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第48話 異世界転移装置



 無人となった冒険者ギルド【英雄の血脈】の本部は僅か数日の内に瓦礫の山と化していた。


 ギルドに所属する冒険者は魔物や賊の討伐を生業としている為に敵を作りやすい。


 【英雄の血脈】のメンバーが俺達の手で世界の果てに閉じ込められた後に真っ先にギルド本部を襲撃したのは、かつて王国中を荒らしまわったことによって【英雄の血脈】に討伐されたオウガ山賊団の残党である。


 彼らは【英雄の血脈】への復讐の機会を狙っていたが、ある日異変に気付く。


「おい、ギルドの中に人がいないぞ? あいつらどこへ行ったんだ?」


「兄貴、これはチャンスですぜ。ギルドの中にはあいつらが長年貯め込んだお宝が保管されているって聞きますぜ。これを頂かない手はないですよ」


「よし、決まりだ。明日の朝ギルド本部を襲撃するぞ。お宝を全部頂いて……いや違うな。あの中の何割かは元々俺達の物だ。取り返しても文句はあるまい」


「おう!」


 オウガ山賊団の残党たちはギルドに潜入すると宝物庫から金銀財宝を全て奪い取っていった。


 オウガ山賊団の残党が引き上げた後は同業者である隣国の冒険者ギルド【民衆の盾】のメンバーがギルドを襲った。

 【英雄の血脈】は他所のギルドの主力メンバーを引き抜く為に手段を選ばなかったので同業者からの評判は最悪だった。

 人がいなくなった事をこれ幸いにとギルド内部を荒らし回り、気が済むまで暴れ終わるとまた引き上げていった。


 更に魔法ギルド【ソーサリア】の面々が【英雄の血脈】が長年研究を続けてきた貴重な魔法の知識を得る為に空き巣同然にギルドに侵入し、書庫に保管されていた書物を盗んでいった。


 最後には魔王軍の残党である魔族の一党も現れ、ギルド本部は徹底的に破壊しつくされてしまった。



 俺達がイリーナ達と合流してギルド【英雄の血脈】の本部の跡にやってきた時にはそこは既に瓦礫の山となっていた。


「酷い有様だな……異世界転移装置は無事だろうか?」


「詩郎さん、異世界転移装置はギルドの地下深くに隠されていますので多分大丈夫じゃないかとは思いますけど」


「地下だね。分かった、ちょっと見てくる」


 俺達幽霊にとっては物体を通り抜ける事など造作もない。

 異世界転移装置が隠されているという場所を目指して真っすぐ地下に潜ると、やがて大きな空間に辿り着いた。

 その中央には見た事もない大きな機械が置かれている。

 多分これがその異世界転移装置なのだろう。


 俺は残り少ない霊力を振り絞ってその空間の天井から地上まで穴を開け入口を作る。


「見つけたぞ、こっちに来てくれ!」


「はい、今行きます」


 イリーナ達は地上からロープを垂らし、足元に気をつけながら慎重に下りてきた。


「これだと思うんだけどどうかな?」


「そうです、これです! これで元の世界に帰れます!」


「良かった。でも操作方法がよく分からないな」


「大丈夫ですよ、そこの本棚に説明書がありますから」


 イリーナは一冊の本を取り出して操作方法のページを開いた。


「えーと、まずは安全装置を外して電源スイッチを入れた後に正面のタッチパネルからパスワードを入力してシステムを起動する」


「安全装置ってどれだ? それにパスワードなんて知らないぞ。……しくじったな、パスワードを吐かせる為に冒険者をひとり残しておけばよかった」


「ねえ、パスワードってこれじゃないかな?」


 由美子ちゃんはタッチパネルの横に張られたメモ紙を見つけてその内容を読み上げる。


「0・5・2・2」


「ははは、まさかそんな所に書かれてる筈は……」


「あ、起動しました」


「ええっ!?」


 イリーナが由美子ちゃんの読み上げた通りにタッチパネルを操作すると、ウィーンという起動音と共に装置が光り出した。


「あいつらセキュリティの概念どうなってるんだ……それに何だよこの適当なパスワードは」


「あー、そういえば聞いた事があります。エンフラーグの誕生日ですね、これ」


 イリーナが心底呆れた様子で呟く。


「……それじゃあ早速使ってみますか?」


「待った、まだ安全装置とやらを解除していないぞ」


「誌郎さん、多分最初から外れてたんじゃないでしょうか? 動かすたびに解除するのがめんどくさいとかそういう理由で……」


「ええ……」


 どうやら安全管理もガバガバらしい。


 これじゃいつ事故が起きてもおかしくない。

 こんな危機意識レベルでよくも俺達の事を原始人だのほざいてたものだ。


「……」


 気を取り直して俺は異世界転移装置の前に立ち、皆の方へ向き直す。


「……さて、ここで皆とはお別れになるな」


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