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笑殺~女芸人ってのは~  作者: 新口華
1/6

1話

笑いは実の青いうちに摘んではならない

-古代ギリシャ哲学者 プラトン-




「はあはあはあ…」


床と上履きが素早く擦り合って、誰もいない廊下に鋭い音が響き渡ってる。

家からずっと走りっぱなしのあたしの太ももは限界を超えて、

少しでも止まれば生まれたての子鹿のように震えるかも。

しまいに口の中は鉄の味が広がってる。


「待たせたなっ」


教室のドアを勢いよく開け、肩で息をしているあたしを

先生とクラス全員がまたかと言わんばかりの顔で見ている。

その視線達から逃げるように苦笑いで視線を先生に向ける。


「おー、待ちくたびれたわ、はい、この問題解き〜」

「す…す…すいません…代わりに佐々木くんが解いてくれるそうですっ!」


あたしに向けられていた全目線が佐々木くんに向けられる。

彼は後ろから2列目に座っているけど

冷めた顔であたしを見てるのが分かった。


「来て早々むちゃぶりえぐいな、自分で解けよ」

「え!あたしら、べすとふれんどやん!」

「いやいや発音おわってんな、Best friendやから」

「うわ、きも、もっと他に極める事あるやろ」


あたし達のやり取りに教室がクスクス笑う声がで包まれる。

その笑い声を打ち消すように、手を叩きながら先生が間に入ってくる。


「佐藤、ウケてへんからそのへんにして座らんかい」

「え~?さっきのボケだめですか?」


クラス中がもうええってと一斉につっこむ。

そう言いながら、みんなさっきより笑ってるけど。


あたしの日常はこんなもんや。


「こよみ、お前どないすんの」

「ん?分かるように話して?」

「いや、分かってるくせに。高校卒業したら、どないすんの」

「あー!皆その話!こっちゃんまでやめて〜や!」


あたしが最近1番苦手な話し。

考えんようにしてたのに。

耳を塞ぐ素振りをするけど

佐々木浩介(ささきこうすけ)こと、こっちゃんはお構いなしに続ける。


「いや真剣に、もうすぐ高3やで?進学か就職かは考えーや」

「うん…そーゆーこっちゃんは?」

「俺は東京の大学いくよ、ずっと言うてるやん」


少し不機嫌そうにそうつぶやくと、ポケットに手を突っ込んだ。

こっちゃんは背が高くてスタイルも良い、大きくないけど奥二重で綺麗な目。

頭の回転が早いから何を話しても面白いし

あたし達は高校から出会ったから、よく知らんけど

中学時代からみんなのツッコミ役で人気者やったらしい。

それは今も変わらんけど。


「あぁ…あなた無駄に頭ええもんな」

「まあな?」

「…あえて突っ込まんとく」

「突っ込めや!俺滑ってるみたいやんけ!」

「滑ってますよ!」


こっちゃんは素早く後ろに回り

抱きつくみたいに首を締めてきた。

離せ~!と腕に手をかけるけど、鍛えてもいないのにたくましい彼の腕は固かった。


「くっ苦しい!しぬしぬ!…佐々木ファンに見られてたら炎上するから!」

「またそれかよ!ほんまにやめてくれ!」


そう言うと首の締め付けから解放された。


「なんでよ!ええことやん!もうすぐ1年生入ってくるし、もっとモテるんちゃう?」

「興味ない。あいつら俺が体育の時、授業聞かずに俺見てるらしいねん…見張られてる気しかせん!俺は囚人か!」


うん。知ってる。

隣のクラスの中島さんがそうやったっけ。

てか、他のクラスほぼそうやったっけ。

お気の毒に。

あたしはそーゆーことに興味ないから気持ちが分からん。


「こっちゃんは、好きな人おらんの?彼女作らんの?」

「そんなん考えたことない!今は受験のことで精一杯や~」


中学の時一度だけ付き合ったことがあるって、噂で聞いたことを思い出した。

あたしはおもしろがって話そうとするけど、こっちゃんはいつも露骨に恋愛話を避けたがる。


「えー、なにそれ、絶対誤魔化しとぉ!」

「まあまあ…てか、いっつも俺と一緒に帰ってるお前は大丈夫なん?」

「大丈夫…みんな寄り道してるやろうし、あたしらめっちゃ仲良しやん?」


あ、その顔で見るのやめてよ。

この話したらいっつもその顔や。


「…おばさん、相変わらず?」

「ん~…でも最近マシになったかな?」


考えるふりをしながら目線を他に向けて

少しでも気まずい空気を誤魔化した。


「周りからいろいろ誘われるんちゃうの?」

「あたしを誘ってもどうせ断られるやろなって、みんな誘ってけーへんねん」

「そうか」


そう呟いたあと

靴のつま先ばかり見るあたしを気にして

こっちゃんは家に着くまで違う話をしてくれた。


「ただいま~」

「おかえり、ご飯出来てるよ」

「うん、着替えてくるわ」


うちはすごいお母さんが厳しい。

寄り道あかん、お泊まりあかん、休みの日は遊びに行けるけど

門限めっちゃ早いから友達に気遣わせる。

逆に何はええねん?


家におるのがすごく窮屈。

ずっと部屋に引きこもりたいくらい。

うちの母親はすごく厳しくて、非行に走らんかった自分を褒めてあげたいくらい。

いつからか、あたしこの家の子供に向いてないんじゃないかと

思ったり、思わなかったり。

母の機嫌に合わせるのがいつの間にかしんどく感じていた。


「はぁ………」

いつまでこんな日が続くんやろう。

あたしが変わらなあかんの?


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