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第46話 消えた愛



「小娘、私の邪魔をする気ならお前から追放してやる! ……トラッシュリターン!」


 エンフラーグは背後から飛びかかってきた由美子ちゃんに向けて強制転移魔法を放った。


「ひゃあっ!?」


 魔法の直撃を食らった由美子ちゃんの身体が白い光に包まれる。


「由美子ちゃん!」


 俺は由美子ちゃんに手を伸ばそうとするが、エンフラーグの魔力に押さえられて指先一つ動かせなかった。


 由美子ちゃんの身体は光の中に溶けるように消えて──









 消えて……






「……あれ?」





 由美子ちゃんの身体はなかなか消えない。




 そもそも由美子ちゃんの身体は最初から半透明だ。

 消えていくように見えたのは気のせいだった。


 予想外の事態にエンフラーグもたじろいでいる。


「むう、これはどういう事だ? 貴様には私の強制転移魔法が効かないというのか? 貴様、本当にゴーストか?」


「見れば分かるでしょ。皆の仇め、死んでちょうだい!」


 由美子ちゃんは霊力を絞り出しながらエンフラーグに襲いかかった。

 しかしエンフラーグはまだまだ余裕の表情を見せている。


「その程度の力では私は倒せぬ。魔王すら退けた大魔道士エンフラーグ様を舐めて貰っては困るな!」


 エンフラーグが再び異様な魔力を放出すると、由美子ちゃんの身体が金縛りに掛かったように動かなくなった。


「ただのゴーストかと思って少々油断しておったわ。小娘、貴様の秘密がわかったぞ」


「秘密? 何それ。私はあなたのせいで死んだ普通の女の子の幽霊だよ」


「何を言うか。貴様はまだ生きているだろう」


「えっ?」


 由美子ちゃんが生きている?

 エンフラーグの言葉に俺と由美子ちゃんだけでなく愛も動きを止めた。


「その表情、本当に自覚していないようだな小娘。私の強制転移魔法が効かないという事は、貴様の本来の肉体が元から転移先……つまりあのゴミ捨て場にあるからだ」


「おいお前! 俺達の村をゴミ捨て場呼ばわりとは聞き捨てならないが、俺達の死体は全て鈍異村にあるんだ。あたりまえだろう」


「ふん、何も分かっておらんようだな小僧。死体になればそれは既にただのタンパク質の塊に過ぎん。魂が分離した後は元の身体との繋がりはなくなる。だがまだ肉体が生きているのなら話は別だ。小娘、貴様の魂は確かにこの世界にあるが、本体である肉体がまだ生きてあの場所にあるのならば私の転移魔法が効かない事も説明がつくというものだ。そもそも貴様は最初からあの場所にいるのだからな」


「それはつまり、由美子ちゃんは幽霊ではなくて生霊という事? 確かに俺や愛とは少し違うとは思っていたけど……しかしあれから七十五年だぞ。どこでどうやって生き延びていたんだ?」


「知った事か。おしゃべりは終わりだ! 転移ができないのならその魂を封印するだけの話だ」


 エンフラーグはそう言いながら魔力を操って鳥かごのような檻を作りだした。


「この封印の檻の中に入れば二度と外に出る事はできん。一生この中で飼い殺しにしてくれよう」


 エンフラーグは動けない由美子ちゃんに向けて檻を被せようとする。


「そうはさせないわ、この変態魔導士!」


 それを食い止めようと愛がエンフラーグに飛びかかった。


「バカめ、ただのゴーストに何ができるか! ……トラッシュリターン!」


 エンフラーグは愛に向けて躊躇なく強制転移魔法を放った。

 白い光が愛を包み込む。


「ははは、まずは一匹ゴミ捨て場に送り返してやったぞ……何っ!?」


「あなたがそう来るのは想定内よ!」


 愛は魔法の直撃を受けてもなお一直線にエンフラーグに向かって突き進み、自らが霊体であることを活かしてそのままエンフラーグの身体の中に潜り込み……憑依した。


「私はこのまま日本に飛ばされるんでしょうね。でも憑依した状態ならあなたはどうなるのかしら?」


 転移魔法を受けた愛に憑依されたエンフラーグの身体は白い光に包まれていた。


「おい、やめろ……今すぐ私から離れろ!」


「もう遅い!」



 シュン……と微かな余韻を残して愛は憑依したエンフラーグの身体ごと消え去った。




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