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勝手すぎる幼なじみにうってつけの一撃  作者: 山下くりぷうぴ
第一章~絶対にチーターにさせたい女神VS絶対にチーターにさせたくない幼なじみ~
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第一話 もう幼なじみだけでいいじゃん……

 オレには可愛い可愛い幼なじみがいる。

 それも毎朝部屋にやってきて「こらー!いつまで寝てるの!」なんて起こしてくれる、超イカした夢みたいな女だ。


「起きてください、リングさん」


 だけど今日は、別の女に起こされた。

 しかも、いつもより少し早い時間。

 何かが起きている。

 だから目を開いて確認する。

 オレの部屋に不法侵入し、枕元に立つ謎の女の正体を。


「どうもー! 女神ですっ!

 はじめまして!」


 女神だった。

 異質な朝を報せる、異質な存在。

 どこまでも象徴的だった。

 日常の終わりの合図、なんて言ってしまいたくなる程度に。


 わからないことだらけだから一つずつ処理していこうと思う。

 だけど一人で混乱しながら考えるよりは、目の前の人に聞いた方が早いかもしれない。

 そこで、まだ寝ぼけている脳を奮い立たせてオレは声を出す。


「え、えっと……、女神って……あの?」


「はいっ! あの女神です!

 正真正銘、本物の女神です!」


 真偽はともかく、その主張自体は受け入れることにした。

 なぜなら女神なる者の存在については学校の教科書や新聞等のメディアで知っていたから。

 この世界にはそういう人がいて、この世界のために働いている。

 それはこの、剣と魔法の世界で生きる人間たちの一般的な知識だ。


 もっとも、凡人以下のオレにとっては雲の上の存在だし、一生会うこともなく死んでいくのだと思っていた。


 じっ……、と女神を見つめる。


 なるほど、教科書に描かれている肖像画そっくりだ。

 ちょっと派手で元気な普通の女の子といった容貌。


 だんだん見つめるのが恥ずかしくなってきたので目を逸らす。


「な、なんですか。

 いきなり見つめたと思ったら……。

 あ、もしかして、あんまり女の子慣れはしてないんですか?」


 うるさい。


「そ、そっちこそなんなんですか。

 こんな朝っぱらに現れて……」


「まあまあ、そんな露骨にイヤな顔しないでください。

 無礼な発言は謝ります。

 部屋へ勝手に入ってきたのも、まあ完全にこちらの落ち度です。

 でも、そもそもこの時間、言うほど朝っぱらでしょうか。

 もう11時を回ってますよ?

 むしろ寝てられてビックリしたんですよ。

 だから勝手に入るしかなくて……。

 もしかして昨晩は深夜までお仕事をされてたとか……?


 …………いえ、そんなはずはありませんね。

 事前に調べたところ、あなたは1年前に士官学校を卒業してから今日まで、定職に就くこともなく毎日ダラダラと寝て起きて親に寄生するだけの生活をしているようですし……」


 オレは何も言えないでいる。

 それを良いことに女神は続ける。


「もう人生、諦めちゃってるんですか……?

 まだ17歳……ですよね?

 若いですし、なんとでもなる気がするのですが……。

 頑張れば、普通の幸せにだって……」


「悪かった。

 朝っぱらとか愚痴ったり被害者ぶったのは謝る。

 早く本題に入ってくれ。もう辛いんだ」


 耳に激痛が走っていた。

 オレは女神がほざいた様な正論が大嫌いだった。


「……まあ、人には色々な事情がありますしねー。

 で・す・が!

 そんなアナタにビッグチャンス!

 もう両親を泣かせることはありません!」


 両親は泣いてない。

 いつも優しい。

 だけど反論するのは虚しいからしない。


「はあ……チャンスね……。

 もしかして、それが本題?」


「はい、チャンスです!

 そして本題です!」


 そして女神は大きく息を吸いこみ、言った。


「おめでとうございますっ!

