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第11話 おふざけはほどほどに

 住宅地では朽ち果てた民家が生い茂った草木に飲み込まれるように覆われていた。


 以前何かの本で見た森の中に眠る古代文明の遺跡のような風景だ。


 ところどころ草に隠れるように犠牲になった村人達の屍が散乱しており、ラスタル達がそれを踏み潰す度にポキリ、ポキリと骨が砕ける乾いた音が響き渡る。


 俺達にはその音がまるで村人達の悲鳴のように聞こえた。


「ラスタル、本当にここはどこなんだ? ずいぶん前に滅びた村のようだが……」


「家の中を調べてみるか? 何か分かるかもしれん」


「そうだな、できるだけ頑丈そうな家にしようぜ。崩れ落ちて下敷きになったら敵わん」


「まったくだ」


 ラスタル達三人は立ち並ぶ民家の中で一番状態がよさそうな家に目を付けて入り口の扉を開いた。

 鍵はかかっていない。


 ここは愛の友人である滝本 重子(たきもと しげこ)さんの家だ。

 生前愛はよく遊びに来ていたようだが、俺は家の中に入った事はない。


 ラスタル達は土足で玄関から中に上がり込む。


 まるで友人の家に空き巣が入るのを見ているようで愛も内心穏やかではない。


 ラスタル達は靴箱の上に置かれた木彫りの熊や雉の置物など、目についた珍しい物を手で触れて調べながら奥の部屋へ進む。


 お茶の間のテーブルの上に並べられたままの食器は、あの悲劇が起きる直前までの平和だった日常を物語っていた。


 このウサギさんの絵が描かれたカップは十歳の誕生日に母親が買ってくれたという滝本さんのお気に入りだ。

 もしあの惨劇が起こらず、彼女が天寿を全うしていれば恐らく葬儀の際に棺桶の中に一緒に入れて貰っていたと思う。


「けっ、ただでさえ狭苦しいのに歩く邪魔なんだよ」


 ラスタルはお茶の間の中央に置かれていたテーブルを蹴飛ばした。

 吹き飛ばされた滝本さんのお気に入りのウサギのカップは無情にも壁に当たって砕け散った。


「何よこの人……!」


 それを見ていた愛の髪の毛が怒りのあまり逆立つ。


「おい、こっちに来てみろよ。何かお宝がありそうだぜ」


 ラスタルが進んだ先にあったのは滝本さんの部屋だ。


 女の子の部屋の中に土足で入り込む三人の荒くれ者。

 本人達にその気はなかろうが、俺達の感覚では気持ち悪いという感情しか湧いてこない。


 滝本さんの部屋の中には可愛らしいウサギやクマのぬいぐるみが並べられていた。


「なんだこりゃ? ゴミばっかりじゃねえか」


 ラスタル達はそれを無造作に掴んでは放り投げ、部屋の中を物色する。

 そして部屋の隅に置かれたクローゼットの前に立った。


「おい、この家具見てみろよ。えらく豪華な装飾だなあ」


「早く開けてみろよ。中に何が入ってるんだ?」


 ラスタルは無造作にクローゼットの扉を開く。


 中には滝本さんのお出かけ用のかわいらしいお洋服が何着も掛けられていた。


 長い間放置されていたそれは既に色褪せて虫食いだらけだが、彼らの興味を引くには十分だった。


「変わったデザインの服だな。少しサイズが小さいな、子供の服か?」


「ヒムロ、お前なら着れるんじゃないか?」


「おう、ちょっと貸してみな」


 氷魔法使いヒムロは三人の中で最も身体が小さい。

 ヒムロは身に纏ったローブを脱ぎ捨てるとクローゼットから取り出した真っ白なワンピースに身体を通すが、さすがに無理があってビリビリと破れてしまった。


 ラスタル達はその様子を見てゲラゲラと笑い転げる。


「おいヒムロ、お前まるでボロボロの服を身に付けたゾンビみたいになってんぞ」


「それに全然似合ってねえな。それ女物じゃねえのか? それともお前まさかそっちの気が……」


「ねえよ。馬鹿かお前ら」


 ヒムロは悪態をつきながらワンピースを乱雑に破り捨てローブを着直した。


「ん? こっちには何が入ってるんだ?」


 ラスタルはクローゼットの中に小さな引き出しを見つけた。


「なんだこれは?」


 引き出しの中には折り畳まれた白い布と、二つのふくらみをもった変わった形の物が大量に入っていた。


「あ、パン……ブラ……」


「詩郎君、あんたは向こうに行ってて」


「はい」


 俺は愛に言わるままに外に出る。


 ナニモミテイナイヨ。




 俺は外に出ていたのでここから先の一部始終は後から愛と由美子ちゃんに聞いた話だ。


 冒険者達は白い布を手にしてこれが何なのかを吟味する。


「お宝じゃあなさそうだが……どう使うんだこれ? お前たち分かるか? くんくん……変わった匂いがするな」


「こうやって使うんじゃないですか? 名付けてホワイティマスク!」


 ヒムロは白い布を伸ばして頭に被ってふざけている。


「俺の氷結魔法でこのマスクのようにお前らの視界を真っ白に染めてやるぜ!」


「ははは、なんだそれ」


「それならこっちのはこう使うんじゃないかな」


 デザーフォは二つのふくらみがある長細い物を目隠し代わりにして弓矢を射るポーズをとる。


「ぎゃははは、なんだそれ。拷問道具か何かか?」


「違うな。あえて視覚を閉ざす事で心の目で敵の場所を感じるんだよ。これぞデザーフォ流弓術奥義心眼射ち!」


「いいなそれ。今度実戦で試してみろよ」


「そうだな。それじゃあこいつをいくつか持って帰るか」


 デザーフォはその布を外すと懐に仕舞いこんだ。


 繰り返すが本人達にその気はないだろうが、俺達の感覚ではこれらの行動はどう見ても変質者のそれだ。



 プチッ。


 愛の血管が切れる音がした。



「全員死ね」



 次の瞬間、滝本さんの家の屋根に凄まじい圧力が加わり、轟音を上げながら一瞬で倒壊した。



 ラスタル、デザーフォ、ヒムロの三名は自分の身に何が起きたのかを把握する暇すらないまま落ちてきた天井に押し潰されて死んだ。


 怨霊にとって対象の恐怖心は糧になるが、恐怖を与える前に殺してしまってはただ霊力を消費するだけだ。


 それが分からない愛ではないが、彼らの行動は愛にとっては理性を失わせるには充分すぎる程の暴挙だった。


 霊力を使いすぎた愛はハァハァと肩で息をしながら言った


「ごめん、こうなるって分かってはいたけど……ついやっちゃった」


「あはは、あの人達本当に気持ち悪かったからしょうがないよね」


 由美子ちゃんはそんな愛を咎めるでもなくただ苦笑していた。



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