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第8話 殺されても仕方がない行為



「変わった部屋だな。小さなテーブルと椅子が並んでいるだけだ」


 ゲリング達は机の中や教室の後ろに設置されているロッカーの中を覗き込み物色している。


 彼らは真面目に異色なダンジョンの中を探索をしているつもりだろうが、俺達の目にはただの学校荒らしにしか見えないので正直いい気分はしない。


「どのテーブルの中にも書物が沢山入っているな。うーん、見た事がない文字だ。どこの国の文字だ?」


「分からん。とりあえず何冊か持って帰ろう。プライズさんなら翻訳魔法で内容を解析できるだろう」


 コルテッサ達は机の中の教科書やノートをトリスに持たせ、更に物色を続ける。


 その時、ゲリングが机の横に掛けられていた鞄の中から一本のたて笛を見つけた。


「おい見ろよ。これは笛じゃないのか?」


 経年劣化でボロボロになっているものの、まだ笛としての機能は生きている。


 ゲリングは無造作に唄口に唇を付け、ピーヒョロローと音を鳴らす。


「なんだそれ、お前本当に下手糞だな。ちょっと俺に貸せ」


 ベルスは強引にゲリングからたて笛を奪い取る。


「ええと……この穴を塞げば、この音が鳴るのか……よし!」


 ピロリロリロ~。


 さすがに言うだけの事はあり、ベルスの演奏はゲリングよりもまともだった。

 少なくとも俺よりは上手い。


 俺は思わず感心してしまったが俺の横で由美子ちゃんが泣いているのが見えた。


「うう……酷いよ……」


「どうしたの由美子ちゃん?」


「あの笛、美紅ちゃんのだよ……」


 鈍異学園初等部四年一組、沼田 美紅(ぬまた みく)

 由美子ちゃんの大の仲良しだった女の子だ。


 世の中には好きな女の子のたて笛を舐めたりする変態がいると聞いた事がある。

 被害者にとって精神的な苦痛は計り知れないだろう。


 意図せずとも今の彼らの行動はまさしくそれだ。

 親友のたて笛にあんな事をされて由美子ちゃんの内心が穏やかでいられるはずがない。


 更に彼らの行動はこれだけで終わらなかった。


「おい見ろよ、こっちの鞄の中にも笛があるぞ。コルテッサ、次はお前が吹いてみろよ」

「おう、貸しな」



「あ……」


 由美子ちゃんの半透明な顔がみるみる青ざめていくのが分かった。


「私の笛……」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の理性は吹き飛んだ。


 コルテッサが由美子ちゃんの笛に口をつけようとしたその瞬間、俺はその笛に特大の霊力を送り込んだ。



 パァン!



 笛はコルテッサの頭部を巻き込んで爆発した。


 ゲリング達は一瞬何が起きたのか理解できずに固まっていたが、床に横たわっている頭部のないコルテッサの死体と真っ赤に染まった床を見てようやく事態を把握する。


「し……死んでる……頭が……なくなっている」


「おい、コルテッサ……嘘だよな……うわああああああ!?」


「お前達逃げろ、爆発のトラップだ! くそっ、この俺が見破れなかったとはどれだけ巧妙に仕掛けられていたんだ……」


 ゲリング、ベルス、トリスの三人は泣き叫びながら教室の外へ逃げ出していった。


「由美子ちゃんごめん。君の笛を壊しちゃった」


 由美子ちゃんは涙をぬぐいながら笑って答えた。


「いいよ。詩郎兄ちゃんがやらなかったら私がやってたから」



 ゲリング達は校舎の入り口に向かって一目散に走り出すが、入り口前には既に愛が待ちかまえていた。


 愛は彼らに見つからないように下駄箱の裏に隠れながら霊力で入口に見えない壁──結界──を張る。


「おいゲリング何をしている。早く入り口の扉を開けろ!」


「それが、おかしいんだ。俺の目の前に何かが邪魔をして扉に触れない」


「まさか、またあのゴーストの仕業では?」


「くそっ、このままじゃ俺達までやられる。お前達、ここから離れるぞ!」


 三人は入口からの脱出を諦め、校舎の中に後戻りする。


「俺達は完全に閉じ込められたらしい。他に出口を探そう」


「ゲリングさん窓から出られませんか?」


 トリスが廊下の窓を指差して言う。

 窓ガラスにはひびが入ってり如何にも簡単に割れそうに見えた。


「そうだな。お前達後ろに下がっていろ」


 ゲリングは廊下の窓に残っているガラスをハンマーで叩くと予想通り窓ガラスは簡単に粉々に砕け散った。

 ゲリングは割れた窓から首を外に覗かせて外の様子を探ろうとする。


 その瞬間、ゲリングの動きがぴたりと止まった。


「ゲリングさん、どうかしましたか?」


 トリスは心配をしてゲリングに近付いて肩に手を触れる。


 ゲリングの身体はぐらりと後ろ向きに傾き、そのまま仰向けに崩れ落ちた。


「う、うわあああああああ!?」


「げ……ゲリング!?」


 ゲリングの首から上は既に無くなっていた。

 時間差でその切断面からは夥しい量の血が噴出し、ゲリングに近付いたベルスとトリスの身体を真っ赤に染め上げた。


 彼を殺すのは簡単だった。

 彼が窓から首を外に覗かせた時、俺はその上の階にある窓ガラスの欠片を真下に落としただけだ。


 鋭利に研ぎ澄まされたガラス片はギロチンのように鋭く真下にいたゲリングの首を切断した。


「トリス、窓は駄目だ! 窓から離れろ!」


 ベルスとトリスの二人はゲリングの死体を放り投げ後ろに飛び下がった。


「ベルスさん、もう駄目です……僕達もゲリングさん達のようにゴーストに殺されるんだ……」


「トリス、気をしっかり持て!」


 ベルスはトリスの頬を引っ叩いて鼓舞する。


「いいか、俺達は何が何でも生き残ってこの事をプライズさん達に伝えなければならない。絶対に最後まで諦めるな」


「ベルスさん……はい」


「よし、さあ他の出口を探そう」


 ベルスとトリスは有りもしない出口を求めて校舎の奥へ足を進めた。




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