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第7話 侵入者

 ひとり校庭に戻ってプライズ達と合流したトリスはキンメル達がいなくなった事と、貯水池(プール)が血のように真っ赤に染まっていた事を報告する。


 彼らの中にはキンメル達の捜索を主張する者もいたが、ミイラ取りがミイラになる事を恐れたプライズの指示でまずはこのまま朝を待つ事になった。


 校庭の横に生えている鈍異学園名物の大きな杉の木の下に移動し、各々テントを張る。


 このまま何事もなく朝を迎えさせるのも芸がない。

 俺達はプールで溺死させたキンメル達の躯をこっそりと杉の木まで持ち運び、学校の用具室の中から持ってきたボロボロのロープで木の枝に吊るす。


 丁度その時、雲間から満月が顔を出し、三人の躯が照らし出される。


 冒険者達は更なる恐怖にかられ、その混乱の中ライオネンという一人の戦士が命を落とした。


 これは完全な事故であるが、冒険者達は完全に俺達の仕業だと思い込んでいる。


 俺達は校舎の上から生き残った冒険者達が穴を掘ってキンメル、ブル、ミッチャー、ライオネンの四人の遺体を埋葬する様子を眺めていた。


「キンメル、ブル、ミッチャー、ライオネン。故郷へ連れて帰りたかったが、この状況ではこんな場所に埋葬するしかない。どうか許してくれ」


 トリス達は簡易的に作られた墓の前で膝を折り、両手を合わせる。


 死者を弔う姿勢は彼らの世界でも俺達の世界とさほど変わらないらしい。


「トリス、彼らは魂となっても俺達をずっと見守ってくれているさ」


「プライズさん……はい。俺もそう思います」


 彼らはお互いを慰め合っているが、残念ながら怨霊に殺された人間の魂が行き着く先は無だ。

 彼らを見守る事はおろか、生まれ変わって再会する事も未来永劫ない。


 まあ勝手に事故死したライオネンにはそのチャンスがあったが、俺達は彼が死んだ後にその魂が昇天するところを確認したので決して彼らの事を見守ってなどいない。


「お前達、今日はもうテントの中で休め。ここは俺が見張っている」


「プライズさん、こんな状況で眠れる訳ないでしょう。俺達もここで見張りをしますよ」


「馬鹿を言うな。この先何が起きるか分からんのだ。眠れないのは分かるが、仮眠でもいいから少しでも横になって疲れを取っておけ。俺はこれ以上仲間達が死ぬところを見たくない」


「プライズさん……分かりました。生き残った皆で必ず無事に帰りましょう」


「ああ……必ずな」


 トリス達はこの中で一番のベテランの冒険者であるプライズ氏を残してテントの中に入り、無理やり横になった。


 脳裏に浮かぶのはつい数時間前までの楽しかった冒険者ギルドでの日々ばかりだ。


 一方幽霊である俺達は睡眠をとる必要はない。

 今の内に彼らとは離ればなれになっている別のグループの動向や今後の作戦会議を行う。



 この鈍異村に閉じ込めた【英雄の血脈】の冒険者は総勢百人で、その内の五人は既に始末した。


 鈍異学園は丁度村の北に位置しており、校庭にプライズ達十人がテントを張って休んでいる。


 プライズ達以外の冒険者の動向を探ると、村の北西の公園には聖女フィロリーナ、北東の住宅地跡には召喚士ハムール、南東の鈍異病院跡には僧侶ディアネイラ、南西の墓地にはネクロマンサーのクロード、真南の図書館跡にはギルドマスターである大魔法少女シトリーネがそれぞれ十から二十人程の冒険者達と合流してグループで行動しているのが分かった。


 各グループを率いている六人はいずれも魔王軍の幹部クラスが相手なら単騎でやりあえるSランクの冒険者達だ。

 如何に怨霊の力といえども思わぬ反撃を受けるかもしれない。


 古今東西怨霊側が生者に返り討ちに遭う物語は少なくない。

 俺達は霊力の回復を待ちながら気を引き締め直す。




◇◇◇◇




 やがて空が明るくなり、冒険者達にも学校の様子が明るみになった。


 暗がりでは良く分からなかったが、殆ど朽ち果てているが自分達の文明とは明らかに異なる造形の建築物に冒険者達は驚きの声を上げる。


「こうして改めて見ると変わった形の建物だな。リーウン、どこの国の物だと思う?」


「そうですね……」


 リーウンと呼ばれる青い目の壮年男性は建築関係のスキルを多く有している珍しい冒険者だ。

 校舎の壁を摩り、割れている窓から中を覗き入念に吟味しながら言った。


「外見は東のワフー国に雰囲気が似ている気がするが、内部構造が全然違うな。少なくとも俺が知っているどの国の建築法とも異なっている。特に耐震性が高そうな作りをしているな。ここは地震が多い国なのだろうな」


