第六話 マッキー&アーカイブVS支配種
数日後、次の支配種が現れた。
例によってオレとマッキーと女神も離れたところで戦いを見守る。
今日現れた支配種は大きさでいうと小型。
しかも特に飛んだりはしない。
光線を撃ったりもしてこない。
だから楽勝かと思ったけど……。
「くらえっ!」
ドギュゥゥン!
「クソっ! また外れた!」
この支配種、かなり脚が速い。
アーカイブの撃つ光線を避ける避ける。
盾に隠れながらの攻撃では当てるのはかなり苦労しそうだ。
盾自体が砲台になるとはいえ狙える角度の制限はつくし。
そして問題は攻撃が当たらないことだけじゃない。
防御もまた、この高い走力を相手に苦労している。
盾の形状は上から見て半円のようになっている。
つまり正面や横の攻撃は防ぐことができるけど、後ろからの攻撃には無防備なのだ。
だからアルシーヴは後ろを取られまいと必死に盾を動かしている。
ガギン!!
よし、今のもうまく防げた。
そこは腐ってもチーターで、なんとか動きを目では追えているようだ。
相手の攻撃も近接格闘一辺倒なのも幸いしている。
しかしやっぱり、こっちの攻撃が当たらない。
実は2回だけ、杖の光線が当たりそうな瞬間があった。
1回目は盾の真正面で支配種の攻撃を受けた時。
杖の差込口は盾の正面にあるから、その正面で受けた瞬間に撃ったあの一撃は、かなり惜しかった。
結局避けられたけど、本当に当たると思った。
2回目は、あえて後ろを取らせたとき。
あの支配種が後ろを取ろうと躍起になってるのが読めたから、あえて盾の後ろを取らたのだ。
そして、その瞬間にに杖を砲台から外し、盾の後方に向けて光線を撃った。
結局それも避けられたけど、いい作戦だったと思う。
そして現在、その後はろくな作戦もないまま。
ただひたすら盾で受け、反撃のチャンスを模索中……という状態。
ドギュゥゥン!
「くっそお!! まった外れたっ!!」
避けた支配種は、そのまま盾の方に突っ込み、
ズガガガガ!! ガガガガンッ!!!
猛攻を繰り出す。
とはいえもちろん盾は傷一つつかない。
だけど、『ビクともしない』わけではない。
やっぱり心配だ。
「っ……!」
アルシーヴちゃんのことが。
今の猛攻の衝撃も、盾を伝わって、アルシーヴちゃんのあの小さな一身が受け止めている。
「っ……!
はぁ……! はぁ……!」
肩で呼吸をしているのがこの距離からでもわかる。
浅くて大きい呼吸。
疲労と痛みがどんどん蓄積していってる証拠だ。
一方、兄の方は支配種を狙うのに必死だ。
妹の異変に全く気付く様子はない。
このままじゃ……。
「ねえ、リング……。
あの子……、アルシーヴちゃん、様子、おかしくない?」
マッキーは異変に気づいたようだ。
「……実は……」
オレは知ってることを全部話した。
「そんな! じゃあ今日のは特にヤバいじゃん!」
そう、盾から伝わる衝撃と負担の大きさは光線とかよりも単純な打撃の方が大きい。
そして今日のはその打撃を連続攻撃で応酬してくる。
だから特にヤバい。
現に今、攻撃を受ける度にあの盾は大きく振動している。
それを持って支える側の負担。
かなり大きくて痛いに決まってる。
「くっ……!
せっかく、いいと思ったのに……!」
マッキーは拳を強く握った。
そして、迷うマッキーの背中を押す決定的なことが起きた。
「がはっ!」
吐血。
アルシーヴちゃんは血を吐いた。
伝わった衝撃で内臓を覆うなんらかの骨が折れて、
肺か胃に血が入るような事態になったということだ。
マッキーは叫んだ。
「おーーーーーい!! 兄貴の方ーーーー!!
妹ちゃんは!! もうっ!! 限界だぞおおおおーーーーーー!!」
そう叫んだマッキーは、
「行ってくる」
「うん」
マッキーは走りだす。
無力なオレは見届ける。
一方のアーカイブ。
マッキーの声は届いたようで、そのおかげで妹の異変には気づいたようだ。
「おい! なんだ! どういうことだ!
なんでそんな……、これ、ケガしてるのか!?
おい! なんなんだよ!」
「え、ええと……」
「そりゃただの盾なんだから!
いくら堅かろうが、持ってる手や支えてる体に衝撃は来るでしょ!!」
驚くべき速さでたどり着いたマッキーが、二人の会話に割り込む。
「……!
そ、そうなのか。
ずっと……ずっとそんな負担をかけてたのか……。
な、なんにも考えてなかった。
だってその盾はコードで、チーターで……」
心はもう折れそうだ。
だけど、
「うるさい! 腐るな!
アタシも偉そうなこと言ったけど、今リングに言われて知ったんだ!
気づけなくても無理ないことなんだ!
