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第14話 まずは天敵の排除を


 イリーナが身に付けていた薄汚れた布切れはまさに奴隷の証以外の何物でもなく、いくらなんでもこの格好のままでは可哀そうだったので、愛が自宅から状態の良い洋服を何着か持ってきてイリーナに与えた。


「ほらほら、女の子が着替えるんだから詩郎君は向こう行ってて」


「へーい」


 俺は自分の部屋から追い出され、イリーナが着替え終わるのを待つ。


「あ、これ似合うんじゃない?」


「お姉ちゃん、こっちのも可愛いよ」


「これはもう全部着せてみるしかないね」


 俺は隣の部屋で愛達の会話を聞いていた。

 愛はイリーナに自分のお気に入りの服を順番に着せていき、まるで着せ替え人形のように楽しんでいる。


「ねえ、まだ終わらない?」


「こら、覗くな!」


 そんなやり取りを何度か繰り返し、結局イリーナの着替えが終わったのは一時間程経過した後だった。


 イリーナは紺色のワンピースを身に付けて俺の部屋から出てきた。

 お尻の所には穴が開けられ、そこから狼の尻尾が顔を出している。

 いつの間にかぼさぼさだった髪もとかれてポニーテール状態に纏められている。


「この服どうですか? 変じゃないですか?」


 イリーナは恥ずかしそうに頬を染めている。


 こうして見ると本当にかわいい。

 身だしなみを整えるだけでえらい変わりようだ。


 思わず見惚れてしまっていた俺の頬を愛が思いっきりつねった。


「痛い、何をするんだ愛!」


「鼻の下延びてるわよ。何考えてるの?」


「うぐっ……」




◇◇◇◇




 新たに狼少女イリーナを仲間に加えた俺達は今後の行動について作戦を練る事にした。


 ゴーストの天敵となるとやはり僧侶ディアネイラと聖女フィロリーナの二人だ。

 できればこの二人が他のSランクの冒険者と合流する前に始末したい。


 昨夜の時点ではディアネイラは村の南東にある鈍異病院跡に、フィロリーナは北西の公園で他の冒険者達と行動をしていた事が分かっているが、その後どう動いているのかまでは把握していない。


 俺達は彼女達の様子を探る為にまずは鈍異病院跡の近くまで移動する。

 彼女達の現在地はイリーナの嗅覚をもってすれば突きとめるのは簡単だった。

 イリーナは少し離れた場所からも彼女の匂いを感じ取った。


 ディアネイラ達は昨日いた場所から移動しておらず、何かを待っているようだ。


 続いて北西の公園の近くまで移動すると、フィロリーナ達もまた公園の中でテントを張り、そこから動く様子は見られなかった。


 俺達は一旦村の北側にある鈍異学園の付近まで移動し彼らの動きについて検証を行う。


「昨夜からずっとあいつらは積極的な行動を起こしていない。これはどういう事だろう?」


「詩郎君、山で遭難した時は無暗にその場から動くなっていうじゃない」


「ああ、救助に来た仲間と入れ違いになる可能性もあるしね。プライズとかいう冒険者のように探索部隊を編成していないのは、ここが彼女達にとって未知の場所である以上、戦力を分散させて姿の見えない敵に各個撃破されるのを恐れているのかもしれないね」


 慎重さと臆病さは冒険者として生き残る為には必要な要素だ。


 しかし今回は完全にそれが裏目に出ている。

 これで俺達は彼女達が他の仲間と合流する前に襲う事ができる。


 まずは南東の鈍異病院跡に向かって僧侶ディアネイラから始末しようかと話が決まりかかった時だった。


 イリーナが何かに気付いたように鈍異学園の方角を向いて立ち竦む。


「どうしたイリーナ?」


「いえ、この匂いはアルルの……妹の匂いです」


「そうか、あいつらはイリーナが死んだと思っているからその代わりを召喚したんだ。これは厄介だぞ」


 アルルもイリーナと同じ狼の獣人ならばその嗅覚も同等のはずだ。

 他の冒険者の居場所も簡単に突きとめてしまうだろう。

 フィロリーナやディアネイラ達のグループが動かないのは、ハムールの召喚獣に見つけて貰うのを待っているからだ。


 それに俺達は今鈍異学園の風下にいるから気付かれていないが、風向きが変わったらアルルを介してイリーナが生存して俺達と一緒に行動している事が冒険者達の知るところになってしまう。