 このように様々な分野のスペシャリストを揃えている事が、【英雄の血脈】が大陸最高峰のギルドとして君臨する要因となっている。


「って事は今まで隠れていた古代文明の遺跡ってやつか? これは大発見じゃないか。また【英雄の血脈】の名声が上がるな」


 未知の世界の探検を生業とする探検家職のコルテッサは思わず目を輝かすが、リーウンが渋い表情で(たしな)める。


「古代という程古くはあるまい。せいぜい五十年から百年といったところだぞ。それに発表しようにも俺達が元の場所に帰れなければ意味がない。バートンやキンメル達がどうなったのかもう忘れたのか」


「う……そうだな。すまない、こんな時にはしゃいで不謹慎だった」


「この建物の内部を探索したいところだが、他のギルドメンバーがどうなったのかも気になる。それに手持ちの食料も残り少ない」


「召喚士ハムールの奴と合流できれば他の仲間の捜索とか食糧問題は解決できそうなんだが……」


「相手がゴーストならば聖女フィロリーナや僧侶ディアネイラの浄化の力を借りる必要がある」


「ネクロマンサークロードの力ならばバートン達がどうやって殺されたのかが分かるかもしれんな」


「仲間の死体を操るのか? ……いや、気は進まないが今はそんなきれいごとは言ってられないか」


「それよりもまずはギルドマスターのシトリーネさんを見つける事が先決じゃないのか? この状況で俺達をまとめられるのはあの人しかいないだろう」


「ふむ……」


 冒険者達はお互いの意見を出し合った結果、校庭に張ったテントを拠点として他の仲間の捜索に向かうグループと校舎の中を探索するグループに分かれる事になった。


「トリス、コルテッサ、ゲリング、ベルス、お前達四人はこの建物の中がどうなっているか調べろ」


「おうよ!」

「分かりました、プライズさん」


「ラスタル、デザーフォ、ヒムロ。お前達は付近にギルドの仲間達がいないか探索をしろ。バジマーツの奴は落ちつくまでもうしばらくここで休ませてやろうと思う」


「そうですね。ライオネンさんの事がかなりショックだったみたいですからね」


「俺とライズボーンはこの拠点に残る。いいか、この先何が起きるか分からん。決して単独行動は取るなよ。そして少しでも危険を感じたら無理をせずに逃げる事を考えろ」


「はい!」


 プライズの指揮で冒険者達が一斉に動き出すのを俺達は校舎の屋上から眺めていた。


「詩郎君、どうするの? あのラスタルとかいう人達が住宅地の方に向かってるけど、確か今あの場所にはハムールとかいう召喚士のグループがいるよね。合流させちゃってもいいの?」


「うーん……それも気になるけど、それよりも俺が今腹立たしいのは校舎に侵入しようとしている奴らだ。俺達の学校に土足で踏み入りやがって……」


「うん、私もあんな人達に学校を荒らして貰いたくない」


「追い出しちゃおうよ」


「よし決まりだ。次の獲物は校舎に侵入した奴らだ。霊力も回復した事だし、二度と校舎の中に入ろうとする者が現れないように徹底的にやってやろうぜ」


 俺達は校舎へ向かった四人に気付かれないようにこっそりを後をつける。


 その四人の内、ゲリングとベルスの二人はシーフ職だ。

 まずは針金で入口の扉の鍵をいとも簡単に開けて内部に入り、下駄箱エリアを抜けてミシッ、ミシッという音を立てながらボロボロになった廊下を進む。


「ゲリングさん、今にも崩れそうな建物ですね」


「ああ、もう何十年も放置されていたようだな。見ろ、蜘蛛の巣がこんなに張っている。それにしても本当に変わったダンジョンだな。皆トラップには気をつけろよ。それからトリス、お前はまだ未熟者だからな。怪しい物には絶対手を触れるんじゃないぞ」


「分かってますよゲリングさん」


「お、部屋があるぞ」


 ゲリング達は教室の前で足を止めた。


 教室の扉は鍵を空けるまでもない。

 コルテッサがバールのような物で扉をこじ開けて教室の中に踊り込む。


「あ……」


 物陰から彼らの様子を見ていたよ由美子ちゃんが小さく声を上げた。

 それもそのはず、彼らが侵入した教室は初等部四年一組。

 由美子ちゃんのクラスだ。


 俺達は引き続き彼らの行動の監視を続ける。






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