5話
あたし達は本番の文化祭までルールを作った。
①毎週水曜日は一緒に帰る
②ネタ作りしたら、その都度ネタ合わせ
③今日からお互い、下の名前で呼ぶ
「じゃ、また明日。こよみ」
「ばいばい、さなえ…って何か恥ずいな、これ。」
「いや、付き合いたてかよ」
「あはは!今の漫才ぽかった」
「こんなん序の口や」
* * *
寝る前に今日の事を思い返して、ふと思った。
(あたし完全に食わず嫌いやな。
あんな真面目ちゃんがお笑い芸人になりたいなんて、
さなえと話さな絶対分からんかったなぁ。)
あんな熱心に相方にしたいとお願いされたし、
少しでも期待に応えようと、自分でも不思議なくらい燃えてた。
「は?もう一回言うて」
「文化祭で漫才するから」
「誰と?」
「同じクラスの飯島さん」
「え?まじで言うてる?てか飯島って確かめちゃくちゃ頭ええよな?」
「そうなん?やっぱ見た目通りなのね」
予鈴前とお昼休み、廊下で立ち話するのが
最近あたし達のお決まり。
昨日の事をこっちゃんに報告すると
予想通り食いついてくる。
「まじでビックリやねんけど」
「うん、あたしが一番ビックリしてんねんけどな」
「頼むからスベってくれ。大笑いしたるから」
「なんでやねん。名前書いたうちわ持って応援せんかい」
「いや、アイドルちゃうねんから。冷めたほっそい目で見たんねん」
「元から細いのに周りから寝てるって勘違いされるやん」
「なにおぅ?!」
いつものノリでこっちゃんとしばき合ってたら
前からさなえが歩いてきた。
「お。相方登場」
「さなえ!おはよ!」
さなえはビックリした顔をして、
無言でお辞儀をして、そのまま教室に入って行った。
「なに今の?お前らほんまにコンビ組んだ?」
「う~ん、どうしたんやろ…」
(昨日楽しく話した子とは同じと思えんくらいの態度やった。
あたし何かしたっけ。)
とか、考えてるとあたしに手紙が回ってきた。
先生にバレないように静かに紙を開いた。
”さっきはごめん。
昨日言うの忘れてたけど
学校では出来るだけ話しかけんといて。
陰キャの私と、陽キャラの佐藤こよみが
文化祭で漫才するって言うギャップでびっくりさせて
笑いに持って行こうっていう作戦やから。
漫才することも当日まで内緒にして。
よろしく。
さなえ”
なるほど…あんたの本気がうかがえるわ。
あたしは静かにノートの端をちぎって、先生の眼を盗みながらペンを走らせた。
”無駄に達筆やな”
この7文字だけでかでかと書いて
さなえに渡してと隣の子に、お願いした。
少ししてさなえに視線を向けると
必死に笑いを堪えるために、肩が震わせているのが分かった。
(うわ、さなえわろてる!気持ちええ!)
やっぱりささいな事でも
人を笑わせるのって気持ちええな。
こういう気持ちを伝えたら、さなえは喜んでくれるやろか。