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第44話 復活した英雄



「プライズさん、やっぱり誰かの声が聞こえませんでしたか?」


「いや、何も聞こえないぞ?」


 トリスとプライズの様子がおかしい事に気付いたシトリーネが歩みを緩め、二人を問い質す。


「どうしました二人とも。何の話ですか?」


「シトリーネさん、さっきからトリスがおかしな事を言ってるんです」


「本当に女性の声が聞こえたんです。それにあの声どこかで聞いた事があるような……」


「声? 私にも何も聞こえませんでしたが……気のせいではなくて?」


「……そうかもしれません。俺、疲れているのかも」


「あのような目に遭ったのですから無理もありませんね。ですが私達には足を止めている時間はありません。先を急ぎましょう」


「はい」


 シトリーネたちは気を取り直して西に向けて移動を再開する。


 そんな彼女達のやり取りをすぐ傍から眺めているひとつの影があった。


 ディアネイラの霊体である。


 元々微量だった彼女の霊力は既に尽きかけており冒険者達はその存在を感知することができなかった。


 ただ一人トリスだけはその声だけは感じ取ることができていた。


 ディアネイラは最後の霊力を振り絞りトリスに近付くとその耳元で囁くように呟いた。


「アルタイアの曾孫ディアネイラ、古の約定に従い彼の者より預かりし宝鈺を返還する……ふう……」



「え? やっぱり今誰かの声が聞こえ……うっ……」


「本当に大丈夫かトリス? 悪いが調子が悪くても休んでいる暇はないぞ」


「……」


「どうしたトリス?」


「……トリス……? いや、私の名前は……」


「おいトリス、正気に戻れ」


「私は正気だ、狼狽えるな若造」


「何!? トリス、お前何を言って……いや、お前本当にトリスなのか?」


 トリスの急激な変化にプライズ達は戸惑いを隠せない。


 その威厳溢れる雰囲気は駆け出しの冒険者のそれではない。

 明らかに歴戦の猛者のものである。


「聞け、お前達。私の名はエンフラーグ。かつて魔王を打ち滅ぼし、冒険者ギルド【英雄の血脈】を作りし者である」


「そんなまさか……しかし……」


 プライズ達はトリスの前に跪き首を垂れる。

 凡そ信じられないような話だが、トリスの身体から溢れ出す強大な魔力を感じれば彼がエンフラーグ本人であると疑いようはなかった。


「それでエンフラーグ様、これは一体どういう事でしょうか?」


「うむ。心して聞くがよい。」


 エンフラーグとなったトリスは語った。


 人は死後神によってその記憶を消され、別の命として生まれ変わる。

 それが自然の摂理だ。


 しかしエンフラーグは自らが死んだ後のこの世界の事を懸念していた。

 再び世界に危機が訪れた時、それに立ち向かう力が必要だ。


 エンフラーグは冒険者ギルド【英雄の血脈】を設立して自らの後継者を育てたがそれでもまだ不安があった。


 やがてエンフラーグも老いてその寿命を迎える時、共に魔王と戦った仲間である僧侶アルタイアを呼び寄せてひとつの命を下した。


 エンフラーグの記憶と魔力をアルタイアの魂の中に封印しその子孫達に引き継がせ、将来世界に危機が訪れた時にそれを解放し転生したエンフラーグに返還せよと。


 もしその時がやってこなかったか、【英雄の血脈】のメンバーの中にエンフラーグを超える冒険者が現れたのならば封印を解く必要はないともエンフラーグは言った。


 世界の危機ではなかったが、ディアネイラは今こそその封印を解く時と考えた。

 封印を解いた事でその封印の依り代となっていたディアネイラの魂は完全に消滅した。


「そうだったのですか……申し訳ございません、私の力が足りないばかりに多くの仲間達を死なせてしまいました……」


 シトリーネは悲痛な表情で言葉を絞り出す。


「よい。お前の魔法ではあのゴーストどもとの相性が相性が悪かっただけだ。ゴーストどもは私が始末する。お前達は先に行くがいい」


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