3話
「んで、どやったん?」
「明日からインキャの仲間入り決定や…しにたい…」
見るからに真面目で固いクラスの雰囲気を変えようと
持ち前のギャグを披露したら大いにスベった。
今まで感じたことない苦痛を味わったあたしは、隠れるように素早く着席した。
そして1秒でもあの空間から消えたくて、ホームルームが終わった瞬間
逃げるように教室から出た。
「くははっ!あかん、我慢してたのにわろてもた!」
こっちゃんは普段、大笑いせんけど
あたしがスベったら嬉しくて笑いが止まらんらしい。
「全く笑えへんねんけど!もう記憶喪失なったろか!」
「お前のギャグ笑わんとかそいつら相当ツボ深いな~」
「なんなんあいつら。
ロボット?サイボーグ?あたしのギャグ笑えへんようにプログラムされたんか?!」
辛い~と連呼するあたしを横目に
こっちゃんはずっと嬉しそうに笑ってた。
「でもまあ、人生なにがあるか分からんから。これをきっかけにお友達が増えるかもよ。」
「いや…今頃、みんなの中で変質者扱いされてるはずや…」
「大丈夫やって!こよみは学校では目立ってる方やし中川も言うてたけど、すぐ馴染むやろ!」
「ん~、ぼちぼち頑張るわ」
「おぅ、がんばれ、じゃまた明日」
お互い小さく手を振って別れたあと、
1人になるとすぐにスベった事がフラッシュバックして
晩ご飯の時間まで、胸の中がモヤモヤして気持ち悪くなった。
「新しいクラスはどやった?」
「う~ん、お世辞でも良いとは言われへんかも」
「ふーん、そうなん、がんばりよ」
ウチはいつもこんな感じ。
あたしは今でこそめっちゃ明るいけど、
小学校の頃ただみんなを笑わせたくて
授業中とか無駄に発言してた。
嫉妬なんかしらんけど、そんな私が気にくわんかった子達に無視されたり、いじめられて、泣きながら家帰った事があった。
最初はいじめられてると思いたくなくて、耐えてたけど
その時はさすがに辛すぎて、いじめられてる事を告白した時、お母さんは頭を撫でながら
「そんな子はほっといたええ」
この一言で片付けられた。
学校に電話を掛けるとか、いじめてる子の親に真実を突き止めるとか
そんな事は望んでなかった。ただ、辛かったねって、話を聞いて欲しかっただけ。
その後はショックすぎて覚えてない。
この頃くらいからお母さんに不信感を抱くようになっていたのかも知れない。
「ごちそうさま」
「こよみ。高校卒業したらどうするか、そろそろ決めときや」
やっぱりこういう時しかあたしに興味もたへん。
「あ、うん。分かった」
「ほんまに分かってんの?また話してや」
「はいはーい、じゃあ先にお風呂入るわ」
部屋の豆電をぼーっと眺めながら、将来の事を考えてた。
(勉強も嫌いやし、やりたい仕事もパッと思い付かんなぁ。
お母さんから反対されるのめんどくさいし、無難な事選ばなあかんなぁ。
…あたしは人生まで親に決められるんかぁ。
…あたしって何に向いてるんやろ。あ、その前に明日学校嫌やなぁ………)
そんな迷路の中を辿っていたら、あっという間に夢の中やった。
「へ、帰った?」
「おー、今日バイトらしいからソッコー帰ってたで」
「あ、そーやん…今日、水曜日か…ありがとっ!」
こっちゃんは水土日に、ガソリンスタンドのバイトしてる。
今日が水曜日なのをすっかり忘れてた。
(ちよちゃんも部活やしな〜…しょうがない、今日は1人で帰ろ。
愚痴聞いて欲しかったけど、たまにはこーゆー日があってええか。)
そう思いながら校門を抜けた。
「なあ、佐藤さん」
「え?」
完全に上の空な時に
聞き覚えのない声にビックリして足が止まった。