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勝手すぎる幼なじみにうってつけの一撃  作者: 山下くりぷうぴ
第三章~チーターのクリア条件~
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第四話 ヌル~~~~~~~い夜

「よし、乾杯するぞ、乾杯!」


 突然そう言い出したのはオヤジだ。

 オヤジはとにかく古い人間でノリも古いのだ。


「あら、いいわね」


 そしてそんな古い男にオフクロも同調する。

 きっと二人は永遠に愛し合うのだろう。


「それじゃあ新しい家族の誕生を祝して、かんぱーい!」


「「かんぱーい」」


「あわわ、か、かんぱーい」


 カチンカチン。


「えへへ……」


 乾杯、なんて言われて一瞬戸惑っていたアルシーヴちゃんだったが、グラスを合わせた頃にはもう嬉しそうに微笑んでいた。


 オヤジのこういうノリは賛否あるが、多少強引なのも悪くないのかもしれない。

 キチンと相手を見てれば。


「あの……本当にお金はいいんですか……?

 居候になってしまうのでは……?

 あの、わたし、結構お金はあるので、月々の食費だけでも……」


「もう~本当に気にしなくていいのよ?

 だってウチにはほら、こんな大きな無職をすでに飼ってるんですもの。

 可愛い居候ちゃん、大歓迎よ」


 それはすでに自分で言ったネタだった。

 しかし改めて親から聞かされると悲しい。


「そうですねっ! ありがとうございますっ!」


 元気よく答えるな。


 ちなみに両親とも教官として働いている。

 決して裕福ではないがそれなりに生活は安定していて、だから実際、子どもが急に増えたところで痛くもかゆくもない。


 それに、他人の子を扱うことにも長けてる。

 そういう意味でもウチが預かるべきだと思ったんだ。


 まあ、子どもの扱いという点で我が子の子育ては大失敗してるが、でもそれに関して両親は悪くないと思ってる。

 全部オレのせい。オレの運のせい。


「それにしても、リングがチーターさんとお友だちとはなぁ~…」


「たまたま知り合っただけだよ」


「たまたまでもすごいわよねぇ~。

 ご近所さんに自慢しようかしら」


「自慢とか絶対やめてくれよ。

 他にやるべきことあるだとって思われるだけだから」


 あとこの程度で褒めるのもやめてくれ。ほんとに。


「あ、そうそう、今日のコロッケどう?」


「ん? ……ああ、なんかうまい」


「そうなのよ~、いいお芋が安くってね」


「ふーん」


「アルシーヴちゃんはどう? おいしい?」


「はいっ! アツアツでおいしいです!」


「そう、よかったわ」


「ああそうそう、この前言ってた……」



 そんな感じで温い会話が続いた。

 多分、我が屋の食卓の会話は全人類で一番温いと思う。

 毎日こんな感じで、なんの意味も刺激もない、ただ優しいだけの会話。




 夕飯後。

 使われてなかった部屋をアルシーヴちゃんと片付ける。

 ここを彼女の寝室にするためだ。


「この絵は……マッキーさん?

 リングさんが描いたんですか?」


「ん? ああ、そうだよ」


 物置代わりのこの部屋には使われなくなった思い出の品がいっぱいある。


「小さい頃、学校の課題で描いたやつだね。

 ペアを組んで互いを描きあって……」


「なんで裸なんですか?」


「……アイツが脱いだんだよ。

 ラフってのは裸婦なんだよとか言って。

 アイツ、小さい頃から頭おかしくって。

 子どものオレもバカだからそういうもんなんだって騙されて。

 んで先生にどちゃくそ怒られて描き直した」


「……な、なるほど……。

 でも、今でも保管してるんですね……」


「す、捨てると今度はオレの裸絵をばら撒くって脅してきて」


「あ、リングさんも脱いだんですね」


「バカだったんだよ。そういうもんだって思っちゃってた」


 まるで洗脳だ。

 いや、そんな大それたもんじゃないけど。


 そんな感じで部屋を漁って黒歴史ポエムとか発掘されながらも部屋の片付けは終わった。


「うん、キレイになったな」


「終わりました~~。

 お兄ちゃ……あっ!

 あ、あ、リ、リングさんも手伝ってくれてありがとうございました!」


 今、オレのことをお兄ちゃんって言いかけたな。

 どうしよう、触れるべきか。

 いや、先生のことをお母さんと言い間違える程度のミスだろうけどさ。

 でも、なまじ兄が死んだ直後だし、寂しい深層意識がさせたミスかもしれない。

 こういう微妙にセンシティブな問題は……。

 聞かなかったことにする。

 それが一番。


「お礼なんていらないよ。

 手伝うっていうか、部屋の片付けなんてそもそもオレの仕事だし。

 むしろ手伝わせちゃったって思ってるぐらい。

 それに、あんまり黒歴史だらけの部屋で一人にさせたくないってか……」


 スルーを意識するあまりめっちゃ早口になった。


「そ、そう言っていただけると後ろめたい気持ちがなくなります。

 ありがとうございます」


 間。


「あ、さっき……リングさんのこと、お兄ちゃんって間違えそうになりましたね。

 えへへ……恥ずかち……」


「え……あ、うん……。

 まあ、いいんじゃないか?」


 何が?


 てかアルシーヴちゃん、自分で蒸し返すなよ。

 せっかくスルーしたのに。


「いい……ですかね……」


 もう一回。

 何が?


「えへへ……。リング……お兄ちゃん……。えへへ」


「あはは」


 ……少し、わかった。

 この子はちょっと依存体質なのかもしれない。

 勝手な分析とは重々承知した上での話だけど。


 支配種との戦場を「居場所」と言ったアルシーヴちゃん。

 居場所を求めるあまり、あんなところを独占しようとしていた。


 別に依存体質でも全然問題ない。

 だけど、そのせいであんなところが居場所でいいはずないんだ。


 決めた。やっぱりオレは洗礼を受けようと思う。

 だけど今じゃない。

 今受けるのはこの子の居場所を奪う行為だからだ。

 この子の居場所を奪うようなことはしない。


 まずは愛情と優しさがいっぱいの食卓で、なんの意味もない会話をたくさんして、あったかい寝室で寝かせる。


 それが今の、オレのやるべきこと。


 アルシーヴちゃんにめいっぱいの愛情を家族ぐるみで注ぐ。


 そしてこの子が別の居場所や、あるいは居場所なんて呪縛から解放されたら、その時、オレは洗礼を受けよう。


 そう思った。

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