 あなたには100万人に一人が持つ才能……、『チーター』になる才能があることが判明しました!」


「……!!」


「あなたは神様に、選ばれたのです!」


 心臓が飛び出るかとは正にこのこと。


「オ、オレが……チーターに……?」


 その声は自分のものとは思えないほどに震えていた。


「はいっ!

 リングさんにはぜひチーターになっていただいて、世界を救っていただきたいのです!

 共に支配種を倒しましょう!」


 特殊設定に特殊設定、特殊用語に特殊用語が重なりややこしくなって申し訳ない。

 ってことで簡単な設定説明。


 町を出ればすぐそこにドラゴンやモンスターが闊歩し、人々が剣と魔法で争いを繰り広げるこの世界で、目下最大にして圧倒的な人類の脅威、それが『支配種』だ。


 支配種にかかればドラゴンの巣も軍事国家も一瞬にして蹂躙、殺戮、壊滅、消滅のどれかに陥ってしまう。


 そして、そんな規格外を誇る支配種に、唯一この星で対抗できる存在……。

 それが『チーター』だ。


 『チーター』は女神から洗礼を受けることでその力を覚醒させ、『コード』という超すごい超能力(頭の悪い言葉だが、しかしそうとしか表現できないから困る)を授かる。

 コード能力の威力は凄まじく、

 戦場に出れば一騎当千万、狩りに出れば100年先の食糧を確保でき、そしてもちろん、支配種にも勝てる。


 正にコード能力を扱うチーターは、この世界の救世主だ。


 はい、設定説明終わり。


「…………」


「ふふっ、開いた口がふさがらない様ですね。

 いきなりのことですし、驚かれるのも無理はありません」


「……というより、なんだか……はは、信じられないな。

 だって、チーターって100万人に1人しかなれないって聞いてたし……。

 そんな選ばれた人間に、オレみたいなのが……」


 そう、考えてみれば女神が人間の目の前に現れるなんてチーター絡みのことでしかあり得ない。

 なのにオレは自分がチーターの素質があるのだという可能性を最初から排除していた。

 それぐらいあり得ないことだから。


 このオレのしょぼい肉体と魂に、支配種を倒すコード能力が眠っているなんて考えられなかった。


「だが事実だ」


 不意に響いた威厳のある声。

 窓を見ると外には甲冑をまとったおじさんがいた。

 この人も見たことがあった。


「あなたは確か……ディーゴージ・ガイさん?」

「光栄だね。

 君のような若者にも知っていてもらえてうれしいよ」


 知らないもんか。

 ディーゴージさんは隣町に住むチーターだ。

 新聞や本にも写真はたくさん載っている超有名人。

 この町にはチーターがいないから(100万人に一人だし当然っちゃあ当然)周辺に現れた支配種退治は全部ディーゴージさんが担ってる。

 みんなのヒーロー。


 うーん、女神を名乗る女だけなら、タダの詐欺だと突っぱねたところだけど。

 こんな有名人が現れちゃったってことは、ガチなのかな……。


「ふふ、どうやら信じてくれたようだね。

 来てよかったよ。

 それならばリング君、僕からもお願いだ。

 女神様の洗礼を受けて、チーターとなり、共に支配種と戦おう」


「私からもお願いしますっ!

 世界には、アナタの才能が必要なんですっ!」


 ヒーローと女神からお願いをされている。

 オレの才能が必要だと言われている。


「…………」


 胸が熱い。


 傑作だ。

 何って、熱くなってる自分が。

 毎朝起きるのも億劫だった、そんなオレの人生。

 それに意味があると聞かされたオレは、もう前向きになってる。

 あんなに腐ってたのに。

 単純だったね、オレのメンタル。

 傑作だ。


「……はい、受けます、洗礼。

 オレ、チーターになりますっ!!」


 気づけば、オレはこう答えていた。


「ほ、本当かい!?」


「ありがとうございますっ! リングさん!

