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第39話 最後の救出のチャンス




 アルルの救出に向かうのは俺と愛と由美子ちゃんの三人だ。

 イリーナとラミィを連れていかないのは、彼女達がアルルに近付くとその嗅覚によって居場所を知られる恐れがあるからだ。


 本当はイリーナも行きたくて仕方が無かっただろうが、これがアルルちゃんを救う最後のチャンスだ。

 万全を期すためには二人には留守番をして貰うしかない。


「詩郎さん、愛さん、由美子ちゃん……どうか妹の事を宜しくお願いします」


「おう、必ず無事に連れてくるから大船に乗ったつもりでいろ」


「アルルちゃんきっとお腹を空かせてると思うから、食事の準備をして待っててね」


 俺達はイリーナとラミィに見送られながら鈍異学園へ向かった。




◇◇◇◇




「うう……酷い臭い……」


 アルルは辺りに蔓延する強烈な腐臭に顔を顰めながらシトリーネの捜索を続ける。


「どうだアルル、まだシトリーネさんは見つからないのか?」


「ぐずぐずしてんじゃねえぞ。いつあのゴーストが襲ってくるか分からないからな」


「ごめんなさい、腐臭が邪魔をしてシトリーネさんの臭いを感じ取れません」


「ちっ、今までお前を飼ってやっていたのはその嗅覚に使い道があったからだ。役に立たないのならどうなるか分かっているだろうな」


「は、はい。きっと見つけますから……」


「分かってるんならさっさとしろ。口じゃなくて鼻を動かすんだ」


「はい……」


 ワルドは乱暴に紐を引っ張り続ける。

 あれでは満足に呼吸もできまい。


 アルルは村中に立ちこめる腐臭の中から微かに異なる匂いを嗅ぎ取り、その方角へ向かっている。

 その先にあるのは千徳村長の屋敷だ。

 丁度シトリーネも屋敷を後にしてこちらに向かって移動を始めたところだ。


 このままワルド達がシトリーネと合流すれば用済みとなったアルルの身が危険だ。

 ワルド達を始末してアルルを救出するのは今しかない。


 しかし奴らの事だ、うかつに仕掛ければアルルを盾にするだろう。

 万が一でも彼女を巻き込む訳にはいかない。


 俺と愛と由美子ちゃんはワルド達を囲むように三方向に分かれ、奇襲を仕掛ける事にした。






 ガサッ。



「誰だ!?」


 まずは由美子ちゃんが茂みを揺らしてワルド達の注意を引く。


「おい、右の茂みに誰か隠れているぞ……アルル、あそこにいるのは誰だ?」


「分かりません……何の匂いもしないんです」


「匂いがしないだと? ゴーストじゃないのか?」


「ワルド、俺達だけではゴーストには対抗できん、ここは迂回しよう」


「そうだな……ほら、さっさと歩けよアルル」


「きゃっ……強く引っ張らないで下さい……」


 ワルド達は来た道を戻り、横道から屋敷へ向かうようルートを変更する。


 しかしそうはいかない。


 彼らが戻る先に愛が姿を現し立ちふさがる。


「うわっ、あの時のゴーストだ!」


「くそ、逃げるぞワルド!」


 周囲に人魂をいくつか浮かばせながら顔の半分が無い虚ろな目をした少女がゆっくりと近づいてくる。

 ワルドとライズボーンは心臓が止まりそうなほど驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのはアルルちゃんだ。


「おい、お前も走れアルル……おい聞いてるのか?」


 アルルはぐったりとしている。

 ショックのあまり気を失ってしまったようだ。


「おいワルド、早く逃げるぞ」


「だがアルルはどうする? ここに捨てていくのか?」


「こんな役立たずはもう必要ない。捨石ぐらいにはなるだろ」


「そうだな……よし、行くぞライズボーン!」


 ワルド達の決断は早かった。


 勝てない敵に遭遇した時はまず逃げる事を第一に考えるのは冒険者としては正しい。

 しかし俺達の目的はアルルの救出だ。

 奴らはアルルから離れるべきではなかった。


 アルルを巻き込む恐れがなくなった以上、俺達は何の躊躇もなく奴らに襲い掛かる事ができる。


 奴らの逃走先で待ち構えていた俺はゆっくりと姿を現した。



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