第40話 ハンター狩りにいこうぜ
「うわ、もう一匹いやがった!」
突如前方に現れた三人目のゴーストを見てワルドとライズボーンは足を止めた。
正面には俺、右後方からは由美子ちゃん、左後方からは愛がゆっくりと彼らに近付く。
ワルドとライズボーンは完全に退路を断たれた。
「くそっ、アルルの奴捨石にもならなかった!」
「ワルド、こうなったら一か八かの一点突破だ」
「そうだな……あの一番弱そうなゴーストなら突破できるかもしれん」
ワルドとライズボーンは由美子ちゃんの方向へ向かって走り出す。
「おらあっ、そこをどきやがれ!」
ワルドは手にした斧を由美子ちゃんに振り下ろすが、霊体である俺達にはそんな攻撃は通用しない。
斧は由美子ちゃんの身体をすり抜けその勢いのまま地面にめり込んだ。
「ワルド、構うな! このまま突っ走れ!」
ライズボーンは由美子ちゃんの横を走り抜ける。
「……抜けた! このまま逃げ切ってやる! ワルド、ついてこれるか?」
しかしライズボーンが後ろを振り向くとワルドは足を止めていた。
「どうしたワルド、急いでここから離れるんだ!」
「……」
ワルドからの返事はない。
それに先程までワルドの前にいたはずの由美子ちゃんや後ろのゴースト達の姿も消えている。
「あいつらどこへ行ったんだ? ……へ、へへ……そうか、俺達に恐れをなして逃げていったんだな? よし、このままプライズさん達の下へ戻るぞワルド」
「……」
「ワルド?」
「に……逃げろ……ライズボーン……」
ワルドは虚ろな目で声を絞り出すように言った。
「ワルド、奴らの攻撃を受けたのか? 大丈夫だ、俺がお前を担いでやる」
「……ち……違う、俺から離れるんだああああああああ!」
ワルドは手にした斧をライズボーンに向けて振り下ろした。
ライズボーンは間一髪それを回避する。
「何をするんだワルド!?」
「違う……俺じゃない……俺の身体の中にゴーストが入ってきて……うわああああああ」
ワルドは斧を投げ捨てるとライズボーンに飛びかかり馬乗りになる。
ライズボーンが動けなくなったところで俺は姿を現してゆっくりとライズボーンに近付いた。
「お、お前は逃げたんじゃなかったのか!? ワルドに何をした!? 俺達を一体どうするつもりだ!」
俺は無言でライズボーンに近付き、そのままライズボーンの身体の中に入り込んだ。
怨霊の得意技、憑依だ。
「あ、が、が、が……」
ライズボーンは悲鳴にもならない声を上げる。
その肉体が完全に俺の支配下になるまでさほど時間は掛からなかった。
今ワルドには由美子ちゃんが、ライズボーンには俺が憑依している。
そして離れた所にいるアルルには愛が憑依していた。
愛はアルルの身体を動かして安全な場所に移動させる。
後はワルドとライズボーンの二人をどう始末するかだ。
俺はライズボーンの懐からナイフを取り出すと、ワルドの胸元に振り下ろした。
「うぎゃあっ」
ワルドの悲鳴が響き渡る。
「ワルド、違うんだ! これは俺じゃなくてゴーストが俺の身体を操っている!」
「分かってる……俺も同じだ……う、うわああああああ!」
今度は愛がワルドを操り背中の矢筒から矢を一本取り出してライズボーンの右腕に突き刺した。
「ぐぎゃああああああ!」
ライズボーンは悲鳴を上げて暴れまわる。
腕に刺さった矢はポッキリと折れてしまった。
やはり細長い一本の矢では簡単に折れてしまう。
愛は今度はワルドに矢筒から三本の矢を取り出させる。
「や……やめてくれ……そんな物が刺さったら今度こそ死んでしまう……」
「だ、め」
愛はワルドの顔をライズボーンの耳元に近付けてそう呟かせると、手にした三本の矢を思いっきり振り下ろした。
「うぎゃああああ!!!」
三本の矢はライズボーンの胸を貫通した。
ライズボーンは僅かな間ピクピクと身体を痙攣させた後に動かなくなった。
「ああああああ……俺じゃない、俺がやったんじゃない! うわああああああああ!」
既にライズボーンは正気を失っていた。
もう十分だろう。
愛はワルドの身体を操って矢筒から矢を数本取り出すと、腰に掛けられていた弓を握りしめる。
「愛、何をする気なんだ?」
愛はふふんと含み笑いを浮かべると、弓に矢をつがえて真上に構える。
「奥義、流星矢!」
頭上空高くまで放たれた矢はそのまま重力に引かれ、雨のように降り注いだ。
その内の何本かはワルドの身体に突き刺さり、彼はハリネズミのようになって息絶えた。
「愛、いつの間にそんな技を覚えたんだ?」
「詩郎君知らないの? ゲームに出てくる有名な技よ」
「いや、知らんし」




