第五話 こんな時でも反則級
「大丈夫!? 膜はある!?」
愛のないクソみてーな朝の挨拶でマッキーが来た。
「は、はい……。なんとか……」
その返事は色々な想像を掻き立てるからやめろ。
「興奮すんな! バカリング!」
「ごめん……」
「ま、最初から心配なんてしてなかったけどね。
アンタにそんな度胸あるわけないし」
「…………」
オレは黙ってマッキーをにらみつけた。
「な、なによ……」
「…………舐めるなよ」
「ひぃ……、悪くないかも……」
的な会話もそこそこにお出かけの準備。
だけど……。
「なあ、今日の予定さ……」
「ん? 修業だよね」
「ちょっと変えて、これ行こうよ」
そう言ってオレが提示したのはお祭りのチラシ。
「ほら、昨日は実戦だったし。
実戦の次の日から無理に修業してもしょうがないんじゃない?」
「うーん、鉄は熱い内に打てとも言うんだけどな……。
まあでも、昨日は目立った課題点もなかったし、それよりも体を休ませる方がいいかもね」
「じゃあ……」
「うん、行こっか。お祭り」
「やったー!」
と反応したのはオレじゃなくてアルシーヴちゃん。
「あ、す、すみません……。はしゃいじゃって……」
「いいのよ、行きたかったの?」
「はい、実は……」
『実は』なんて言ってるけど、普通に知ってたことだ。
昨日からこのチラシずっと見てたし。
だから今も提案したわけだし。
ということで出発。
到着。
祭り会場は当たり前だが賑やかだ。
たくさんの出店が立ち並び、たくさんの人が行きかっている。
オレたちはその中をゆっくりと歩く。
このお祭りが何を祀ってるのかなんて知らないけど、雰囲気は楽しい。
そう、オレは意外と人混みは嫌いじゃないタイプの無職だ。
「はわー」
アルシーヴちゃんもはわーって顔して往来を眺めている。
元いた町の方が大きいから、きっとこれより大きい祭にも行ったことがあるんだろうと思ってたけど……。
まあ、色んな事情があるよな。
さてどこ行こうか。
出店、なんでもかんでも回れるほどの金はない。
まだお腹は減ってないし……。
「あ」
いいのを見つけた。
「ここは……?」
はわーって顔でアルシーヴちゃんが聞いてくる。
「射的屋さんだよ」
「射的……?」
「銃って武器で倒した景品が貰えるんだ」
「銃……?」
アルシーヴちゃんがすっかりバカみたいだが、銃のことを知らないのも当然なので答える。
「銃ってのはこの町にいるガンって名前の武器職人が作った最新武器なんだ。
まだまだ製法も確立できてないし、他の町に普及はしてないんだけどね。
今は軍での採用を目指してる最中なんだって。
これまでの剣や弓とは仕組みが全く違ってて、火薬で爆発を起こして鉄の塊を飛ばすらしいよ」
「なんだかすごそうですね」
「マジですごいんだよ、威力。
その鉄の塊、めっちゃ速く飛んで、鉄の盾に穴開けちゃうんだから」
「ええっ!? 盾を!?」
「さすがにアルシーヴちゃんのコードは傷一つ付かないと思うけどね。
でも、この銃の戦法が確立されれば、いつかは一般人も支配種に勝てる。
そう言われてるんだよ」
「そう、なんですね……」
だから、チーターの居場所は、チーター以外にも奪われる。
そんな時代が来ている。
それを暗に伝えてしまった。
でもいつかは言わなきゃいけなことだ。
居場所を支配種との戦いに求めてちゃダメなんだって。
「あ、でもそんな凄まじい武器で、景品を狙うんですか?
当たったら貰えるとのことでしたが、当たったら穴が……」
「あはは、大丈夫。このお店にあるのはあくまで模型。
火薬の爆発じゃなくて、ただの空気圧でコルクを飛ばすんだよ」
「あ、そうなんですね。
そりゃそうですよね。
でも楽しそう、やってみたいですっ!」
ということでテキ屋のおじさんにお金を払って開始。
一回分の料金で2発撃てる。
「あ……、じゃあ、マッキーさんかリングさんが1発撃ちますか?」
すごい、オレのこづかいじゃ1回分おごるのが限界なのを見抜いてる。
「マッキーどうする?」
「アタシはいいよ」
「……じゃあ、1発ずつ撃とうか」
「はいっ!」
「じゃあ、先にお手本見せよう。
どれか欲しい景品ある?」
「あ、じゃああの……」
と指さしたのは大きなぬいぐるみだ。
支配種を模したデザイン。
それもアルシーヴちゃんたちが町に来て最初に倒した支配種。
いい趣味。
これを用意した店もアルシーヴちゃんも。
さて、ここで言わなければなるまい。
オレはこの射的をするの、始めてだ。
ずっとアルシーヴちゃんにいいとこ見せようと先輩面していたが……、そもそもこの『銃』という兵器が発明されてまだ1年も経っていない。
ついでに言うならこの射的屋は今回のお祭りの新目玉テナントなのだ。
つまりやるのは初めて。
いいところを見せたいところだが、そもそもいいところの経験がない。
コツも何も知ったこっちゃない。
だけどビギナーズラックを信じてオレは引鉄を引く。
ぽひっ!
ポロンポロン!
「あー残念、外れちゃいましたね」
「うん……。
ほんと、ごめん。雑魚だね……」
「だ、大丈夫ですよ!
それに今リングさんが撃ったおかげで、コツとか掴めちゃいました!」
本当にいい子だ。
フォローありがとう。
ということで2発目の弾を装填してあげて、と。
「えいっ!」
アルシーヴちゃんの撃った弾は目当てのぬいぐるみにヒットした。
なんなく。
でもぬいぐるみは重くてちょっと揺れただけで倒れなかった。
「ありゃ、全然ダメでした」
オレはそれ以下でした。
「はあ、見てらんないよ。
おじさん! アタシもやる! 2回分!」
マッキーはそう言って2回分のお金を払い、2丁の模型銃を受け取った。
「これは、こうやるの!」
マッキーはまず、ぬいぐるみの眉間に1発をなんなく当てた。
テコの原理というやつだろうか。
アルシーヴちゃんがお腹に当てた時より、ぬいぐるみはグラグラ揺れてる。
だけど倒れはしない。残念。
なんて思っていた矢先だった。
マッキーはグラグラ揺れているその最中に、二丁目の銃でぬいぐるみを撃った。
そうか、その手があったか。
1発目の銃撃を受けて不安定な時に追撃。
これを受ければさすがの大きなぬいぐるみも……!
グラ……グラ……。
くっ、まだか。あともう少し……。
と思ってる間に、マッキーは一丁目の銃の弾の装填を終えていた。
「フィニッシュ♪」
3発目、これも眉間にヒット。
グラグラからグラ……グラ……を経たぬいぐるみはついに倒れた。
「支配種よりちょっと手ごわかったね」
沸き上がる歓声。称賛の嵐。
なんだこいつ、射的のチーターか?
始めてとは思えない手際とスキル見せやがって。
「うおーー!」
オレも声を上げざるをえない!
最高だ!
「いやー楽しそうですねー!」
そんな気分を台無しにする声だった。
「お久しぶりです! 女神です!
みなさん、お元気そうで何よりですね!」
そういう女神も明るく元気だ。
一切の後ろめたさを感じさせない、ポジティブ全開な立ち振る舞い。
死ね。