 とっても嬉しいです!」


 オレの決断に手を叩いて喜ぶ二人。


「いえ、嬉しいのはむしろオレの方で。

 人の役に立てるって言われたことが、今まで一度もなくて。

 だからまあ、ほとんど自分のためっていうか」


「ああ、君はこれからどんどん人々の役に立つことができるよ。

 少なくとも、僕は大いに助かる。

 実はこの身一つで地域一帯の支配種を相手にするのは少々大変でね。

 仲間が近くにいるとなれば、こんなに心強いことはない」


「はい……!」


 柄にもなく、素直に笑って答えた。

 いよいよ始まるんだ、オレの人生は……。


 異質な朝じゃない。

 最高の朝、人生の夜明けだった。

 ありがとう、全ての……。


 だけど、強制的に、いつもの朝に戻そうとする声が聞こえた。

 あの声だ。


「ダメェェェえええええええーーーーーーーー!!!!!」


 ガッシャーーンと砕ける窓ガラス。

 そりゃもうびっくりするオレ、女神、ディーゴージさん。

 何かが叫びながら部屋に飛び込んできた。

 その正体は……、


「マッキー!」


 幼なじみの女の子、マッキーだった。


「くっそー、今日だったか~~。

 相変わらず安定しないな~~。

 あ、おはよ! リング!」


「お、おはよう……。え、なに? どうしたの?」


「はっ! そうだった!」


 マッキーはオレの肩につかみかかる。


「ダメだよリング! こんな奴らの言うこと聞かないで!

 いや、ディーゴージさんは立派な人だと思うけど、とにかく聞かないで!

 今アンタ、チーターになろうとしてたんでしょ!?」


「あ、うん……。そうなんだよ。

 実はオレ、100万人に一人の素質があるらしくって……。へへ……」


「嬉しそうに言うな!」


「え、ええと……お友達の方……ですか?

 今、リングさんは大事な話をしていて……」


「あっ! 女神! 帰れ! 帰れ帰れ!」


「き、聞いてよマッキー。

 オレさ、どうしようもない人間だし、これからもどうしようもない人生かなってずっと思ってたんだけどさ、でもチーターになることでみんなの役に立てるなら、それはとても嬉しいなって……」


「うるさい!

 アタシがアンタのことは守ってあげるから、

 アンタはずっと役立たずでいいの!」


「ええ……」


「ちょっと! いくらお友達の方でも失礼では?

 リングさんの力は世界に必要なのです!

 リングさんは世界に必要とされているのです!

 役立たずではありません!」


「役立たずなの! 役立たずでいいの!

 ずっとずっと役立たずでいいの!

 リングにコードなんて必要ない!

 チーターになる必要もない!」


「それを決めるのはリングさんと世界ですっ!」


「リング! こんな貧乳の言うこと聞いちゃダメ!

 私はほら! メガネ、乳の大きい、いい女!

 しかもポッと出じゃない、ずっと一緒にいた幼なじみだよ!?

 どう考えても勝ちヒロイン!

 私の言うこと、聞いてくれるよね!」


「あなた超~~~性格悪いですね!!

 ただのご近所同士だから仕方なく仲良くしてるだけで、

 本当はリングさんあなたのこと大嫌いですよ、絶対!」


「っしゃあ! 殺す!」


「かかって来いやぁ!!」


 とほほ…。とんだ修羅場だよ……。

 女神もだんだん口の悪さが露呈してきたし……。

 この現状をどうしようか……と思い割れた窓の外にいるディーゴージさんの方を見る。

 目を逸らされた。なのでずっとにらむ。にらみ続ける。

 観念したディーゴージさんは覚悟を決めて口を開いた。


「ま、まぁまぁお二人さん。特にこら、女神、大人げないよ。

 ええと、マッキーさんの気持ちもわかるだろう?

