!
オレ、今、超すごいエネルギードレインなんだぞ!?
しかも近くにいたら吸収する力も大きくなるんだ。
危なすぎるって!
今すぐここから出ていけよ!
体に悪いぞ!」
「リング、アンタはバカなの?
そのエネルギードレインは死ぬまで吸えないって知ってるよ?
1/10くらいで止まるんでしょ?」
「いやそれでも、そんな状態がずっと続けば体がおかしくなるって。
ドレインで直接死ななくても、体壊して死ぬって!
一緒に住むとか絶対危ないから!」
「まだわかんない?
もしかしてアタシを舐めてんの?
アタシの体力知ってる?
あのね、1/10くらいの体力になったところで、何が問題なの?
アタシの体力はそれでも他の人の1万倍はあるっての!」
「あ、確かに……」
「はい論破。
アンタは前に『一見、これまでマッキーが努力してきたことを踏みにじる行為かもしれない』とか言ってたけど、違ったね。
こうして一緒に暮らしても耐えられるようなるために、あの繰り返しがあったんだよ。
うんうん。
そういう運命なんだって」
「おみそれしました。
完全敗北です」
「じゃあ、敗者には罰だね」
「わかった。
じゃあ一緒に暮らす?」
「それはもちろんだけど、罰じゃないでしょ」
「たしかに」
「てかずっと前から罰は決まってるんで。
はい、卵。
わざわざ持ってきたんだから、作って!
久しぶりの卵焼き!」
「とほほ……」
なんて言いながら、オレはちょっとだけ涙を流して調理に入る。
いや、なんだこれ。
楽しいな。
きっとしばらく、それが続くんだろうな。
人生には何度か“一生これが続けばいいのに”と思える「瞬間」が訪れる。
この時間軸のオレですらその「瞬間」は訪れたことが多々あった。
トータルで不幸だとしても。
だけど「瞬間」は「瞬間」だ。
それが一生続くなんてことはありえない。
そんなのは、その「瞬間」を生きている真っ最中であっても心の片隅では自覚していて、考えるだけでうっかり切なくなってしまう。
だけどそれでいいんだ。
その何度か「瞬間」のために生きるのが人生だったんだ。
マッキーとの関係だってどうなるかわからない。
マッキーがオレの下を去ったら、オレは今度こそ孤独だ。
支配種とチーターの問題だってほとんど解決できたとは思ってない。
今はドレインのおかげで承認欲求が削がれて平和だし、オレは称賛を貰わないからどれだけ世界を救っても支配種を産みだす異世界にはならないけど、だけどオレには寿命がある。
寿命で死んだらまた人々の承認欲求の問題は浮上して、支配種やチーターなんて問題が生まれるのは目に見えてる。
何も解決してないんじゃないかと思うし、この平和は永遠に続くものではない。
でも十分なんだ。
だってまた、誰かがきっと平和を作るから。
桜が美しいのは散るからだとか言うけど、そうじゃない。
また咲くのがわかってるからだ。
なんてことを、桜の咲かない世界の果てで思う。
気にするな。
深い意味なんてない幸せのメタファー。
こんなこと考えて生きてますって話。
まあ、そもそもの話だが、オレは「幸せ」がなんなのか、ハッキリはわからない。
だけど
「はいできたよ、マッキー」
「ありがとうリング。
よく頑張ったね。
偉い偉い。
リングは本当に偉い子だよ」
だけど、
オレは幸せになった。
ありがとうございました
ブクマ、評価、感想いただければ僕も幸せです