だから気をしっかり持て! んで戦え!」
マッキーは容赦しない。
でも効果はあった。
アーカイブは立ち直って。
「妹を頼む」
それだけを告げた。
「わかってる」
「え、あ、あの……!」
と何かしらの強がりを言おうとする前に、マッキーはアルシーヴちゃんをペシペシと叩いた。
アルシーヴちゃんは気絶。
それと同時に、徐々に盾が消えていく。
コードの維持ができなくなったようだ。
「で、支配種はどうするつもり?
手、貸そうか?」
「言っただろ。邪魔すんな」
「アンタらに死なれたら困るんだけど。
いよいよリングが洗礼しちゃう」
「知ったこっちゃねぇ」
「……あっそ、じゃあこれで我慢したげる。
後は勝手にどう……ぞ!」
そう言って、マッキーは地面をぶっ叩いた。
地鳴りと共に大地が割れて、裂けて、至る所に大穴が開く。
「じゃ」
そう言ってマッキーはアルシーヴを抱えて戦場から離れる。
相変わらずムチャクチャだ。
だけど戦術としては大アリ。
荒れた大地となったことで、あの走力が活きにくくなった。
「けっ。悔しいが、ありがとうよっ!」
アーカイブも地を蹴って、飛び跳ねるように動き出す。
支配種に向かって。
なんだ。
アイツ、意外と動けるじゃないか。
支配種ほどじゃないけど、コイツの脚もかなりいい。
そんな印象がなかったのは、今までの戦いが盾に隠れながらのものだったからか。
対して支配種は地形の影響でさっきより動きが遅い。
まだまだ支配種の方が速いけど、差はそこまで絶望的じゃない。
そんな印象だ。
けん制、避け合い、読み合い。
お互いがしのぎを削り合っている。
「いけっ! 頑張れっ!」
結局オレも声に出して応援しちゃってる。
だけど戦局はじりじりと苦しくなってる。
距離を詰めたい近接格闘メインの支配種。
距離を開けたい遠距離射撃メインのアーカイブ。
ステップで距離を詰めてきた支配種に対して、バックステップで距離を開けるアーカイブ。
だけど元々の脚の差とバックステップという動きの難しさで、徐々に間合いは狭くなる。
ドギュゥゥ!
アーカイブの放った光線、だけどそれを避ける支配種。
支配種は避けながら、その避けた勢いのまま地面を蹴り、飛びかかる。
アーカイブはその突撃を目と鼻の先で避けた。
だけど、もう、いよいよもう危ないぞ!
ニヤ……。
……!
いや違う、笑った……?
……そうか、アーカイブのやつはむしろこの状況を狙ってたんだ。
騙された。
本当はずっと距離を詰めたかったんだ。
追いかけたくても追いつけないから、追いかけてもらったんだ。
アーカイブは今までのバックステップから一転、ここにきて、支配種に向かってツッコむ。
この急激なシフトチェンジに支配種は虚を突かれた。
そしてアーカイブは接近し、ゼロ距離で、杖を構える!
超反応した支配種も蹴りで応戦。
攻撃は杖に当たり、杖は折れた。
だけど一瞬遅かった。
ドギュゥゥン!!!
折れる直前に杖は光線は打ち出さしていた。
光線の直撃を受けた支配種は、『ジュワ……』という音を立て、跡形もなく消滅した。
勝ったんだ。
沸き上がる歓声。称賛の嵐。
勝利を見届けたアーカイブは疲労が溜まったのか気が抜けたのか、眠るようにその場で倒れ込んだ。
一応声でもかけてやるかと思い、マッキーと共にアーカイブのところへ。
「あ、あれ? ここは?」
アルシーヴちゃんも目を覚ました様子。
「あ、そういえば支配種……。
そっか、お兄ちゃん、勝ったんですね」
「うん、すごかったよ」
「ふふ、よかったぁ……」
幸せそうに笑うアルシーヴちゃん。
とってもお兄ちゃん想いだ。
血を吐くまで耐えるんだし、その感想は今さらか。
うーん、ちょっとうらやましい。
それなのに、肝心のアーカイブはまだ眠っている。
オレたちが褒めに来たやったというのに。
全く礼儀のなってないやつだ。
仕方ない、家まで運んでやろう。
そう思って肩を貸すように支えた。
違和感。
なんだ。
何かが足りない。
ああそうだ、呼吸。
呼吸してないんだ。
ビックリして手を放す。
ドサリと音を立て、力なく倒れるアーカイブ。
「リングさん……?」
「ちょっと、アンタ何やって……。
……まさか」
オレは倒れているアーカイブの脈を探っていた。
そんなオレの行動に、マッキーも察したようだ。
何を察したか。
オレは続けてアーカイブのまぶたを開き、眼球を太陽に向ける。
瞳孔の確認。
間違いない。
コイツは、アーカイブは、もう死んでる。
そこに現れた女神。
「あら! あらあらあら! あら~……。
死んじゃいましたか?
まあ、そりゃ死んじゃいますよねー」
そして女神はオレたちの疑問符だらけの表情を読み取り、オレたちが何かを聞くまでもなく自発的に答えを教えてくれた。
数分に渡ってベラベラペラペラと話してくれた。
意思の疎通はできている。はず。
でも、突然の死の衝撃からうまく言葉が出てこないオレたちと、ペラペラ話す女神との間には、やっぱり決定的な違いがあるんだと思った。