 自分の幼なじみが、支配種という化け物との戦いに駆り出されるんだ。

 チーターになるということは、その使命を背負うわけだからね。

 うん、心配になってしまうのも無理はない」


「そ、それは……確かにそうでした。

 すみません、マッキーさん」


「ふんっ!」


 ほっ……。


「しかしマッキーさん、ちょっと僕たちの話も聞いてくれないかな。

 君は少し勘違いをしている。

 確かに支配種は強いよ。人間じゃ歯が立たない。

 鍛え抜かれた軍であっても赤子同然の扱いだ。

 通常の人間が勝つには、『子供の成長力のまま、100年修業する必要がある』なんて言われてるね。

 つまり不可能だ。それぐらい支配種は強い」


 ディーゴージさんの言ったその例えはオレも聞いたことがある。

 変な例えだから妙に覚えてる。


「だけど、だけどね、マッキーさん。

 チーターはそんな支配種を相手にも、無傷の勝利を一瞬で得ることができる。

 それぐらい反則級の強さなんだ」


「わかってるわよ、それぐらい……」


 小さな声でマッキーがそう言った。


「そこでだ、マッキーさん。

 一度リング君と一緒に僕の活躍を観ないかい?

 大丈夫、僕が手を回せば観覧の許可も下りる。

 そこで僕が華麗に、一瞬で勝負を決めることを約束しよう。

 そうなったら安心もできると思うんだ」


 さすがディーゴージさん。

 これ以上ない条件提示。マッキーも認めざるを得ないはず。

 マッキーの答えは……。


「嫌! 絶対、イヤ! 行かない! リングも行っちゃダメ! わあああああ!」


 頑固!

 なんでそんな頑固? つーかワガママ!


 とか思ってると町で警報が鳴る。

 この警報は支配種がこの地域周辺に現れた時の音。

 すごい偶然だが、支配種がこのタイミングで現れたのだ。

 ちなみにこの警報は緊急事態宣言の合図であり、町の人は外出の自粛を要請される。


 だから支配種の戦いを普通の人は見ることがない。

 とはいえ、自粛要請なんて破る人は結構いるみたいだし、メディア関係者は近づくのを許されてるからオレも色々聞いたことはあるという感じ。

 あ、もちろん引きこもり気質のオレは要請なんてされなくても外出しない。

 模範的市民。


 なんだけど、今日の支配種はさらに特別だった。


「ほう、いきなり町の上に現れたか。飛行型の小型支配種だな」


「えっ!?」


 割れてる窓から顔を覗かせると、なんとも言えない化け物がこの町の空を飛んでいた。

 あれが……支配種……。


 通常、支配種はこれまで町の外の山や草原で発見されていた。

 こんな町の上空に突然現れることは初めてだ。


 ただでさえ特殊な存在が、偶然にもこのタイミングで特例の状態で現れる。

 何が何だかパニックになってしまいそうだ。


「ふん、敵ながらあっぱれな奇襲だ」


 ディーゴージさんはこの事態を敵の奇襲と解釈し、そして余裕の笑みを浮かべた。

 ああ、頼りになる。


「だが、この町というのが運の尽きだ。

 よりによって、偶然にも僕が来ていた。

 この町ならば『称賛』も受けやすい。

 勝負は一瞬だな」


 称賛……?


「ではリング君、マッキーさん、

 軽くあの支配種を退治してくるよ。

 チーターの戦いは安全だと証明するために」


「はい! 頑張ってください!」


 とオレは応えたが、マッキーの返事がない。

 あれ? てか、いない?

 マッキー……どこ?


 と思ったら、すでに窓から外に出ていて、準備運動中。


 え、何するつもり?


「てやああああああああ!!」


 と、叫ぶやいなやマッキーは大ジャンプ。

 100メートルくらい飛び上がる。

 そして空中の支配種に飛び掛かり


「はあああああああああっ!!」


 そのまま、ぶん殴った。


ッバアアアアアアン!!


 と強烈な炸裂音がして、支配種は弾けて散った。

 一撃だった。


 ベトベトとした血の雨が町中に降り注ぐ。


 国を滅ぼすほど強い、人類の脅威、支配種。

 チーターの扱うコード能力だけが、唯一の抵抗できるとされている支配種。

 そんな支配種をマッキーは、一発ぶん殴って殺した。


 着地するマッキー。

 ボー然とするしかない、オレと女神とディーゴージさん。


 ニコニコとしたマッキーは割れた窓から部屋に戻ってきて言う。


「ね、アタシが支配種と戦うから、

 アンタはチーターになんてならなくていいの♪」


 幼なじみ、強い。

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