第二話 リングさんは奪わないで
ほいで約束の修業開始。
オレたちは誰もいない草原にきた。
「アルシーヴちゃんは攻撃手段がほしいのよね」
「はい、そうです!」
「何か具体的なイメージはあるの?
どんな武器で戦いたいとか」
「ええと……細い刃物を使いたいと思います」
「ふんふん、その理由は?」
「わたし……力が特別あるわけじゃないので……。
コード以外の一般魔法も得意とは言えませんし……。
あ、一応弓矢は得意なんですけど、でも、支配種の体は硬いので矢が刺さるとも思えず……」
「なるほど、自分と敵の状況は理解してるのね。
では改めて、どうして長い刃物を?」
「眼球を突き刺すためです!
支配種はいくら外殻や皮が硬くても眼球は柔らかいと思うんです。
さらに眼球の奥にはもっと柔らかい脳がありますよね。
そして脳を破壊できれば生命活動を終わらせることができます。
つまり眼球ごと脳を突き刺せる程度の刺突技を身に付ける!
それが現実的にわたしのできる支配種を殺す方法です」
いやな論法だな。
でも理にはかなってる。
後はその刺す力をどうやって身に付けるかだが……。
そこはマッキー師匠の手腕の見せどころだな。
「ではアルシーヴちゃんの刺突力を鍛えるために……」
さあ、どんな特訓を……。
「ゴクリ……」
「今からアタシと殴り合いしよ♪」
マッキー師匠に向いてないのでは?
「ええ、マ、マッキーさんと殴り合うんですか……?」
「大丈夫、殺さないように手加減するから」
仮にもチーター相手にすごいこと言ってんな。
「…………」
「まあ、納得言ってないまま修業しても伸びないからハッキリ言うね。
今アルシーヴちゃんの言った理屈は、理屈それ自体は正しいと思うよ。
でもまだまだ理想、机上の空論って感じ。
なのにそれを『現実的に』とか言っちゃう時点で現実見えてないの。
だから、現実、教えてあげる」
「!!」
ズォン! と地面を蹴り飛ぶ。
飛び掛かる。
拳を突き出したマッキーが、アルシーヴちゃんに迫る!
「! ヘカトンケイルの黙示録!!」
ガッッギャァァァ~~~~ン!!
鐘で鐘を打ち付けたような音が響く。
すごい種撃だ。
本当にこれが盾と拳がぶつかる音なのか。
あまりに現実味がない。
「お♪ いいね。やっぱり堅い。
それによく反応できたね」
「ハァ……ハァ……」
「まあ今のは正面から突っ込んだだけだから、防げて当然だよね。
じゃ、アゲてくよ」
マッキーの姿が消えた。
……いや、違う。
ビュンビュンビュン。
風を切る音。
これはマッキーの走り回る音だ。
この間の脚の速い支配種より速い。
支配種の立場、なし。
そんな感じでマッキーSUGEEEE描写がダラダラ続くのでカット。
嫉妬じゃない。
で、特訓は一段落したから休憩。
「ひぃ……ひぃ……」
大の字になって原っぱに寝転ぶアルシーヴちゃん。
疲れてるけど、でもさすがだ。
なんだかんだでマッキーの攻撃は直接は受けてない。
でも衝撃による負担は……。
あれ? 負担による痛みもない感じ?
「どこも痛く……ないですね……」
「そーゆー殴り方したし。ちょっと工夫してね」
マッキーSUGEEEEE!
ちくしょう、結局か。ちょっと工夫ってなんだよ。
「でも、最後の一撃は違うよ」
「え……?
そうなんですか?
でも、痛み、感じませんよ?」
「それはアルシーヴちゃんが攻撃をベストタイミングで弾いたから。
言うなればパリィね」
「え、弾いた……?」
「ちゃんと戦いの中でアタシの動きについてこれるようになったの」
「わたし、成長してるんですか……?」
「もちろん。そのための特訓でしょ?」
「はい……! そうでした。
もっと頑張ります……!」
アルシーヴちゃんは胸いっぱいに息を吸いこんで言った。
嬉しそうだった。
「でもごめんね。攻撃方法の特訓がしたいって言ってたのに。
結局ガードの練習させちゃった。
だけどね、やっぱりアナタが痛みに耐える姿……見てられなかったから」
「い、いえ、そんな、謝るなんて。
むしろその、ガードの負担はなくならないものだって、ずっと諦めてたことだったので……。
こうして修業で負担が減らせるなら、わたしも嬉しいです!」
「そう、ならよかった」
「ところでマッキー。なんで急にアルシーヴちゃんはガードが上達したの?
まさかそうなるようにちょっと工夫して殴ったとか……?」
「こればっかりはアルシーヴちゃんの才能ね。
今までそれが開花しなかったのは『恐怖の伴う実戦』しか経験がなかった」
「実戦じゃ成長はしないの?」
「実力の飛躍は『気づく』ことで起きるんだけど、恐怖で思考が狭まってると、この『気づく』が起こりにくいの。
だから、アタシっていう死の恐怖とは無縁の敵と戦って、その中で色々考えて、たくさん気づけるようになった。
それだけ」
「スゲーなぁ……マッキー。もう指導者じゃん」
「別に……そんなんじゃ……」
いや、否定はしてるけど、オレはマジで尊敬してる。
まるで一度や二度、誰かを一人前に育て上げた人の言葉だ。
攻撃の練習はさせなかったのも、きっと正解なんだろう。
後でやっぱりマッキーが正しかった、そう思わさせられるんだろう。
オレがチーターになるかどうかの話も含めて……。
なんてのは文脈で考えすぎか。
マッキーは別に神じゃないんだ。
「さ、練習、再会するわよ」
「はいっ! マッキー師匠!」
二人はまた修業を始めた。
修業はひとまず終わって帰り道。
ヘトヘトになったアルシーヴちゃんをオレは背負っている。
背負った状態は顔が近いので、小さな声で話しかけた。
「……アルシーヴちゃんは、なんでそんなに頑張るの?」
「んー、チーターだから、ですかね」
「でも、内心ではマッキーにすら頼りたくないって思ってるでしょ?」
「え、あー……。
気づくんですね。
まあ、はい。そうです。
特訓していただいてなんですが、いつかは一人で戦いたいなと……。
正直、そこが見透かされてガード特訓に変わったんだとも思ってます」
「それで、なんでそんなにこだわるの?
……やっぱり、称賛……?」
「……実はわたし、お兄ちゃんも、昔奴隷だったんですよ。
人間じゃなかったんです。
でもある日、女神様がやってきて、わたしたちにチートをくれました。
やっと人間として認められたんです」
ああ……。
聞くんじゃなかった……。
「あそこが、わたしの居場所なんです。
誰にも奪われたくないんです」
居場所。
「リングさんは奪わないでくださいね」




