第一話 アルシーヴちゃんとマッキー
次の日、オレはいつものように遅めの起床をした。
アーカイブのコードが壊れてそのまま死んだ、あの次の日だ。
ということでちょっと頭の整理。
コード=チーターの本体。
コードが壊れる=チーターの死。
……なんだそれ。と思った。
なんでそんな大事なことオレは今更聞かされてんだ。
コードが本体とか、壊れたら死ぬって、割と大きな問題だろ。
メリットとかデメリットなのかはわかんないけど、でも大事な問題だろ。
少なくとも洗礼を受ける前に、キチンと知ったうえで考えるべき問題だ。
でもアーカイブもアルシーヴちゃんも知らなかったみたいだ。
もしかしたらディーゴージさんも知らなかったかもしれない。
いやオレだって、もし洗礼をなんの迷いもなしに受けていたら……。
……マッキーが止めてくれてなかったら、何も知らずにコードを振り回して戦ってただろう。
女神は何も教えてくれなかったんだから。
で、そんな女神の話。
アイツ、言ってはなかったけど隠す様子もなかった。
オレたちが疑問に思ったらすんなり答えてくれた。
つまり単に聞かれてないから言わなかっただけ。
そんなに大事な問題じゃないから、わざわざつまんないどーでもいい話に時間を割くのも悪いかな……といった親切心めいたものまで感じた。
やっぱり根本的に価値観が違う、それはもう受け入れよう。
それ以上に不安なのが、アイツ的異次元な価値観の下『どうでもいいから』という理由で隠してること(言ってないこと)が他にもまだまだあるんじゃないか? ということだ。
コードの暴走、そして破壊による死。
そして……。
「元気?」
マッキーが窓から入ってきた。
オレにプライバシーはない。
「元気ではないけど……、いつも通りだよ」
「そうみたいね。
……ふぅ、よかったぁ」
そう言ったマッキーの顔は本当に安心していて、この子はウソはついてないと思った。
でも、その後に小さい声で言った、
「……この順番ならいいのか……?
いや、『もっと衝撃なこと』があったから
そっちに思考が持ってかれてるのね……」
という言葉をオレは聞き逃さない。
なんの話だ?
だから聞く。
「なんの話?」
「ううん、なんでもないよ。
楽しいことだけ考えよ?
難しいことなんか考えなくていいの。
悲しいことなんか考えなくていいの。
その方が楽しいでしょ?
アンタはそれでいいの」
そっか。
いいんだ。
やった。
「この先は……なんとしても阻止しないと……。
どうなるかアタシにもわからないし……」
と、また小さい声でブツブツ言ってる。
でもどうせ聞いても答えてくれないからもう聞かない。
オレは学習できるんだ。
さて、そんなことより行かねばなるまい。
だから今日は自発的に起きたのだ。
「あ、行くの?
アタシも行く」
「ん」
で、着いたのは教会。
町の人がたくさん集まっている。
「あ、リングさん、マッキーさん。
来ていただけたんですね」
そう迎えてくれたのはアルシーヴちゃんだ。
今日はこの教会でアルシーヴちゃんの兄、アーカイブの葬儀がある。
たった数日の活躍だったが、それでも人が集まった。
それだけアーカイブは人々の救いとなってたんだ。
喪主のアルシーヴちゃんは挨拶に回ったり神父と打ち合わせしたりとわたわた働いている。
悲しむ暇もないくらい。
「大丈夫? 手伝うことある?」
「は、はいっ! 大丈夫です!
お気持ちだけでもありがたくいただきます!」
断られた。
まあそうか。
オレはあの兄妹の身内でもなければただの商売敵……。
と解釈するのは卑屈すぎか。
「ねえリング、あの子、なんかいつもより元気だよね……」
「そうだね」
痛々しいとは思っちゃいけない。
「いや~それにしても、コードが壊れたら死んでしまうとはビックリしましたね。
あ、でもわたしのコードはすごく堅いのでその心配はありませんね~。
ある意味、一番ラッキーなコードだったかもしれません!
わたし、幸せです!」
「痛々しいっ! オレ洗礼受ける!!」
「やめなさいっ!」
「あわわ、す、すみません。
同情してもらうつもりで言ったわけじゃなくて……」
……冗談みたいなノリで言ったけど、割と本気だった。
マッキーも心の底では同じみたいで、神妙そうに聞いた。
「でも本当にどうするの? これから。
一人で戦うつもり……?
確かにアナタの盾の強度はすごいけど、それだけで支配種は倒せないのよ……?」
「それは……」
そう、その通りなんだ。
防御特化では支配種に勝てない。
防御特化と言っても全方位守れるわけじゃないし、永久に守れるわけでもない。
気を抜けば負けてしまう。
防いでも体に負担は蓄積される。
いつかは負けてしまう。
だから倒せなきゃならない。でも攻撃手段がない・
一応マッキーもそこは心配してるんだ。
でもオレには洗礼をさせないのは徹底してる。
だったら……。
「だったら、アタシも一緒に戦うけど、いいよね?」
答えを聞くつもりはない、ただ同意を求めるだけの圧力。
でも、それでいいと思う。
「はいっ! よろしくお願いします!」
アルシーヴちゃんはにこやかに答えた。
「いえーい!」
とマッキーはアルシーヴちゃんを抱きしめる。
「はわわ、マッキーさん、恥ずかしいですぅ……」
もうすっかり打ち解けてるのか。
なんだか友達ってよりは姉妹みたいだ。
うん、それでいいんだ。
正直に言うと、オレはもう洗礼をするのが少し怖い。
暴走の件はもちろん、まだ女神が隠してることもありそうだというのも理由。
必要とあらば洗礼を受けるけど、そうならなくて済むならいいなと思いつつある。
情けないなぁ。
こんないたいけな女の子たちに戦わせて。
オレはチーターの中のチーター、選ばれれし者の中の選ばれし者、レベル999の超天才チーターだと言うのに……。
肩書サムいな。
「あ、それでマッキーさん。
こうなってしまった以上、わたしも攻撃ができるようになりたいんですが、一緒に修業、してくれますか?」
「うん、もちろん。
攻撃は相手へのけん制にもなるし、立派な防御手段。
よろこんで教える。一緒に修業しようね」
「お願いしますっ!」
「じゃあリング、そういうことだから。
アンタは女の子同士の修業をちゃんと見てなさいよ!」
「立派な攻撃技を身に付けて、リングさんの心配を吹き飛ばします!」
「はい……」
力なく、オレは答えた。




