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第37話 正義の置き土産

「シトリーネ様お帰りなさい。見て下さい、あの宝箱開けられましたよ! こんなのが入っていました! この壺自体もかなり値打ちがありそうですが、中に何が入っているのかも気になりますね!」


 そう言ってマルセリカはハイテンションで金庫の中に入っていた不思議な装飾が施された壺を掲げた。


「今はそんな状況じゃないけど、少しぐらいならまあいいでしょう。その壺の中身を改めたらすぐにゴースト達の対策を練りますよ」


「はーい」


 陶器製のその壺には蓋がされており、お札によって封印が施されていた。

 どう見ても何か悪しきものが封印されているとしか思えない壺だ。

 日本人からしたら思わず中身を改めるのを躊躇うような見た目だが、異世界人である彼らにはそういった感性はない。


「それではお宝とご対面!」


 マルセリカはお札をビリビリと破り一気に蓋を開けた。

 その瞬間壺の中から出てきたのはお宝ではなく、夥しい量の黒い霧が噴出した。


「うわっ、なにこれ?」


 マルセリカは驚きのあまり壺を放り投げる。


「これは……まずい! バリアウォール!」


 シトリーネは咄嗟に結界魔法を発動させるが、自分の身を守るので精いっぱい。

 他のギルドメンバーは一瞬にして全身に黒い霧を浴びてしまった。


「うわあああああああああ! 何だこれは!?」


「きゃあああああああああ」


「ごほっ、ごほっ、く……苦しい……」


 仲間達の悲鳴と怒号が響き渡る。


「なんて事……これは魔王の呪いに違いない……」


 如何に桁外れの魔力を有するシトリーネとはいえ、魔王の呪いには抵抗できない。結界の内側でその様子を黙って眺めている事しかできなかった。


「う……あ……」


 仲間達の悲鳴はやがて呻き声へと変わっていく。


「があああああああ!」


「ぎゃあっ!」


 ケルピムが手にした斧で仲間である魔法使いウーナの頭を唐竹割りにしたのが見えた。

 彼の意識は既に魔王の呪いによる狂気に支配されていた。


「くっ、このままでは全員同志討ちで死んでしまう……こうなったら……バリアウォール!」


 シトリーネは仲間達ひとりひとりに個室のような結界を作り出しその中に閉じ込める。


「があっ!」


 閉じ込められた冒険者達は結界を破ろうと得物を手に暴れまわるが、シトリーネの強大な魔力によって作り出された結界は傷一つ付かない。

 これで少なくとも同志討ちは避けられるはずだ。


 後は呪いを解く方法を見つけ出せば仲間達を助けられるかもしれない。

 ひとつ心当たりがある。


 聖女フィロリーネがまだ生きていればその聖なる力で魔王の呪いを浄化できるかもしれないとシトリーネは考えた。


 この村が六芒星の形をしている事は把握した。

 そしてその頂点に当たる場所には何らかの施設がある。

 そこを順番に当たればきっと生きている仲間達と合流できるはずだ。



「うが……」


「がああっ!」


 仲間達は結界の中で暴れ続けている。


「まだ助けられるかもしれないからしばらくこの中でじっとしてて」


 シトリーネは仲間達を結界の中に閉じ込めたまま、フィロリーネを探す為にその場所を離れようとした時だった。


「うがあ……」


 狂気に捕らわれたロンティアはそれでも普通の武器では結界が破れないと理解し、先程回収した猟銃を手にする。


 彼女のハンターとしての本能がその異界の武器の使い方を瞬時に把握させた。


 ロンティアは結界に向けて猟銃を構え引き金を引く。







 バァン!






 何十年も手入れされずにいた銃がまともに撃てるはずはない。


 銃は暴発し、ロンティアの身体をバラバラに吹き飛ばした。



「う……あ……」


 魔法使い達はそれに倣うように結界に向けて爆裂魔法や炎魔法を放つ。

 閉ざされた結界の中ではエネルギーの逃げ場がない。

 彼らは皆自らの魔法の威力に巻き込まれてある者は四肢を飛ばされ、ある者は灰となって息絶えた。


 魔法を使えない者も例外ではない。

 自分達の力では結界が破れないと分かると、その矛先を自分自身に向ける。

 自らが手にした刃を自らに向けて振り下ろし、皆自殺にも等しい最期を遂げていった。




 いかに強大な魔力を持つシトリーネとはいえ魔王の呪いに侵された仲間を救う手立ては持ち合わせておらず、仲間達が無残に死んでいく様をただ眺めている事しかできなかった。


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