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第41話 決戦準備

「本当に……私に酷い事をするつもりはないんですか?」


「うん、私達が許せないのは【英雄の血脈】の人達だけ。私達はあなたの味方よ」


 アルルは意識が戻った直後こそ幽霊である俺達の姿に怯えていたが、同年代である由美子ちゃんが笑顔で優しく接すると徐々に警戒を解いてくれた。


「あなたのお姉ちゃんも私達と一緒にいるよ。ついてきて」


「うん……」


 俺達はアルルを俺の自宅まで案内する。


 自宅に近付いた頃、アルルの匂いを嗅ぎ分けたイリーナが家を飛び出してアルルに駆け寄った。


「アルル! 無事だったのね!」

「お姉ちゃああああん! うわああああん、怖かったよお……」


 イリーナとアルルは抱きあってお互いの無事を喜んでいた。


「良かったねイリーナ。あれ、詩郎君泣いてるの?」


「違……これは目に花粉が入っただけだ」


「幽霊の目に花粉が入る訳ないじゃん」


「うるさいな……俺はこういうのに弱いんだ。悪いか?」


「うふふ、別に悪くなんてないわ。さ、アルルちゃんお腹がすいてるでしょ? 中に美味しい食べ物が沢山あるから遠慮なく食べていって」


「うん、有難う愛お姉ちゃん……」


「うう、私もこういうシーンがダメなのよね……」


 横を見るといつも俺達の行動を監視しているディアネイラの霊も大粒の涙を流していた。


「いや、お前はお呼びじゃない」


「いいじゃない別に。私もう死んでるんだから恨みっこは無しよ」


「本当に何なんだこいつは……」


 約一名招かれざる者が紛れているものの、俺達はアルルちゃんの無事を祝って果物のジュースで祝杯を挙げる。

 後は鈍異学園の校庭に陣取っている冒険者達を始末すれば俺達の復讐劇は完遂される。


 だがひとつ問題となっているのが聖女フィロリーナの作りだした結界だ。

 奴らがあの結界の中に引き籠っている以上手出しができない。


 俺はどうやってあの結界の内部に侵入するかを考える。

 いや、侵入できないのなら結界そのものを破壊してしまえばどうだろうか。

 俺は最近シトリーネが千徳村長の屋敷に張られていた結界を破ったのを見た。

 ならば俺達も同じ事をすればいい。


 ……いや駄目だ。


 千徳村長の屋敷に張られていた結界は、屋敷を囲むように描かれた籠目の文様──六芒星──とその頂点にある施設が生み出していたものだ。

 シトリーネはその施設の一つを破壊する事で結界を打ち破ったのだが、今鈍異学園に張られている結界は聖女フィロリーナの力で生み出されたものだ。

 彼女を殺せば結界は消えるだろうが、そもそも俺達は結界の中に入れないのだ。

 イリーナ、アルル、ラミィの三人なら結界の中に入れるかもしれないが、彼女達だけで聖女フィロリーナを倒すは不可能だろう。


 何か他の手はないか……。

 俺は今までの彼らの戦いの中から現状を打破するヒントを探す。



「そうだ、目には目を……!」


 俺は一つの策を閃いた。


「よし皆聞いてくれ。これから鈍異学園の校庭を不当に占拠している冒険者どもを駆逐する。その作戦は──」




◇◇◇◇




 シトリーネが鈍異学園の校庭に辿り着いたのは日が暮れた頃だった。


 プライズ達は頼れるギルドマスターの到着に沸き上がった。


「シトリーネさん、あんたが来てくれれば百人力だ。ところでワルドとライズボーンがお迎えにあがりませんでしたか?」


「ええ、ここへ来る途中彼らの屍を見つけました。二人とも無数の矢に全身を貫かれて死んでいました。おそらくゴースト達の仕業でしょう」


「なんと……そうですか、あいつらには気の毒な事をしてしまった」


「あなた達が無事なところを見ると、ゴースト達は結界の中には入って来れないようですね。ならば打つ手はあります。今から作戦会議を行いましょう」


「おお!」


 シトリーネは見張りの者を残して生き残りのメンバーを砦の奥に集めて自らの考えを述べる。


「作戦はこうです。ゴースト達は結界を突破できない。ならばゴースト達を囲むように結界を張れば奴らを閉じ込めて無力化する事ができるはずです」


「成る程、奴らを閉じ込める事ができれば後はどうとでもなるな。さすがシトリーネさんだ」


「ディアネイラが生きていれば奴らを消し去る事は容易かったんだろうけどな。こうなったら他所のギルドや教会から僧侶を派遣して貰おうか。シトリーネさん、どう思います?」


「いえ、その必要はありません。私は南にある施設の中に保管されていた書物からこの世界の事を学びました。この世界の塩には悪しきものを清める力があり、ゴースト退治に用いられる事が多いそうです」


「おお、さすがはシトリーネさんだ。これでもうあいつらなんか怖くねえ」


「他にもこの世界の僧侶が唱えるお経という呪文には死者の魂を天国へ送る力があるそうです。その資料を持ってきましたので皆さん目を通しておいて下さい」


「ふむふむ、なむあみだぶつ……変わった呪文ですね」


 シトリーネは次々と怨霊退治の方法を挙げていく。

 これらが実行されれば俺達は窮地に陥るはずだった。


「かーごめかごめー……かーごのなーかのとーりーはー……」


 砦の周囲から歌声が響き渡った。


「異界の歌……? 誰が歌っているのかしら?」


「ゴースト達に決まっている。俺達を滅ぼす呪いの歌に違いない!」


 プライズ達は砦を飛び出して周囲を見回す。

 しかし暗闇の中その主を見つける事は出来なかった。


「よーあーけーのーばーんーにー……」


 歌声は少しずつ大きくなる。


「あいつら一体何をやっているんだ?」


 暗闇の中で行われている得体の知れない動きに冒険者達は恐怖を覚え立ち竦んでいる。


「うしろのしょうめんだーあれーー……」


 その歌が終わった時、バシッという音と共に砦の中にいる全ての冒険者達を激しい衝撃が襲った。




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