 最悪の場合アルルが人質にされる事も考えられる。


 既に俺達の仲間となったイリーナの身内を見捨てる訳にはいかない。

 ディアネイラ達の始末は後回しだ。


「イリーナ、君達の身内でハムールと召喚契約を交わされた者は何人いる?」


「妹のアルルと弟のカシュー……それから村の皆の総勢で百人以上になります」


「そうか。じゃあ、もしアルルを救い出せたとしても次の者が召喚されるだけで焼け石に水だね。元凶であるハムールを倒さないといけないな」


「そんな事できるんでしょうか?」


「ああ、俺達は日本が誇る怨霊だぞ。人を一人殺すだけなら訳はない。話を聞く限りではハムールという男は奴らの中でもかなり重要な人物だ。奴さえ殺す事ができれば他の冒険者達も意気消沈するだろうな」


 ……とは言ったものの、俺と愛は今日かなりの霊力を消費しているので消去法で実行役は由美子ちゃんという事になる。


 俺達は入念な打ち合わせを行った上でハムール殺害作戦の行動を開始した。




◇◇◇◇




「おら、グズグズすんな。さっさと行くぞ」


 鈍異村の校庭では首輪を付けられた少女アルルがハムールに折檻を受けていた。


「痛い、痛い! もう止めて下さい」


「うるさい。召喚獣風情がご主人様に逆らうんじゃねえ」


「うう……助けてお姉ちゃん……」


「いちいち泣くな鬱陶しい。さっきも言っただろ、イリーナならとっくにゴーストに殺されちまったって。本当に役に立たない奴だったぜ。これからはイリーナの分までお前にはしっかりと働いて貰うからな」


「そんなの嘘よ! あたしは信じない……」


「信じようが信じまいがこれが現実だ。お前はさっさとあいつらと他の仲間達を探す手伝いをしてこい」


 ハムールはそう言ってアルルの首輪に繋がっている紐を仲間に持たせる。


「いいかブリリアン、絶対にこいつを逃がすんじゃないぞ。召喚魔法も結構魔力を消費するんだからな。魔力が回復するまでは当分召喚魔法は使えそうにない」


「ああ分かってる。それまでこいつには精々働いて貰うさ。ほら、さっさと歩け」


 まるで古代ローマの剣闘士のような屈強な肉体を持つ斧戦士ブリリアンは乱暴に紐を引っ張り嫌がるアルルを無理やり歩かせる。

 その後ろからは彼の戦友であるハンター職のワルドと魔女ヒルダが続く。


「それでブリリアン、どっちを探索するんだ」


「そうだな、東の住宅地帯と思われる所は粗方探し終わったからもう調べる必要はないだろう。北は山と森しかなかったから残るは西と南だな」


「それじゃあ西の方から調べてみましょうか」


 校門を抜けたワルドは聖女フィロリーナのグループがいる西の公園へ向かって歩き出した。


 それを俺達と一緒に風下から眺めていたイリーナは気が気でないという様子だ。


 今にも妹を助ける為に飛び出していきそうな勢いだが、俺はそれを制止して言う。


「冷静になれイリーナ。今回の俺達の目的はあくまでハムールの殺害だ」


「分かっています、分かっていますけど……」


「アルルちゃんなら大丈夫さ。あいつらがアルルちゃんを乱暴に扱っているのは替えが利くからだ。ハムールさえ殺してしまえばあいつらはもう代わりの者を召喚する事はできなくなるだろう。そうすれば必然的に大切に扱わざるを得なくなる」


「……確かにそうかもしれません」


 完全には納得はできないだろうが、イリーナは俺の言葉に落ち着きを取り戻してくれた。


 ワルド達はあのまま聖女フィロリーナのグループと合流してしまうだろうが、ハムールを殺す事ができれば俺達にはそれ以上のメリットがある。


 それに今後アルルちゃんと連携が取れれば二重スパイとして動いて貰う事もできるしね。


 俺達はアルルちゃんの嗅覚に感知されないようにこのまま風下からぐるりと回って校舎の裏門から内部に侵入した。


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