鏡
私は映画の撮影で、内視鏡検査を受けていた。監督からどんな死に方が嫌だろうかと聞かれ、胃癌だと答えたからかもしれない。先日も同じ検査を受けたばかりだ。以前は口で、今度は鼻だ。管が脳髄をこするような感触。カメラがしっかりと自分の内部をまじまじと撮影する。私はあらゆる嘘を吐かなければいけない。至って健康なのに、末期癌患者を装う。脂っこいものも苦手なのに好きだと言い続け、その結果、胃癌の腫瘍が見つかったと医師から結果を受け落胆する男になる。やせ細っていく姿を説明するのもひと苦労で、撮影だと言ってもなかなか信じてもらえない。Twitterで紹介された病院は撮影でお世話になったのと一緒でこいつはテレビで使えるなと冗談を役者仲間と言い合うぐらい私は健康なのだが。
毎晩鏡に映る身体のどこにそんなものが存在するのだろうかと腹の辺りをさすってみる。私のその仕草を妻や子供たちはくすくすと笑う。かたや彼女役の俳優は私を抱きしめ涙を流す。